第164話 つぎの日

朝食を食べ終えた後、教室で授業を受ける。

「皆、昨日はお疲れ様。たまに救難信号もあったが、何事もなく終わってよかったと思う。これからも何回か課外授業は行われるからな、しっかりと慣れていってくれ。それでは早速だが、授業を始めていくぞ。教科書の56ページを開くように。」

(はぁ、怠いな。普通、課外授業の次の日は休みだろ?)

(スライムを相手にしただけですからね、志の高い生徒にとってはヌルいのでは?)

(困るよなぁ。帝国にとってはいいのかもしれないけど、巻き込まれる俺にとっては災難だ。)

(どうしてそんなに向上心がないんですか?、転生者だからですか?)

(まぁ、割とその理由が一番じゃね?。前世でもめんどくさがり屋だったし。)

(容易に想像できますね。)

(うっせ。)

(それよりもリーデンツァイトの情報を入手しましたが、お聞きになられますか?)

(ヒュウ~、やるねー。ぜひ聞かせてくれ。)

(分かりました。リーデンツァイトはフェビアン公爵家の長女で幼少のころから光魔法の才能に溢れ、神聖魔法まで昇華させました。しかし、お見合い相手や政略結婚に嫌気がさし、家から出奔。その後、フェビアン家は才ある者を帝国から追い出したとして他の貴族から白い目で見られてます。なお、リーデンツァイトは出国した後、主にエナメル王国でS級冒険者として活動中です。)

(ふーん。まさしく力があるからこそ可能だった道筋だな。普通だったら無理だぞ。)

(そうですね。少し、マスターに似ているような気もしますが?)

(そうだな。もし俺が女として生まれていたら同じ道をたどっていたかもしれん。)

本当に男でよかった。こればかりは感謝してもしきれない。

(それにしてもリーデンツァイトはどうしてマスターに興味を持ったんでしょうね?)

(さぁな。)

リーデンツァイト転生者説、俺は強く否定したい。ただリーデンツァイトは面倒な相手のような気がする。例えるならうるさい陽キャ。まぁ、俺の偏見だけれども。


その後、ようやく長い一日が終わり、バルア達との対戦時間となった。

(何気にこの時間しんどいよな。)

(私には肉体がないので共感できませんね。)

このくそボットが。

(それに今日はエッグもいるのがな、マジでめんどい。)

(めんどいしか言ってませんね。)

(だってマジでめんどい。なんで穏やかに過ごせないんだろう。)

(お言葉ですが、マスターは穏やかに過ごせていると思いますよ。現在マーテル公国とクレセリア皇国は交戦中ですし、東部諸国連合もジルギアス王国と交戦中です。もしマスターがそれらの国に生まれていれば今ほど平穏な生活は送れていなかったでしょうね。)

(…それはそうかもしれないけどさぁ。)

そりゃ戦争してる国に比べれば平穏なのはわかるけどさ、そういうことじゃないんだよな。

パールとそんなことを話しているとついに訓練が始まった。


「よし、まずは俺様からだ。今日こそテメェをぶっ倒す。」

「出来もしないことは言わない方がいいぞ?」

「…ぶっ殺す。」

そう言うとバルアは身体強化を施し、ものすごいスピードで襲い掛かってくる。

「カンカカカッ」

やっぱりだんだん剣速が上がっている気がする。子供の成長って恐ろしいな。

「やるな、バルア。」

「チッ、クソが。やっぱりテメェはうぜえ。どうして基礎を固めきってねぇのに俺様より強いんだ。」

「才能…かな?」

たしかに俺は練習がダルすぎて剣術の基礎を固めきっていない。前世でも、なまじ中途半端にできるせいで何も極めることがなかった。人より少しできればそれでいいやと思ってしまうのが俺の性格。分かっているけれども治せない。

「自分で言うかよ?」

「事実だからな。」

「余裕をこいていられるのも今だけだッ!!」

再び嵐のような剣戟が再開される。

うーん、やっぱり俺は攻めるよりも防御の方が向いている気がする。だってバルアの件を受け流すたびに手ごたえが少なくなっていっている。これって要はうまく力を逃がせてるってことだろ、たぶん。

「それが限界かな?、バルア君?」


ー-------------------------------------

「うわー、煽ってるよ。性格悪いよね?」

「ふん、今更だな。あいつは前から性格が悪い。」

「ラギちゃん、容赦ないね。」

「確かに。それにしてもラギーナも大分変わったよな。氷姫とか呼ばれてたのに。」

ラギーナの鋭い視線がフレイを射抜くが、フレイは飄々と受け流す。

「フン、…ジンはあんなだが、私よりも強い。その強さの秘訣を探りたいだけだ。」

「でもジンの強さって遺伝じゃない?、ジンのお姉さんも、御父上も強いようだし。」

「というかラギーナはどうしてそこまで強くなりたいんだ。」

「…」

眉間にしわを寄せて黙りこくるラギーナ。

「すまん。言いたくないなら別に言わなくてもいいぞ。」

「…そうか。」

(やっぱり皆家の事とかあるんだろうな~。そう考えればマリーは恵まれてるね~。)

