第18話

「お父さんとお母さん、離婚することにしたの。」

 皆が揃うリビング。そのリビングは空き家のような静かさに包まれた。

 外に車が走る音だけが響く。心地の悪い静かさに顔を歪める。

 誰一人として、口を出さなかった。この状況は想像していたのだろう。父が場を和ます。

「会えなくなるわけじゃないんだ。」

 会えなくなることを知らない父がそう言った。

 悲しい?そう問われたら悲しいというのかもしれない。しかし、そのような表面上の言葉にはまだ表せなかった。空っぽになってしまったバケツのような虚しさが心に張り付くだけだった。言葉でそのバケツを覆うようにしたとしても、中身が埋まるわけではない。まだ実感が湧かない、という答えが一番近いだろう。

「俺たちはどうなるの?」

 何の表情も映らない緋弥の口から言葉が飛び出た。頭が回るより先に口を開いてしまったような、淡々とした声だった。

「まだはっきりとは決まっていないんだ。」

 父は穏やかな顔をしてそう言う。

「だけど、睦空と望卯は私のところにいて欲しい。」

 次に母が声を出した。なぜ私が?どうしてお兄ちゃんも一緒に?不安よりも疑問の方が大きかった。兄の方へ、静かに視線を向ける。その視線は一方通行だった。

「そして、如紀と緋弥お前たちはお父さんのところに来なさい。」

 一度目を合わした姉と父は、再び目を逸らした。姉は眉を顰めてスマホへ視線を戻した。

「私は?」

 一人取り残された皐奈ちゃんが不安そうに声を上げる。

「好きにしなさい。」

 皆の頭にはてなが浮かんだ。何かこの振り分けに大きな意味が隠されているような直感がした。しかし、一人考えても結論を導くことはできなさそうだ。

「じゃあ私はお母さんの方に行く。」

 まだ幼い少女の決断に、母は温かい眼差しを向けた。おそらく、同性の親の方が過ごしやすいからだろう。


 そして、私たちは別れた。犯人の正体が明かされないまま。

 再び交わったのは、皆が成人してからだった。

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