第163話 神童
カフェテリアへ行く途中でラギーナ達とも合流する。
あのカフェテリアの混雑をどうにかしてほしいんだけどなぁ。まぁ、無理かな、人件費をケチってんだろうし。それにしてもなんでエッグも一緒にいるんだ?。仲良くなりたいとでも思ってるのか?
そんなことを考えているとマリーが話し始める。
「おはよう〜、昨日は楽しかったね〜。」
この野郎、エッグの地雷を踏んだのをもう忘れてやがる。
「ああ、そうだな。でも今度はトロールぐらいとは戦ってみたい。どのモンスターまで戦えるか自分の限界を試してみたいんだ。」
熱いよ、ラギーナ。もっと気楽に行こうよ。
「確かにな。授業もぬるいし、ちゃんと強くなれてるのか心配だ。」
それは仕方がない。クラスには俺みたいな下級貴族も混ざってるから、どうしても下に合わせざるを得ない。いっそ、能力別でクラスを分けたら良かったと思うんだが、それでも不具合があるんだろうなぁ。
「ケッ、おい、テメェは今週の休みは何すんだ?」
「ん?、俺のことか?」
「あァ。」
「んー……」
(何か予定でもあったっけ?)
(いつも暇じゃないですか。)
(ハァ?、そんなことねぇし。)
意地でも予定をぶち込んてやるよ。機械にナメられたら終わりだからな、創造主の人間として。まぁ、俺が作ったわけでもないんだけど。
(では、何かされるんですか。)
(天気予報は?)
(ずっと快晴です。)
(なら帝都の外にピクニックでも行くか。火の魔法を使えば寒くないしな。)
雄大な大自然の中で食べるご馳走はさぞかし美味しいだろう。ついでに狩りでもしてパールに調理させたら最高だな。
「今週末はピクニックに行く予定だ。」
「あん?、ピクニックだァ?、誰と行くんだ?」
「…俺だけだが。」
そう言った瞬間、皆から憐れむような視線が向けられた。
(マスター、その言い方じゃ友達がいない人のようですよ。失礼、友達居ましたか?)
ナチュラルに心を抉ってくる心を持っていないオンボロ機械。
(友達がいればいいってもんじゃない。キャラを演じすぎて病むってこともあるからな。)
(あるんですか?)
(知らん。俺、専門家じゃねぇもん。)
(そうですか…。)
呆れたような口調になるんじゃない。俺が間抜けみたいじゃないか。
「ジン…、俺を誘ってくれてもいいんだぞ?」
「いや、忙しいかなと思って…。」
「そんなの気にしなくていい。俺たち友達じゃないか。」
「すまん。」
やめて、イケメンの笑顔は俺には眩しすぎる。
「というか、そもそも帝都の外に生徒だけで行くのは校則違反だぞ。」
「えっ、そうなのか?」
「ああ。もし行くなら親の承諾と学園の許可証が必要だ。」
チラッとフレイの方を見てみると視線を逸らされた。
こいつ、知ってやがったな。お前は上級貴族だがら校則違反ぐらい揉み消せるかもしれないが、こっちは下級貴族なんだぞ。巻き込むのはやめろ、あの親に説教されるなんてごめんだ。
しっかし、どうすっかな。本屋にでも行くか?
「フンッ、要は何もねぇんだろ?」
「いや、だからピクニックに…」
「なら俺も行っていいか?」
「私も〜。」
「そもそも校則違反だから駄目だ。」
ざけんな、少しは一人になる時間ぐらいくれよッ。
(おいたわしや、マスター。)
(喧嘩売ってんのか?、この野郎。)
「おい、なら最近できた飯屋に行こうぜ。俺の奢りだ、テメェは好きだろ。」
こいつに限って無料ほど怖いものはない。
「その代わり…とか言うんだろ?」
「あァ、テメェに会いたがってる奴がいるんだ。そんで連れてこいとさ。」
「…えーーー」
ダルっ、最悪じゃねぇか。
(断ってもいいか?)
(そうですね。家は関係ないようですから、断っても特に問題ないように感じますが詳しく聞いてからのほうがいいのではないですか?)
