第181話 修行僧
「ビュオ〜ビュオ〜」
流石に市街地に直接降下するのは不味いよな。ちゃんと門から入るか。
「トン」
余裕を持って減速し、人目につかない所に着地する。
「財布をくれ。」
(了解しました。それにしてもちゃんと正面から入るんですね。)
「まあな。いつ衛兵に声を掛けられるかと思うと不安でしょうがないからな。精神的余裕がほしい。」
髪の色は変えてるといっても素顔はそのままだ。あまり目立つわけにはいかない。
(そうですか。…まずは昼食ですかね?)
「うーん、そうだな。ちょっと早いけど、食えるときに食っとくのは旅のセオリーだからな。」
店が街道にほぼないからなぁ。お腹を満たすとしたら狩りか野草の採集ぐらいしかないってひどすぎるだろ。弱者は移動すらままならない。
(ではオススメの店を調べておきましょう。)
「頼んだ。」
パールと話しながら門へ向かうと行列ができていた。
思ったよりデカイ都市だな。そりゃ、こんな都市じゃないと偽造の冒険者カードなんて流通しないか。
大人しく列に並んでいると、俺の平穏を脅かす者が話しかけてきた。
「おっ、少年。君も旅か?」
キタキタァー、これも俺が馬で旅をするのが嫌な理由の一つだ。子供が一人で旅しているのが珍しいのか、たまに話しかけてくるやつがいる。俺が何をしようと俺の自由なんだから放って置いてくれよ。
「…ああ。」
「若いっていいねぇ。俺の名前はヒルデガオンって言うんだ。君の名は?」
「…メネラウス。」
強いな、コイツ。こんなに話しかけんなオーラ出してるのに話しかけてくるとか、メンタル強者すぎる。…いや、俺もラギーナに話しかけまくったから同類か?
「メネラウスかぁ。何か旅の目的でもあんの?」
黒に近い青の長髪を後ろで束ねているダンディ系おっさんがなおも聞いてくる。イケオジとか前世で関わったことないからどう対処したらいいか分からん。
(単純にうぜぇ。ここまでしつこいのはなかったぞ。)
(それをこなしてこそ意思疎通能力が向上します。頑張ってください。)
頑張れって当事者じゃないやつに言われても腹が立つだけだ。頑張れって言うやつもそれ相応の苦労しろ。その苦しんでる姿が活力になる。
「…強いて言うなら見聞を広めるのが目的といったところか。」
「見聞を広めるとか難しい言葉を知ってるんだなー。今までどこを見て廻ってきたんだ?」
「まだ始めたばっかりだ。特にこれといったところはない。」
はやく列、進まねぇかな。ケルビンに入ったらすぐに撒いてやる。
「ほーお、なら俺が旅の作法を教えてやろう。」
「結構だ。すでにそういうので痛い目を見ている。それにそういうのは旅をしていくうちに自然と身に付くものだ。」
こう言っときゃ崩せないだろ、俺の論理を。ここまで言っても踏み込んでくるようなら俺の手には負えん。
「まぁまぁ、そう言うなよ。年上の言うことは聞いておくもんだぜ?」
こいつ無理だわー、年取ってるのが偉いのか? むしろ社会のお荷物だろ。次の時代を担うのは若者なんだから、テメェら老骨は引っ込んでろ。もっとも、俺が爺になったら思いっきり老害を発揮しまくるけどな。
「……………。」
「ありゃりゃ、嫌われちまったか。気分を害したなら悪かった。お前が小さい時の弟に似てたから、つい声をかけちまったんだ。」
(ここまで言ってるんです。許してあげたらどうですか?)
(嫌だね。こいつの言ってることが本当だってどうして断言できる? …それに雰囲気がおかしい。)
このおっさん、さっきから少しも魔力が漏れ出ていない。普通の人間だったらたまに漏れたりするのに。高水準で魔力を操作できている証拠だ。
「…あんたは何のために旅をしているんだ?」
「よくぞ、聞いてくれた!!」
…聞くんじゃなかった。自分から地雷を踏んでどうする。
「俺が旅をしているのは剣技を極めるためだ。」
「…剣技。」
「ああ。何だ剣技か、と思っただろ?」
「…まぁ。」
「クク、素直だな。俺は魔力はあるんだが魔法の適性がなくてな、身体強化しかできないんだ。」
エッグと同じか。でもそれで頂点に立つのは難しいだろうな。剣より魔法の方が強いと個人的には思う。
「なるほど。それで剣技を極めようと?」
「ああ。確かに普通の剣技じゃ魔法剣には勝てない。だが極限にまで高めればどうだ? それこそ秘剣と呼ばれるまで研鑽を積めば覆せるはずだ。」
そう言う男の目はキラキラ輝いていて直視できなかった。
秘剣ねぇ…、一度だけ見たけど、確かにあれなら可能性はあるか?
