第162話 朝

ハァ、朝か。もうどっかに隠居でもしようかな、日常生活がしんどい。

(おはようございます。)

(………。)

(おや?、無視ですか?)

朝から挨拶ってしんどいから嫌なんだよ。前世でも学校じゃ、先生の挨拶無視ってたし。

(…朝の挨拶は辛い。)

(挨拶がコミュニケーションの基本ですよ。)

(お前に言われると何かムカつくな。)

(些細なことです。)

だからおまえが言うなよ。

(まぁ、今日は授業時間が短いからいいけどな。)

当然だよな、昨日は課外授業だったんだし。

(そうですか。それと新しいニュースがありますよ。)

もうやめてくれ。俺の身体はズタボロだ。

(…俺に関係ある?)

(今のところ無いです。)

(今のところ、かよ。で、何?)

(私の扱いが雑になっているのが気になりますが、まぁ、いいでしょう。覚えているとは思いますが、ニ年前にエルファイヤ火山の温泉に浸かりに行ったときに黒狼がいたじゃないですか?)

(ああ、いたね。そんなの。) 

そいつが暴れだしたとか?、それだけならSS級冒険者が何とかやってくれるだろ。今回は介入しないぞ、帝国に来ない限り。

(それがマーテル公国とクレセリア皇国の国境付近で出没し、特にマーテル公国軍に多大な損害を与えました。現在はどこにいるのか不明ですが、冒険者ギルドが動き出しました。一応気にかけておいてください。)

(俺の希望としてはクレセリア皇国で暴れまわってグチャグチャにかき乱してほしいんだけどな。一回、痛い目を見ておいたほうがいいだろあの国は。)

クレセリア皇国はリュウの侵攻で弱った国々を次々と飲み込んだ。帝国は大義がないから動けなかったのにも関わらずだ。まぁ、その分復興費用はかかるわけだが、それでもきちんと内政すればかなりの国力となるだろう。

(それはマスターにも返ってくるのでは?)

(…否定の余地もございません。)

確かに第三者目線で見たら俺はゴミで、生きてないほうがこの世界の大多数からしたらいいんだろう。でも別に俺は生まれてきたくて生まれてきたわけじゃない。親が避妊せずに勝手にヤッて、俺が生まれた。そこに俺の意志は介在してない。かといって死のうとはならない。生まれてきた以上、とりあえず足掻いて生きる。まぁ、足掻かないように済むように立ち回るわけだが。

(あと他に気になるところといえば、モルテ教が騒がしくなっているぐらいですね。)

(バカか、お前は!!。一番大事な情報じゃねぇか。)

あの組織のフロント宗教だろ?、絶対テロかなんかだろ。

(探りますか?)

(早急にな!!)

(了解。恐らくマスターには何の関係もないでしょうが。)

(直接的にはなくても間接的にはあるかもしれないだろ?)

(確かにそうですね。)

学園に襲撃でもかけられたらたまらんからな。

(それより組織の情報はまだ掴めないのか?)

(そうですね。あまりそこに労力をかけていないというのもありますが、手掛かりがなさすぎます。あのヒキガエルを調べても経歴が詐称されており、手詰まりです。)

(チッ、勝手に自滅してくれないかな。)

(流石にそれは無理があるかと。)

(分かってるわ、そんな事ぐらい。ただ言ってみただけだ。)

(ああ、人間特有の…)

…なんか馬鹿にされた気がする。

(ハァ、休みはまだかよ。身体が持たねぇよ。)

(マスターの将来が心配ですね。そんなんじゃ、立派な騎士になれませんよ?)

(こっちから願い下げだ。騎士なんて死んでもお断りだ。)

(サラは騎士団に入団してますけどね。)

(行き遅れて他に拾い手がなかったんだろ。)

(マスターもそうならないことを祈ります。)

(フン、せいぜい無駄な祈りでも捧げてるんだな。)

パールと話していると皆が起き出す。

「おはよう」

「おはよう」

「お、おはよう…」

「……」

今日はエッグも挨拶してくる。

もしかして昨日の出来事で距離感が縮まったとでも思ってないよな?。むしろ逆だからな?、お前、信号弾ミスったし。

そんなことを思いながら朝の支度を終え、朝食を食べに行くのだった。


ーー??ーー

「我が国も帝国やトランテ王国に倣い、諜報組織を作ろうと思うのだが、どうだろうか?」

「良き考えかと。しかしノウハウを得るのに時間がかかるでしょうし、各省の主導権争いも行われるでしょうね。」

「勅命でも駄目か?」

「恐らく軍部がすでにそのような組織はあると主張し、傘下に収めようとするかと。」

「ムゥ、軍部を無視するわけにはいかんな。スカーレットが大きくなるのを待つ他ないか。」

「ですね。」

「…せめてダニアンが優秀とまで言えなくとも、普通であったならばなぁ。」

傲慢かつ横柄な息子。跡取りだと思って可愛がりすぎてしまった。その結果、育児は見事に失敗。

「兄上も大変ですね。」

「お前にも世話をかける。」

「兄上を支えるのは当然ですよ。」

「これからも世話になる。」

「…素直に頷きにくいですね。」

王は思案する。恐らく息子が王になれば貴族の傀儡と化し、国が荒れる。かといって娘のスカーレットが王になるのは試練の連続。帝国とは異なり、女が王になるのは認められていない。法を変更すればすぐに勘付かれ、貴族の口車に乗せられた息子が蜂起するかもしれない。だが、現実的な選択肢はスカーレットの一択。とりあえずは育成に注力し、その後は軍功で泊をつけさせる、そう方針を定めるのだった。


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