それはそうかもな。一回で終わらせといたほうがいいからな。
「…何で俺なんだ?」
「この前知り合いと手紙をやり取りしたときに俺より強い奴がいるって話したらそいつが興味を持ったんだよ。」
あれ、なんか戦う流れになってない?。どこで俺は間違えたんだろう。
「そいつは戦闘狂なのか?」
「いいや、違う。ただ変わったやつではある。アイツは貴族だったんだが、家出してなァ、世界を見て回ってるんだ。」
するとここまで黙っていたフレイが口を挟む。
「なあ、それってもしかしてリーデンツァイトのことか?」
「あァ、そうだ。」
「私も知ってる〜、神聖魔法の天才で神童って呼ばれてたんだよね〜?」
(神聖魔法って何だ?)
(光魔法を極めたら神聖魔法と呼ばれるようになるんですよ。)
(へー、じゃあ闇魔法はなんて呼ばれるんだ?)
(そうですね、最近までは特になかったのですが、ジェドが漆黒魔法と名付けて広めていましたね。)
し、漆黒魔法だと?。何でそんなに厨二病全開なんだよ。後の人のことを考えろよ。自分で言うの恥ずかしすぎるだろ。
「リーデンツァイト…、フェビアン家の者か。」
(いや、もう話についていけないんだが。そもそも帝国の貴族、多すぎないか?)
(まぁ、それを抜きにしてもマスターは貴族についてあまり学習してませんからね。仕方がないといえば仕方がないです。)
(マルスたちも習ってないよな?)
(そうですね。アレクやアレナたちが教えてましたからね。)
よくよく考えれば次期当主のマルスが貴族社会についての勉強を受けてないのはやばいよな。
(何で家庭教師を雇わなかったんだろうな?、金がなかったのかな?)
(家計でも調べましょうか?)
(…いや、いい。ここまで来たら知っても変わらないからな。)
(そうですか。)
「バルアはリーデンツァイトとまだ連絡を取り合っているのか?」
「あァ。どうやら俺の事を弟とでも思ってるらしい。」
「…で、その人は俺に会ってどうしようっていうんだ?」
「さぁな。そこまでは分かんねぇ。けど俺はあの人に借りがあるからな、ここで返すいい機会なんだよ。」
「おい、俺の事も考えろよ。」
「だから飯を奢ってやるって言ってるじゃねぇか。」
アホか、そんなんで釣られるかよ。デメリットの方が大きすぎるだろ。
「………」
秘儀、無言の圧力。
「…何だよ?、…チッ、分かった。テメェの武器も買ってやる。これでどうだ?」
「それは一式か?」
「…、あァ。」
ふむ、この変が落としどころかな。これ以上搾り取るのは白い目で見られそうだからな。それに神童とやらを見ておくのも悪くはない。こっちの世界の人生は百五十年、俺に限ってはそれ以上も可能性としてはある。ならいつか遭遇してもおかしくない、俺の敵として。その前に観察しておいた方がいい。
「よし、それで手を打とう。」
「うわー、相変わらずだね。ジン。」
「貧乏下級貴族舐めんなよ。」
「そういえばお前は自前の武具を持っていなかったな。」
「そうだな、お恥ずかしい限りで。」
いや、俺自体は金持ちなんだけどな?、うん、貧しいのは家だからな?
必死で恥ずかしい気持ちを消しにかかる。
「フン、今回は家の援助があるからなァ、何も問題ねぇよ。」
「それにしてもリーデンツァイトか、俺も会いに行っていいか?」
「いや、二人きりで会いたいと書かれたから駄目だな。」
二人きり?、もしかしてそいつは転生者で俺の事も転生者だと気づいたとか?