「秘剣を使えるのか?」
「いや、まだ使えない。だが方向性は定まってんだな~、これが。」
いや、使えないなら意味なくないか?
「参考までに聞いていいか?」
「うーん、別に言ってもいいが…、そうだ!!、メネラウス、お前一人で旅してるってことは結構腕が立つだろ? どうだ、俺と一戦交えないか?」
「…別にそこまでして知りたいわけではないから結構だ。」
「ふーん?、そんなこと言って本当は怖いんだろ? 分かる分かる、敗北って苦しいもんな?」
「ああ、そのとおり。」
安い挑発だな。そんなんで揺らぐほど、感情豊かじゃないんだ。実害がない限り、動く気にはなれない。
「…張り合いのない奴だな~。たっく、子供はのびのびしてりゃいいってのによ。」
「悪かったな。」
(違和感しかありませんもんね。)
(もう何でもいいから早く一人になりたい。人間の相手しんどい。)
(…末期ですね。)
「はぁ~、全く。可愛げがない。…メネラウス、俺は結構強い方だと自負している、どうだ?、俺の剣技を学んでみないか? 護身術は旅において必須だ。」
先程のチャラチャラした感じが消え、真摯な瞳で見つめてくる。
「どうしてそこまで俺に構う? ただの他人だろ?」
「さっき言ったろ? お前が俺の弟に似ているからだ。」
いや、それでもそんなに執着する? もしかしてお亡くなりになってるとか?
「…ふーん。」
「ふーんってお前。」
おっさんが苦笑してる。
でも本当に言うことがない。
「気持ちだけありがたくもらっとく。」
「そうか。しばらく俺はこの都市に滞在するからな、気が変わったらカスカの森という宿に来い。いつでも鍛えてやる。」
「一応頭に入れておこう。」
(聞いたな? 避難船で寝泊まりするとはいえ、一応カスカの森をブラックリストに入れとけ。)
(ハァ…、了解です。)
「次。」
やっと俺の番か。いつもより長かったな。このおっさんから離れられるのはありがたい。
「子供か。身分証はあるか?」
「いや、ない。」
ん?、何だこのやろう?
俺が敬語を使わなかったからか、門番の片割れが睨んでくる。だが、ここで退いては駄目なんだよな。冷たい目を意識して見返す。
「…そうか。なら銀貨5枚必要だが、払えるか?」
銀貨5枚か。最初に入った街よりも安いな。領主に裁量があるのか?
「…これでどうだ?」
「確かに5枚だな。…これを失くすなよ?、失くしたら面倒なことになるからな。」
そう言って渡されたのは青い紙。
…こんな紙のために俺は並んでたのか。パールに盗ませるか、調べさせて偽造させたらよかったな。やっぱ根がまだまともなんだろう。
「了解した。」
紙を受け取り、都市に足を踏み入れる。
「…広いな。」
(そうですね。トランテ王国西部地域の大都市のひとつですから。)
(ちなみに偽造カードはどこで買えるんだ?)
(マクラというバーで買えます。具体的に言うと、そこのマスターに明日は雨だろ?と尋ねることで特別な部屋に案内されます。)
(…明日は雨だろ? どういう意味があるんだ?)
(合言葉に意味を求めるのは間違ってますよ。)
(確かに。…ところでさ、今更な話なんだけど、お前が偽造するのは無理なのか?)
(中の魔法陣が分からないので無理ですね。マスターのカードを分析すれば分かりますが、億が一があるかもしれませんから。)
(そうか。)
カードの効力がなくなる可能性があるのは容認できない、俺の将来のために。
とりあえず昼食を食べるところを探しつつ、散策する。
「らっしゃーい、スボミのジュースはどうだーい。甘くておいしいよ~。」
喉も乾いたし、飲んでみるか。不味くても水魔法で水を作ればいいだけだし。
「一つくれ。」
「はいよ、銅貨8枚だよ、…これまたかわいいお客さんだねぇ。観光で来たのかい?」
「そんなところだ。」
店員の対処をしつつ、金を払う。
「そうかい。…ここだけの話だけどね、最近物騒な事件が起こってるから十分気を付けるんだよ。」
「物騒な事件?」
何だ、それは? 不穏すぎんだろ。この世界じゃこれがデフォルトなのか?
