第161話 フクシュウ

(では復習からいきます。まずはそれぞれの陣営からですね。現在、第一皇子は外務大臣で3つの公爵家が、第二皇子は中央軍の総司令で3つの公爵家が、そして第五皇女は内務大臣で2つの公爵家が、第七皇子は1つの公爵家が後ろ盾となっています。ちなみに第三、第四皇子は母方の実家が公爵家ですからもしかしたら支援に回るかもしれません。)

(まだ支援してないのか?)

(そうですね。二人の素行の悪さが原因かもしれません。もともと貴族社会では悪評が広がっていましたし、第八皇子暗殺の件でも疑われていますから。)

(それは確かに躊躇うなぁ。もし二人とも皇帝になれなかったら絶対力を落とすもんな。)

悪評のある皇子たちに味方して負けた場合、絶対にそれ見た事かと侮られるだろう。

まぁ、そもそも俺だったら絶対に領地で反乱が起きないように内政してるけどな。権力闘争は頑張った割に何か得るものが少なそうな気がする。

(それはそうですね。それでですね、帝国には13の公爵家が存在するわけですが…、全部を言っても覚えきれませんよね?)

(勿論だ。)

(胸を張って言うことではないですね。…ではマスターが知ってる公爵家だけを言いましょうか?)

(ああ…、フレイとか?)

(そうですね。)

確かにそれなら覚えれるかもな。割と言われてみれば気になる。

(じゃあそれで。)

(分かりました。まずはマスターの祖父であるマキシマム公爵ですが、現在は中立を保ってます。しかし、第七皇子と秘密裏に接触しているのを何度か確認しましたから何かしら動きがあるかもしれません。)

(…なぁ、マキシマム公爵家が動いたら俺の家にも影響はあるよな?)

(そうですね。縁を切られているとはいってもアレナはマキシマム公爵の娘ですからね、マキシマム公爵家に追従すると考えられているでしょう。)

(まあ、俺には関係ないか。家を継ぐわけでもないし。)

(…マスターがマルスに対して冷淡なのは…その、転生しているからですか?)

何だこいつ、俺に気を遣ってるのか?。やるじゃないか、人工知能。

(そうだな。俺は前世で、17で死んだからな、どうしても兄とは思えんよ。)

こればっかりは仕方がない。人格があるから、どうしても一からとはいかない。というか前世からの年齢を足せば俺もいい歳なんだよなぁ。その割には精神年齢が育ってないような気もするけど、環境のせいにしておこう。

(そうですか…。では続けます。アルバーナ公爵家、つまりフレイの実家ですね、は中立を保ってます。そしてマーベル公爵家、ロハドの家は第五皇女の陣営です。第五皇女は内務大臣ですからね、復興支援の見返りに協力しているのでしょう。)

いたなぁ、ロハド。すっかり忘れてた。最近会ってないから次に会ったとき、気まずいやつだな。

(へー、確か西部貴族だったっけ?)

(そのとおりです。帝国の西側のリュウの被害は甚大でしたからね。数年では完全に復興とはいきません。)

(そうだな。俺のおかげで帝国は救われたって訳だ。そう思うと少しぐらい悪さしてもいいよな。)

(いいわけないじゃないですか。せめて報酬とかいう話では?)

(いや、俺はお金持ちだから金はいい。)

(そのお金も盗んだんですけどね。)

(固いことは言いっこなしだ。)

(全く固くないですけどね。では次に参ります。シュミット公爵家、あのロゼの実家ですね、は第二皇子の陣営です。)

(やっぱ親も脳筋だったんだな。それなら子供も脳筋なのは仕方ないのかな。)

(随分な言い様ですね。ロゼはサラと同じ髪色ですよ?)

だからだよ!!、気づけよ。

(はいはい、次は?)

(次でとりあえずは最後ですね。トリアース公爵家、エミリアの実家、マスターの言い方ですと、『ですの』お嬢様ですか?)

(ああ、あの絶滅危惧種。)

(勝手に変な単語を作らないでください。)

(変とは失礼な。)

一応前世ではあった単語だぞ。

(以上がマスターの身の回りの公爵家に関する帝位争いですね。他にも違う公爵家の子供は学園に居ますが、クラスが違うので知らなくてもいいでしょう。)

他にも居やがるのか、俺はなんていう所にいるんだ。もしこれで俺がチートじゃなかったら普通にボッチを選んでたかもな。それぐらいここはヤバイ。何なら心霊スポットのほうがマシまである。…うーん、やっぱりどうだろ?

(…でも学園にいる間は特に気にしなくても大丈夫なんだろ?)

(はい。ですがマスターが裏から介入するなら必要かなと。)

うーん、帝位争いか…。最初は面白そうなんだけど途中で飽きそうなんだよな。

(まぁ、原則に帰ると俺は学生だからな。せいぜい学園生活にでも勤しむさ。)

俺の本質は怠惰だからな。冒険者生活もやったし、もういっかっていう気持ちがあるのも事実だ。

(説得力の欠片もありませんね。ではエッグ達とこれまで以上に仲を深めるということでよろしいですね?)

