第5話

 そう言われたものの具体的に何をすればいいのか、あまりわかっていない。漫画や映画の主人公のように、難解な事件を六十秒もせずに、解くことなんてできない。大抵そのような場合は自分にできることを探して、結果的にそれがいい方向へと活用されるのだが、そんな特技なんて私にはない。学業も運動神経も平均より何点か高いくらい。バレーボール部に入っているのもあって、球技はある程度得意だが、クラスの中で目立つほど得意なものもない。別に憧れられたいわけではないけれど。友達も困らない程度にはいる。朝礼の前、そして五分程度の休み時間に、自分から行けば快く話してくれる。相手から自分の机に来ることはたまにあるくらい。でも私にはそれくらいが丁度良い。ある程度の自由と友達という繋がりが保たれた快適な関係にあった。自分はとても満足していた。

 というわけで私にできることは一ミリもない。しかしら見守れと言われていただけなので、本当にそうしているだけで良いのかもしれない。

 常々感じることを言うと、私はおそらく、いつも誰かの傍観者、なのだろう。私の人生では主役なのかもしれないが、世間から見れば明らかに脇役。でも悲しいわけではない。虚しいだけ。その役目に満悦していた。主役と脇役、分かれているのならば、私は脇役でいい。


 もう今日は寝よう。盛りだくさんな一日、いや、一日ではないか。夜、だった。じっくりと考えて答えを導くという作業は、私には容量オーバーしてしまう、らしい。

 お気に入りの歯ブラシで、今日も歯に感謝を伝える。いつもありがとうございます、と。何事にも感謝を述べるようにはしている。

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