「ああ。何でも、無差別殺人が起こってるんだとさ。まったく、怖いったらありゃしない。」
「…それは怖いな。」
「普段はそんなことないんだけどねぇ~、…はい、スボミのジュースだよ。ちょいとおまけしといたよ。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
…こういう人がいるから少し人間に期待しちゃうんだよなぁ。
乾燥したスライムが材料となっているコップを受け取り、グビーッと飲む。
…甘い。イチゴみたいな味がする。それでいて酸味が入っていて後味がすっきりしてるから追加で水は必要ない。
「ゴミはその容器に入れておくれ。」
「分かった。」
全部飲み終え、捨てる。
「良い旅を。」
返答するのが面倒だったので片手を上げて答える。
(どうでした?)
(結構うまかった。)
(それは良かったです。)
(それだけなら良かったんだけどなぁ。…無差別殺人が起きてるって何?)
正直、偽造カードなんて放っといて今すぐケルビンから脱出したい。人生ままなら過ぎて困る。
(…すぐに調べましょう。良い食事処はもう調べてるんですけどね。)
(順序が違うって。ちゃんと現地の情勢も調べよう?)
(次から気をつけます。)
(頼むぞ、マジで。)
(勿論です。)
まだまだ改良の余地ありだな。まだ俺は負けてない。
(じゃあ店に案内してくれ。)
(了解です。)
パールに案内されること数分、古臭い店に到着した。
「ここか?」
ボロすぎだろ。食欲なくなるわ。埃とか舞ってるんじゃないだろうな。
(中はきれいですよ。古いのは外観だけです。)
…行くか。人生は経験だ。それにチートもあるし、何とかなるだろ。
「ガララ」
横に引く扉か、珍しいな。普通は押すか引くかの扉だからな。
「…お客さんかい?」
「まぁ、そうだ。」
他に何に見える? …迷子の子供か。
「…なら席に座って待ってな。すぐ用意してやる。」
「…分かった。」
(俺、メニュー頼んでないんだけど?)
(そういう店ですからね〜。)
胡散臭すぎる、コイツ。嫌な予感がする。
(ここは本当に人気店なんだろうな?)
(それは私が保証します。間違いなく美味しいお店です。)
(じゃあ、何で俺しか客がいないんだ?)
(お昼時ではないからじゃないですか?)
(………腑に落ちんが、今はそれで納得しておいてやる。)
パールとの会話を打ち切り、店内を見渡す。
…外観ほど酷くないのは合ってるな。むしろ最近リフォームした感じだ。
ただ店主がな…、爺ちゃん過ぎてイケメンとかの概念から超越してる。
料理が運ばれてくるまでの間、パールから情報を引き出す。
(マスター、先程マルスを迎えにエルバドス家の遣いがやって来ました。)
(ふーん、なるほどね。)
マルス関連の話はちょくちょく聞いてたから特に驚きはない。
(誰がやってきたと思います?)
(順当に行けば名も知らぬ騎士だとは思うが、その聞き方から察するに違うんだろうな。アレクとアレナが雁首揃えて来たんじゃないか?)
(おしいですね。やってきたのはアレクのみです。)
(…ん?、何て?)
俺の聞き間違えか? アレクのみって聞こえたんだが。
(だからアレクだけが迎えにやってきました。)
(護衛もなしに?)
(はい。アレクが来るならアレナも来るはずなので、気になって調べたら面白いことがわかりましたよ。)
(…聞きたくないなぁ。)
アレクは腐っても貴族だ。それが護衛もなしにやってくるとか、俺たちがいない間に平民にでも降格したか?
(まぁ、聞いてください。実はマスターが学園に行った後、アレクがメイドの中の一人といい感じになったんです。)
(…つまり?)
(不倫です。)
あーあーあー、何やってんの、アレク。アレナと駆け落ち同然のことをしといて不倫するとか、その程度の愛だったんだな。そんな浅い愛に俺は落ちたくないね。
(…なるほどね、展開が読めたぞ。不倫したのがアレナにバレて追い出されたんだろ?)
