第10話
旅行から帰ってきて、現実に引き戻された私は、犯人探しを進めることにした。
次は難関の姉だ。姉は目立たない。少なくとも家族内では。それは存在感がないとかではなく、単純に声を上げないからだ。いつもスマホに夢中で話を聞いてくれるのかも危ういくらいだ。それなのに、爆弾発言を急にしたりする。口調が厳しくなる。人は皆、自分の中に隠し込むよりか、発散した方がいいと言う。でもそれは結局自己満に過ぎない。自己満のために相手を傷つけるなんて私にはできない。だから如紀ちゃんは苦手という部類に入っているのだ。
他にも理由はある。幼い頃の記憶の中に姉がいないのだ。いつも遊んでくれたのは兄だけだった。それを責めたことはないし、悲しいと嘆いたこともない。別に和解しようとも思わない。喧嘩しているのではなく、冷戦を生まれてから続けているだけだ。それを問題視しないのは問題なのだろうか。
とりあえず、ラインで、話がしたい、と送ったものの返事が返ってくるかさえわからない。緋弥のときとは別の緊張感があった。
ふと、私が一番落ち着く場所を考えた。やはり自分の部屋なのだろうか。
友達と家族を選べと言われたら私はどっちを選ぶのだろう。やはり家族なのだろうか。
そんなことはどうでもいいか。とにかく、姉に話を聞き出すことだけを考えよう。できる限り簡潔に伝えるべきだ。
幸運にも返事がきた。いーよ、という簡潔な返事が姉らしい。何も考えずに部屋にお邪魔した。ぬいぐるみや有名人のポスターなど、姉の好きなもので埋まった可愛らしい部屋だ。おしゃれの部類に入るのかわからないが、インスタ映えしそうな部屋である。
「それで、話って?」
姉はスマホから目を離して、私に視線を向けた。
「この間食事中にお母さんが話してたでしょ?お金が盗まれたって。」
姉はゆっくり頷いた。
「なるほど。それで私を疑ってるってわけね。」
確かにその説明で間違ってはいない。
「いや、如紀ちゃんを特定的に疑っているわけではないけど。」
「ふーん。まあどっちでも変わらない。」
きっぱりとそう言われた。返す言葉が見つからない。曖昧に頷いた。
「じゃあその捜査に協力するけど、私だよ?盗んだのは。」
そうだね、と思わず言いそうになる。
え?あまりにもストレートに告白されたので、何が何だか頭に入ってこない。
「それはどうゆう、あれ?意味?」
「難しい質問だなあ。そのまんまの意味なんだけど。」
姉は嘲笑いながらも真剣そうな眼差しを見せていた。それは本当なの?
「動揺してくれてるならありがと。わざとでも。」
「いや、わざとじゃないよ。」
食い気味に否定する。姉はふーん、と苦笑いをしていた。こうやって調子を崩されるところも苦手だ。
「お母さんに告発するなり好きにして。」
まるで興味が無さそうだ。自分がしたって言うのに。
「じゃあ最後に聞くけど、全部ほんとのことなの?」
うん、と彼女は頷いた。
「なんで?盗んだりしたの?」
「大した理由はないけど?お金が足りなくなっただけ。ちょうど良いところにあったから、使っちゃった。」
テヘ、そう付け足す姉を黙って見ていた。
「何よ?その目は。」
ごめん、と即座に謝る。ふーん、姉は笑う。やっぱり苦手だ。姉のふーんが苦手だ。そして何だ、この理由は。大した理由ではないではないか。
「ただね、全部じゃないのよ。半分だけ盗んだ。もう使い切ったから探しても無駄だけどね。証拠はないけど、本人がこう言ってるんだから、それで良いでしょ?」
窃盗という行為を大したことないかのように喋る。自分の行動に責任を持てっつうの。
「もう聞くことはない?」
「ないけど。出てけって?」
姉は片方の頬を吊り上げて微笑む。出てけと言われているようで腹が立つ。
振り返らずに外に出た。いつもより強く戸を閉めたつもりだが気がついただろうか。相手に届かなかったらどんな意地悪も意味がない。
なんだかあっという間の時間だったが、とんでもない情報が集まった。あまりにも呆気なさ過ぎて、本当なのだが疑ってしまう。嘘だとしても真実にしといて、誰も損をしない。私も損をしない。嘘だったとしてもあの人が騙したと言うことになるのだから、私に問い詰められるような点はない。
一件落着ということで良いのだろうか。
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