第160話 振り返り
(パール、もし裏の世界の闇がこちら側に流れこんできたらどうなる?)
(どの程度光が失われるかによります。もしも夜の状態が続くのだとしたら人類は十年と持たないでしょう。)
(だよな。)
(それよりもマスター、私に言うことがあるのではないですか?)
(言う事?)
そんなんあったっけ?、何もなくない?
(分かりませんか…。マスターが転生者だという話ですよ。)
(ああ、それか。そうだな、確かに言ってなかったな。)
(マスターは本当に転生者なんですか。)
(ああ、そうだ。俺には前世の記憶がある。)
(ちなみにどのようなものだったかお聞きしてもよろしいですか?)
(機会があればな。今はあの婆さんの言ったことを考えたい。)
(…そうですか。本当はただ言うのがめんどくさいだけなんじゃないですか?)
(…。ふむ、そもそも転生者が俺の他にもいるっていうのは分かったけど、全員人間に転生してるのかな?)
〈露骨に誤魔化しましたね。〉
(それは…どうでしょう。)
恐らく転生ってことは他の生き物にもしている可能性がある。それにしても男に転生してよかったな。もし女だったら途方に暮れて泣いてたかもしれん。
(でも一番嫌なのは俺以外にも転生者がいることだな。超越者になる可能性がある以上、早期発見が鍵になるかもしれない。)
こういう俺以外にも転生者がいるかもしれないっていう状況が一番嫌だ。本当に居るのだとしたら殺す選択肢は普通にありだ。俺のしてきたことやこれからすることを知れば邪魔してくるかもしれないからな。それにバレなきゃ問題ない。
(発見次第潰すと?)
(俺の脅威になるものは存在する意味がないからな。)
(同郷かもしれませんよ。)
(俺にとってそんなのなんの価値もない。それに世界の片隅で慎ましく暮らしてるだけならちょっかいはかけねぇよ。)
要は俺の邪魔さえしてこなかったらいいだけの話だ。それに同じ日本出身だったらなんか黒歴史のようなムズ痒さを感じる。
(これは私の意見ですが、おそらく大丈夫ではないかと思います。)
(なぜそう言える?)
(これまでの英雄譚でも色の魔力の話は一回しか出てきてません。つまり色の魔力を持つものはめったに現れないということです。それこそ数千年に一度といったレベルですか。むしろいる時代の方が稀なのですよ。英雄譚がすべての超越者を記録しているかは分かりませんが、各国の機密資料を見ても彼ら以外のそのような者は書かれていませんね。)
(…言われてみればそうだな。少しは安心できる材料があったわけだ。)
だが、完璧でもない。俺以外に転生者がいるかもしれない以上、より気を付けないとな。先手必勝だからな。
(それにしても今日は大変でしたね。フレームモンキーに影のモノですか。濃い人生を送ってますね。)
(お前に言われちゃ世話ないな。)
(それはそうと話は変わりますが、第三皇子と第4皇子が不審な動きを見せていますね。)
(まさかまた暗殺か?)
(それは分かりません。ただ所有している犯罪奴隷に接触していますね。しかも手が込んでますよ、どうやら各地に潜伏させているようです。全部は追いきれてません。)
犯罪奴隷ねぇ。
帝国では犯罪以外で奴隷に落ちることはないが、南では普通のと言ったらおかしいかもしれないが、借金奴隷などが存在する。
やっぱり生まれって大事なんだよ。
(そうか、ならしばらくはその二人を追っといてくれ。)
(了解。財務大臣の座を巡って帝位争いも活発化していますが、その情報はどうされます?)
(介入するかは置いといて一応貰っとこうか。)
(分かりました。)
ーー??ーー
「皆、今日の議題はマーテル公国との同盟についてだ。ではエンベルト外務大臣、頼む。」
「御意。皆様ご存知だと思われますが、現在、クレセリア皇国がマーテル公国に侵攻しており、マーテル公国は戦線の維持で手一杯となっております。そこでマーテル公国は我が国に同盟を結ぶよう求めてきたわけです。お手元の紙をご確認下さい。こちらが同盟を結ぶ条件です。」
そう言うと各大臣が紙に目を走らせる。
〈…かなり絞り取ってるわね。でも懸念点が消えたわけじゃないわ。〉
〈ふむ、どうせシャンデリア殿下が文句を仰るであろうから、それに追従すれば良かろう。〉
〈これなら押し切れるのではないですかね。〉
〈ほーう、よく纏められておる。〉
〈しかし、これではクレセリア皇国が不満を抱くのでは?〉
〈果たして阻止できるか?〉
〈これは認めてもよかろう。〉
様々な思惑が飛び交うが採用されなければ意味がない。
「では各自意見を述べよ。」
軍部大臣がまずは先手を取る。
「私は賛成です。マーテル公国と同盟を結べば恐らくクレセリア皇国は停戦を選ぶでしょう。そうなると西は安泰。その間に復興を継続できます。そうですよね?、シャンデリア内務大臣?」
そう向けられたシャンデリアは心の中で戸惑っていた。
〈えっ、軍部は賛成ってこと?、思ってたのと違うわね。〉
「そうね。でも懸念点もあるわ。クレセリア皇国がトランテ王国、エナメル王国と三国同盟を結ぶという可能性はどうかしら?」
いくら帝国でも戦線を三つも抱えるのは大変、出来れば包囲網は回避したい。
「それは私がどうにかしよう。」
「あら?、根拠はあるのかしら?」
「現在、エナメル王国の外務大臣と交渉中だ。」
本当は停戦に関する話しかしていないが、後で盛り込めば同じことである。
「あらっ?、ではそれに関する話もしたほうがいいのではないかしら?、だって話は繋がってるんでしょう?」