…さすがに違うと思うが、衝突の可能性も考慮した方がいいか?。ハァ、マジで面倒だな。
「ちなみに具体的にいつだ?」
「来週の黒だな。」
この世界では赤、青、緑、金、白、銀、黒の順番が曜日に該当している。個人的には分かりやすくていいと思う。
「いや、もうすぐじゃねぇか。」
「だから焦ってたんじゃねぇか。ちなみに正午に噴水前だからな、ちゃんと行けよ。」
「まぁ、約束だから行くけどさ。俺に予定があったらどうすんだよ。」
これだからガキは想像力が足りてない。
「どうせ暇だろ。」
(よく分かってますね。)
(だまらっしゃい。)
「ふんっ、…なら武具は再来週に買いにいくな。」
「あァ、分かった。」
「ちなみに俺たちも飯は奢って貰えるのか?」
「ハァ?、何言ってんだ?、テメェらは自腹だ。」
「じゃあマリーもご飯を一緒に食べに行こうかなぁ。ラギちゃんはどうする?」
「私は鍛錬があるからパスだ。」
「ええ~、学生のうちにしかできないことをやろうよ。一回しかないんだよ?」
「む。」
凄い渋ってる顔をしてるな。そんなに強くなりたいのか。そこまで熱中できるものがあるのは逆に羨ましいな。俺には何もないから。
そんな思考を妨げるように沈黙の地雷源が動き出す。
「じ、ジン君。お願いがあるんだ。ぼ、ぼくも夜の訓練に混ぜてもらえないかな?」
夜の訓練って言い方よ。…にしてもとうとう来ちまったか。さっきから黙りこくってたのはこれを言おうとしてたからか?、いや、いつも黙ってたわ。
「…なんで?」
「あの時、何もできなくて、そのことが悔しかったんだ。」
なら自分で何とかしてくれよ。俺を巻き込むな、これが俺の根本的な望みだ。
「なるほど。なら俺じゃなくて教師に頼んだ方がいいと思うぞ。」
これは純粋なアドバイス。決してうざいとか思っていないよ?
「あのときジン君はフレームモンキーと渡り合っていたよね?、た、たぶん先生よりも強いと思うんだ。」
「まぁ、それはそうだよな。間違いなくS級冒険者ぐらいの力はあるよな。」
余計なことを言うな、フレイ。というかその話は秘密のはずだろ。やっぱ空気を読めてねぇ。
「………。」
「ジン、仲間に入れてやったらどうだ?」
「そうだよ~、ジン。」
チッ、数で負けてる。これは覆せないな、これ以上は俺が悪者になっちまう。
(マスター、やっぱりこうなりましたね。)
(…同じ部屋である以上、仕方がないな。でもただでは転ばんぞ。)
「…ハァ、分かった。だが条件がある。エッグ、そのなよなよした話し方を辞めろ。聞いててこっちがイライラする。自信はなくていいからハキハキ話せ。」
コミュ障の俺が言えたことではないけどな。
「わ、分かった。」
「よかったね~、エッグ君。」
「これからよろしく頼む。」
必死でマリーが盛り上げようとしているのを見て、俺は溜飲を下げる。
流石に地雷を的確に踏み抜いただけはある。必死にフォローしようとしている姿が涙ぐましい。
そんなふうに嫌なことを考えているとカフェテリアへ到着し、朝食を食べるのだった。
ーー??ーー
「閣下、このまま攻め続けるおつもりですか?」
「いや、最後に重い一撃を入れて講和に持ち込む。もうここらへんが潮時だろうよ。」
東部諸国連合を相手に前進し続けてきたジルギアス王国。だが、その破竹の勢いも弱まってきた。
(流石に数で来られたらひとたまりもない。だがここらで一息つきたいのは向こうも同じはず。ならば最後に少し痛めつけよう!!、我が覇道のため!!)
ここにきてオルガには野望が芽生え始めていた。ジルギアス王国の統一を成し遂げてからというもの、退屈な日々、繰り返される同じ日々。それがどうだ?、大陸に来てからは常に綱渡り状態。愉しさはあれど、恐怖はない。
「さて、行けるとこまで行こうか、大陸に住む諸君らよ。」
海を超え、初めて大陸に領土を得たジルギアス王国。オルガの感情は抜きにしても拡大路線は必須といえた。少しの領土を維持し続けるのは難しく、金もかかるし割に合わない。だからこそ、ある程度の領土がいるのだ。異国の侵攻を援軍が来るまで食い止められるくらいには。
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