「それにしてもジンは変わってるよ。普通皇族にタメ口なんて聞けないし、俺たちとも距離を取るはずだ。」

「ああ~、それはマリーも最初はびっくりしたよ~。」

「私もだ。でも新鮮でもあったな。」

入学初日、無視し続けてもジンは話しかけてきた。これまでのパーティではそんな子とは会わなかった。

「でもジンが実力を隠してるのってやっぱり帝国から目を付けられないようにしてるのかな~。」

「そうかもな。騎士にはなりたくないようだし。図書館の司書って舐めてるだろ。」

「ほんとにね~。」

「やっぱり気に食わん奴だ。」

ー-------------------------------------


…外野がとやかく言ってるけど放置しとこう。凄い気になるけど。

「テメェ、どうして攻めてこない?」

「うーん、俺の適性が防御だからかな、得意な部分を伸ばそうと思って。防御さえできれば負けることはないし。」

「…勝とうとは思わないのかよ?」

「そりゃ勝てたらいいけどさ、常に勝てるとは限らないだろ?。なら次っていう可能性があるならそっちに繋げた方がいい場合もある。」

「…ビビり野郎が。」

その言葉にカチンときた俺は終わらすことを決意する。バルアが深く踏み込んで放った一撃を当たる寸前まで引き付けて躱し、腕を木剣で叩く。

「ドン」

「グッ」

「カラーンカランカランカラン」

バルアが木剣を落としたところで首に木剣を添え、終わりにする。

「俺の勝ちだな。」

「…次は勝つ。」

「楽しみにしてる。」

ここでマリーがバルアの傍へ駆け寄り、治癒を施す。

うーん、青春だねぇ。貴族に当てはまるのかは知らないけど。

それからバルアが治ったのを見届けた俺は次の戦う相手を尋ねる。

「で、次は?」

「今度は僕で頼む。」

とうとうメインディッシュか。うーん、不味そう。まぁ、前よりはマシか。魚臭い匂いは取れてる。

(マスター、ちゃんと戦ってあげないと駄目ですよ?)

(分かってる。さすがにふざけたりしねぇよ。)

(…本当ですね?)

(本当だ。信じてくれよ。)

(信じたくてもマスターのエッグに対する塩対応を知っていますからね。)

(人間だれしも合わない奴は一人くらい居るものだよ。)

(難儀ですね。)

(それな。)

「いくよ、ジン君。」

「ああ。」

「カンカッカッカッ」

なるほど、こいつはたぶん効率的に身体強化をかけれていない。無駄が多すぎる。ただ剣術の基礎がしっかりしすぎて隙が無い。俺と真逆だな。

「ガン」

ここで一度大きく距離を取る。

「エッグ、魔力の強化がお粗末だ。魔力操作がなってない。」

「…どうすればいいかな?」

「毎晩鍛えろ。一部分だけ強化できるように魔力を操作していればいずれ完璧になる。」

「い、一部だけ強化するの?」

「そうだ。強くなりたいならな。」

「分かったよ。」

にしてもおどおどした部分を消そうとしているのは好感が持てるな。これなら別にそこまで嫌ではない。戦うのは嫌だけどな。


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「身体を一部だけ強化するだと?、あいつはやっぱり天才なのか。」

「少なくとも俺たちの世代では頭一つ以上は抜けてるだろうな。」

「それこそかつて神童と言われたリーデンツァイト以来の天才かもね~。」

「リーデンツァイトか。私はよく知らないのだが、そんなにすごかったのか?」

「ああ。光の魔法剣を使えて、将来は近衛騎士団長は確実だって言われてたからな。」

「…それは凄いな。」

「でもそんな神童がジンに会いたいってどうしてだろうね~?」

「そればっかりは本人にしか分からないな。」

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「まだやるか?」

「ハァハァ、勿論。まだ、僕は負けてない。」

思ったよりしっかりした根性をお持ちだな。まぁ、人間ってそういうもんなのかもな。

「そうか、じゃあ終わらせるぜ。まだ次の奴らが控えてるんでね。」

見せてやろう。この身体のポテンシャルを。

「ヒュッ」

一瞬だけゾーンに入り、水平斬りでエッグの首スレスレで止める。

「…俺の勝ちだ。」

「…やっぱりすごいや。ありがとうジン君、相手をしてくれて。」

「どういたしまして。」

まぁ、本気で鍛えるつもりはないけどな。ないと思うが、億が一俺よりも強くなったら困るからな。

「よし、ジン、今度は私と戦え。」

「はいはい、分かったよ。」

一人増えただけで精神的苦痛がやばいな。もう適当でいいかな。


その後、俺はラギーナとフレイに勝って気持ちよく今日という一日を終えるのだった。



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