(はい、概ねそのとおりです。)
(この年で家庭崩壊か〜。まーた貴族社会に話題の種を提供したな。)
恋愛のこじれ話って世代を問わず、皆好きだからな、面倒なことになった。でも俺にとっちゃ好都合だ。だって――
(もう家を気にせず、動き回れるな。これまでは一応細い糸で繋がっていたけど、今回ので完全に切れたわ。)
親に気兼ねしなくていい、イコール、家を気にしなくていい。家に仕えている面々たちには悪いけど、エルバドス家の悪名を知って仕えたはずだから、俺もエルバドス家の一員ということで許してほしい。
(なら表舞台に躍り出るのですね!!)
(どんだけ嬉しいんだよ、それにそういう意味で言ったわけじゃない。)
こんなはしゃいだ声、初めて聞いたぞ。そんなに俺に表舞台に出てほしいのか。
(そうですか、ですよね。)
(急に冷めないでもらっていいですか?)
(これが私の平常運転ですよ。)
(…そうか。)
パールと話していると店主らしき爺が料理を運んでくる。
見た目的にはお好み焼きに近い。問題は味だ。
「…食え、飛ぶぞ?」
いろんな意味で怖えよ。魔薬でも入ってんのか?
(パール…)
(…大丈夫です。身体にとって有害な物質は混入してませんよ。)
…こいつがそう言うなら大丈夫か。
「いただきます。」
恐る恐る口に入れてみると、口の中であっという間にとろけた。
…美味い。…何だ、これは? この世界にこんな料理が存在していいのか? これは世界の宝に認定すべきだろ。要保護だ、要保護。これのおかげでこの世界に生まれて良かったと少しは思えるな。文字通りこれを食べるために俺は生まれてきたんだ。
「…………」
一心不乱に食べ続ける。
もう三食これでいい。うますぎる、逆に客が少なくてよかった。これを俺だけが独占していると考えると優越感が半端ない。こんなおいしいものを知らずに生きてるなんて、何のために生きてるんだろうな。
それから十数分後、おかわりも食べ終えた俺は消化タイムへと入っていた。
「…よっぽど美味かったと見える。」
「ああ、こんなにおいしい物を食べたのは初めてだ。」
確かに俺は飛んだ。爺は間違ってなかった。
「それは良かったでい。最後のお客さんがお前さんでよかった。」
「最後の客?、やめるのか?」
「んだ。客が来ねぇのに店を開けてても赤字になるんだけだ。」
「実にもったいない。こんなにおいしいのに。もし良かったらつくり方を見せてくれないか?」
(パール、お前の出番だ。完璧にコピーしろよ?)
(仕方ありませんね。見せて差し上げましょう、私の真骨頂を。)
「…それはなしてだ?」
「この料理を廃れさせるのはもったいない。それともこの料理は他のところにもあるのか?」
「あるわけねぇ。こりゃあ俺が考えたんだからな。」
「なるほど。ますます廃れさせるわけにはいかなくなったな。どうだろう、見せてくれないか? そのレシピが爺さんにとって命と同じくらい大切だっていうのは理解している。それでも俺は廃れさせたくない。」
(随分必死ですね?)
(当たり前だろ。俺が幸せを感じるのは美味しいものを食べてる時だけ。それなのにこんな美味しいものを途絶えさせるのは俺の一生の罪だ。)
鋭い眼光から目をそらさず、それを押し返す。
悪いことをしている意識がない時の俺は演じるのも完璧だ。
「…おめぇさんの気持ちはようく分かった。完璧に作れるよう儂がきっちり仕込んでやる。」
「…え?」
思いっきり素の声が出てしまった。
(俺が作るのか!?)
(いや、話の流れ的にはどう考えてもそうでしょう。お爺さんは私の事を認識していないのですから。)
「遠慮するんでねぇ。それと俺の事はお師匠様と呼びんしゃい。」
「え、え?」
未だ混乱状態が解けない、展開が急すぎる。俺はどこで道を誤った?
