第57話

 葬式が終わり、家に帰る。すると、珍しく郵便ポストに僕、繁田紫苑宛の封筒が入っていた。宝物のようにそっと開ける。黒いチューリップの絵が添えられたお手紙だった。


 紫苑さんへ。

 手紙を受けとりました。あなたのその厚意にあなた自身が後悔しないように努めるべきだと思います。でも、それって結局逃げてるんじゃないかな、とも感じます。私たちは出会ってから逃亡し続けていました。逃亡は良いことばかりではありません。もう私は逃げ続けることに飽きました。そう言っておきます。だから、私の行動に後悔しないでください。それを台にして飛び越えてください。

 初めてあなたに会ったとき、一目惚れをしました。紳士的で頭の切れるあなたは私の理想そのものでした。まだ幼かった私はあなたを困らせましたね。幼いと言っても三十歳手前でしたが。その時は間反対の関係でした。警察官と容疑者。誰がそんな二人が結婚すると予想したことでしょう。あなたが私を想う気持ちを告白してくれたときは、死んでもいいと感じるくらいに嬉しかった。今でも絶頂にあったあの時の鼓動を覚えています。幸せ者だと自負していました。今でも、その気持ちは変わらないです。お互いに守るべきものがあったからこそ、私たちは互いを探していたのかもしれません。だとしたら、凄い奇跡じゃないかな。あなたと過ごした日々は、ずっと頂上にいるような感覚でした。だからこそ、別れる時は、死にたいくらいに苦しかった。それだけ、幸せだった証拠です。私もあなたの幸せを何よりも願っています。

 生きる意味を教えてくれてありがとう。

 私の死に意味を与えてください。

 繁田茜


 ポツリポツリと手紙に雫が着地した。

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机の上の一万円札が盗まれた。 綾日燈花 @Tiramis

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