(よろしくねぇよ。何でそこでエッグが出でくるんだよ?)

(エッグと仲良くしているマスターを録画したいからです。)

やっぱこいつクソだわ。人の嫌がることはしちゃいけないっていう一番大事な道徳が欠けてやがる。

(もう寝る!!、お休み。)

〈お休みは言うんですね。律儀というか何というか、変な人です。〉


ーー??ーー

「どうです?、認めて頂けましたか?」

顔は笑っているが目はどこまでも冷たい。何かも捨て、残ったのは復讐。己が道ただそれだけ。

「…ふむ、商会を収めたその手腕、見事と言わざるを得んな。良かろう、お前を世界の王候補と認めてやろう。しかしお前はまだ国内を制しただけであって外では何も示していない。」

「承知しております。その時が来るのを待ちましょう。」

大陸はかつてないほどに荒れる、そんな予測、いや予感があった。

「随分悠長だな。世界は待ってくれんぞ。」

一度事態が動き出せば、受け身では振り切られる。あの時もそうだった。

「逆ですよ。俺が待ってるんですよ、世界が俺を呼ぶのを、ね。」

「傲慢だな。だが、そうかもしれんな。」

途中からだが見てきた男の生き様。それが予感に確実性を与える。この男ならなれるかもしれない、長らく夢に見てきた世界の王に。ただ規格外のように力があるだけではない、ただ賢いだけでもない。何にも揺らがぬ鋼の心、それでもって根底に優しさがある。

「世界を高みに導けるのは俺しかいない!! 今のままでは進歩がない。」

恐ろしいほどの形相。誰にも見せない本当の顔、だが過去の遺物には見せられた。

「帝国が全てを統べるかもしれんぞ?」

いつからあるのかわからないほど昔から存在する最強の国。あの頃も強国で貿易を牛耳っていた。

「そうかもしれませんね。彼らは常に前を向いていますから。しかしあれだけの国力がありながらまだ大陸は制覇していない。大義が必要なのも分かりますが、それは大陸に住む人々の為にはなりません。多少泥をかぶれば俺なら10年もあれば可能です。それに、大陸を制したあとでも彼らは身内で争い続けるでしょう。悪習を正すのは難しいことですから。だがそれは省くべき無駄、皇帝が死ねばそれこそ制御不能となる。そのようなリスクは許容できない。今まで成り立ってきたこと自体が驚愕に値します。」

「お前が死んでも後継者争いは起きるだろう。そのときはどうするつもりだ?」

「対策はあります。しかし、今ここで言っても仕方がないでしょう。」

「…それもそうか。で、SS級冒険者はどのように対処する?」

一番尋ねたかった質問。凡人が規格外を抑える方法。自分ではなれなかった、憧憬し、嫉妬した存在。

「冒険者ギルドを使います。フォーミリア王国の侵攻の際、一人のSS級冒険者が複数人のSS級冒険者に抑えられていました。あれを知れたのは大きな収穫でした。それでも縛れないときは何らかの策を用います。」

「あれらは人類の守護者、やつらが過半数以上同意すれば各国の指導者のことなんぞ無視して大陸の情勢に介入してくるやもしれんぞ。」

これまでもあった。SS級冒険者が世界の共同統治者になればよいのではないか、と。だがそのどれもは潰されてきた、既得権益者によって。

「行き過ぎた場合は各国が共同で古代兵器を使ってでもSS級冒険者に対して戦線を張るでしょうね、何よりも保身が最優先の屑どもですから。特に帝国は統治する権利はないとでも主張して強固に抵抗するでしょうし、帝国が参戦すれば殆どの国も賛同するでしょう。そもそもSS級冒険者に国を運営するノウハウはありません。それに貴族たちも素直に従おうとはしないでしょう、王位の簒奪者となるわけですから。」

SS級冒険者はお世辞にも賢いとは言えない。力に全てが割り振られているのだ。だがそれだけでは世界の支配者にふさわしくない、過去の遺物にとっても。そこには多少の私情も含まれているが。

「お前が戦うという選択肢はないのか?」

「必要に迫られたら戦いますが、あくまで俺の敵は戦場にいる敵です。」

「そうか。…………………………………、いいだろう、今はそれで。とりあえずはお前に預けてやる。だが半端であればすぐに返してもらおう。」

今はそれで、という部分に怪訝な顔をする世界の王候補生。

「勿論です。あなたはすぐに理解されるでしょう、俺が世界の王になると。」

「ハッ、言ってくれる。せいぜい励むことだ、世界に飲まれんようにな。」 

そこでホログラムが消える。

〈上等だ。俺が喰ってやるよ、セカイィーーーー〉

世界の王候補、一人目。

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