「今はお腹いっぱいで動けねぇだろう? お前の部屋に案内してやる、ついきんさい。」
爺さんはそう言って二階へ続く階段を上っていくが、付いてこない俺に一喝する。
「ボーっとするんでねぇ、時間は限られとるんじゃ。」
「は、はい。」
(マスター、演技を忘れてますよ。)
(いや、だってもう訳分からんし。あの爺さんも怒ったら怖そうだし。)
マジで何でこうなったのか分からん。
俺は当分この家に暮らすことが決定したのだった。
ーー??ーー
「オルガ様、すべての準備が整いました。後はご命令のみです。」
「…ふむ。今日は良き日だ。」
オルガは手を翳し、天を睨む。
天気は快晴。誰もを等しく照らすが、輝くのはほんの一握り。
〈ここで勝たんと話にならん。
オルガは整列した軍の前に立ち、風魔法で全体に声が届くように調節しつつ号令をかける。
「諸君!! ついにこの日が来た!! 我々ジルギアスは幾たびも大陸に跳ね返されてきた!! しかし、今は違う!! 偉大なる初代国王陛下のもとに国が統一され、大陸に上陸することができた!! 歴史はすでに変わっているのだ!! 我々こそがその証人だ!! なればこそ、ここで歩みを止めてはいけない!! 歩みを止めた瞬間から劣化は始まる!! もっと豊かに、もっと上に昇り詰めようではないか!! その時こそ真の我々の時代の始まりだ!!」
「「「「「「ウォーーーーーー」」」」」」
熱狂が辺りを包む。しかし、一部の部隊には響いていなかった。そう、現地で調達した兵士だ。
全体を俯瞰するオルガからはその様子が見えた。
〈まだ火が足りぬ。もっと燃やさねば勝てるものも勝てない。〉
「といっても大陸の民からすれば納得することができないだろう。だが、それでも私は誓おう!! 私の庇護下にある者には誰であろうとも手は出させない!! それは大陸の民でも例外ではない!! 私は君たちの守護者だ!! いかなる敵が来ようとも!! 私がすべてを打ち砕いて見せる!!」
「「「……!?」」」
声にならないざわめきが起こる。彼らはマルシア王国に圧力をかけられていたことを知っている。村から何人もの男が連れていかれた。鉄製の家具を全部持っていかれた。食糧さえ持っていかれた。その時の恨みはまだ残っている。ジルギアス王国は最低限の略奪はしたが、無駄な殺生はしなかった。末端まで統率が取れていたことに、驚きと畏怖を覚えずにはいられなかった。
「今はまだ納得出来なくてもよい!! 私が行動で示そう!! だから!! 今回だけは私を信じてほしい!!」
その真摯に見える姿に導かれる者たちは何を見出すのか。
〈…よし、火がついた!! こうなればもらったも同然だ。〉
「いざ!! 進軍である!!」
「「「「「「「「ウォーーーーー」」」」」」」」」
先程とは比でもない声が沸き上がる。士気は上々、総司令は百戦錬磨の軍師、――今日は良き日である。
ーー??ーー
「あに…、お兄ちゃん、…父上が…」
「ああ。…本当に済まない、不甲斐ない兄で。お前にこんな思いをさせるなんて、私は兄失格だな。」
その言葉に必死で弟は首を横に振る。
その様子を見かねて老齢の男性が口を挟む。
「…すべては私たちのせいでございます。」
二人の少年の周囲には悔いに満ちた顔をした男たちがいた。
「そんなことはない。お前たちがいてくれたから私たちは生きている。それに…これは王族が対処すべき問題だったんだ。」
「そのようなこと――。」
「ある!! だからこそ私たちは代償として、飢える心配もなく暮らせていたのだ。」
「…それは…。」
「そんな顔するな。私はまだ諦めたわけではない。この命尽きるまで何度でも立ち上がるさ。」
「我々もお供しますぞ。」
「僕も頑張るよ、あ…、お兄ちゃん。」
「ああ。だが、まずは生活の基盤を整えないとな。今日のご飯を手に入れるのも苦労する有様じゃ、どうにもできん。」
「おっしゃる通りです。…しばらくは開拓するしかありますまい。」
「ああ。今はまだ雌伏の時だ。」
〈くそっ、トランテにエナメル、ギラニア、お前たちは世界が許しても私が許さない!! …ハンナ、お前は生きているのか?〉
フォーミリア王国の王子たちは部下たちと共にクレセリア皇国の元へ逃げていた。比較的クレセリア皇国がその領土を手に入れた時期が新しく、そこまで国境警備がきつくなかったからうまくいった。
まさに天運。ここにも火種は存在した。
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