第7話

 結局、何も聞き出せなかった。ただ単に幸太郎くんの逃走劇を聞いただけで終わってしまった。元々彼女に何もやましいことがなかったのだと思えば、損はしていない。時間は無駄になってしまったかもしれないが、親睦を深めるという意味では、無駄ではなかったはずた。

 次は緋弥に話を聞こう。難易度的には段々上がっている気がする。

 彼は時期的に仕方ないのかもしれないが、生意気だ。三女ちゃんのように素直ならば、簡単なのに。しょうがない。

 同じ方法でアポを取った。何を話せばいいのか不安で、前回は楽しみもあったのに、今回は不安ばかりで一日が憂鬱だった。やっと一日が過ぎていって、夕方になった。学校帰りにどんな感じで話を切り出すか、考えていた。気を遣って遠回しに行っても、意味ないだろう。直接聞くというのが妥当だという結論になった。

 私の部屋には呼びたくなかったので、私から向こうの部屋へ行くことにした。一人一人の部屋がある廊下を静かに歩く。彼の部屋の前まで来て、トントンと二回ほどドアを叩く。

「はい。」

 無愛想な返事が返ってきた。気持ちはさらにどん底へ突き進んでいく。

「ごめんね。時間作らせちゃって。」

 謝っておいた方がいいだろう。本心かどうかは別として。

 「別に、いいけど。どうしたの、急に?」

 前回は雑談から入ったが、この人と雑談なんて三十秒も持たなそうなので、初めっから本題に入ることにした。

「この間の盗難の件、知ってることない?」

 彼は首を傾げた。

「望卯はどうゆう立ち位置なの?」

 質問を質問で返されるなんて、想定外だ。立ち位置と言われても何も答えられない。

「自ら進んで聞き回ってるの?」

「違うよ。お母さんに、そう言われたから。手伝ってるだけ。」

 ふーん、と興味なさげに納得した。興味がないのになんで聞いたんだ、という気持ちだ。

「じゃあ親孝行してるとこ悪いけど、何も知らない。」

 親孝行って。言い方がいちいちムカつく。

「そう。」

 こちらもでしょうね、というような感じで返した。

「あとさぁ、そんな聞き回ってても誰も言わないんじゃない?」

 ほお、なるほど?

「なんでそう思うの?」

 誰もニコニコしていなかった。どちらも喧嘩腰だった。こう発展したことに関しては私は悪くないと思う。

「仮に犯人がいたとして、こいつが自ら申し出ない限り、お前が聞き回っても結果は同じだと思う。もしも、お前に尋問の技術があるなら別だが、今のところその腕は無さそうだ。」

 なんと、失礼な。私が力不足だから解決しない、とでも言うかのようなその口調がムカつく。

「じゃああなたにできるの?」

 思わず声を荒げた。だってあんな言い方されたら仕方ない。

「そうやってすぐに声を荒げるところ、馬鹿に見えるからやめた方がいい。」

 彼は冷静にそう呟く。涙が出そうなほど、ムカついた。ただただ暴言を吐かれるよりも、そうやってまるで自分が正しくて、私が間違っているかのような言い方をされることに、本当に腹が立った。

 何も言わずに部屋を出た。また、何か言われるだろうか。馬鹿馬鹿しいなんて言われるだろうか。

 あいつの言うことなんて、間違っている。いや、間違っているかはわからないが、あいつの言う通りにする必要はない。

 言い返してやりたかったけれど、あいつに対する悪口は小学生みたいなものしか思い浮かばなかった。うざい。生意気。馬鹿。それではまた、大人びた言葉で返されるだけだ。それが一番に悔しかった。

 自分が正しいことを言うかのように振りまいたい、そう言う時期なのだ。だから仕方ない。私の方が歳上なのだから、我慢してあげよう。そう思うことでしか、自分の惨めさを隠すことができなかった。

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