〈このアマァ、ちくちくとしつこい!!〉
〈悪いけどリーバー達が動くまで時間を稼がせてもらうわ。〉
睨むエンベルト、笑うシャンデリア。両者譲らず、その様子を眺める皇帝。
〈懐かしいものだ。儂もああやって争った。だが、勝者は一人。誰が勝つだろうか?〉
一瞬、皇帝の座についてほしい顔が浮かぶがすぐにかき消す。肩入れはしない、それがルール。
「そちらはまだ草案の作成中であり、この場で話すのは適当ではない。」
「そう…。なら三国同盟の可能性が完全に消えたというわけではないってことよね?」
「…そのとおりだ。」
今度はエンベルトが苦虫を潰したような顔をする。
「ふむ、財政的にはどうだ、ガルド大臣?」
「そうですね、この、後に割譲される地域に大きい都市が含まれていないのが気になります。下手すれば統治にお金がかかりすぎるかもしれません。」
ここで軍部大臣が口を挟む。
「その土地は帝国軍が狙っていたところだ。確かに大した都市は無いかもしれないが、その地を抑えておけばマーテル公国の攻略が楽になる。」
「…もしかしてマーテル公国は属国にでもなろうとしてしているのかしら?」
「いや、そういう話は出ていないな。」
話がずれ始めてところで皇帝が再び介入する。
「取り敢えず属国云々は置いといて、…では何か商業を始められるだろうか、経済大臣?」
帝国は経済の大切さを理解し始めていた。金が回るからこそ生きられる、と。
「実地調査をしなければ分かりかねることもございますが、恐らく新規では無理でしょう。」
「そうか、ではマーテル公国から経済の切り離しは可能か?」
「恐らく帝国西部の都市と取引が始まれば次第に解消されていくものと思われます。」
「なるほど。法務大臣は同盟についてどう思う?」
「私は反対です。シャンデリア内務大臣が仰ったように三国同盟に発展する可能性がある以上、慎重策を取るべきかと。」
「あい、分かった。では農務大臣はどうだ?」
「そうですね、その地域には大河が流れておりますから、併合できれば干ばつ対策になるかと。作物もよく実るかもしれません。」
その後も同じような意見が飛び出し、やがて皆が皇帝に注目する。
肝心の皇帝は目を瞑り、黙考していた。そして突如目を開け勅令を下す。
「……………ふむ、皆の意見は分かった。先程シャンデリア内務大臣が言ったようにクレセリア皇国がエナメル王国、トランテ王国と手を結び、三国同盟に発展する可能性もあるわけだ。エナメル王国が同盟を結ばないと確約しない限り、マーテル公国と同盟は結ばん。ゆえにエンベルト外務大臣、確約を取ってこい。さすればマーテル公国と同盟を結ぼうではないか。」
〈どのみち儂の代は長くはない。ならば次代には綺麗な形で渡してやりたい。〉
「…御意。」
怒りでエンベルトの声が震えている。
〈シャンデリアァーー、やってくれたな!!。私の邪魔をするとは!!〉
〈フフ、時間稼ぎは出来たわ。私にできるのはここまで。あとは頑張ってちょうだい。〉
ここで会議が終了し、各々が今後の予定を考える。
「殿下…。」
「あの雌狐が!!、これでは振り出しに近いではないか!!」
公爵家を使ってもう一度審議するという方法も考えたが恐らく無意味だろう。大臣会議の結果に対して、もう一度話し合うよう勧告するには公爵家の3分の1以上の賛成がいる。現在、帝国には13の公爵家が存在し、その3分の1以上ということは5の公爵家の賛同が必要となる。後ろ盾の3つの公爵家があってもこの議題では残りの2つの公爵家を加えることは難しいだろう。それに皇帝が再び決断すればもう変わることはない。そして父が決断を変えることもない。変えてしまえば間違っていたと認めることになり、求心力が低下する。それは帝国にとって不利益を意味する。皇帝としては絶対に避けなければならない。
「畜生!!」
エンベルトの叫びが木霊する。
ーー??ーー
「いいか、テメェはゴミ共を誘導して宝物庫を襲撃しろ。それでお前は目標物を奪取して即離脱。返事は?」
「御意。」
「くっ、帝国の皇子がそんな事をしていいんですか?。ゼルドア殿下もリーバー殿下になにか言ってください。」
「兄さん…、教育が行き届いてないんじゃない?」
「なっ…」
「いやー、お恥ずかしいねぇ。あれでも不十分か、壊し甲斐があるなァ。」
そう宣うリーバーの眼は見るのも恐ろしいほど凍てついていた。
「なっ、そんなゼルッ、」
最後まで言葉が続かない。リーバーが話の途中で思い切り女の腹を蹴り上げたのだ。
「テメェさァ、立場を弁えろよ?。処刑されそうだったお前を助けてやったのは誰だ?、ええ゛?」
「ゴホッゴホッ、それは、あなたが無理矢理…」
「そんな答えは求めてねぇんだよッ!!」
「ドゴッ」
「グゥ…」
完全に鳩尾に蹴りが入り、話せなくなる。
「さすが元近衛騎士団長、頑丈だね。兄さんの蹴りを食らってそんな目ができるなんて。」
そこにはまだまだ反抗的な瞳をもつ騎士がいた。
「チッ、しゃーねえー。ならアイツを使うか。おい、こいつはあそこにぶち込め。じっくり教育してやる。」
「御意。」
「兄さん、明日ぐらいから決行しないとまずいよ。」
「んなこたぁ、分かってる。あの爺は使えねぇだろうしなァ。」
双子は暗躍する。ただひたすらに面白いことを求めて。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーマーテル公国との同盟の条件は150話に乗ってます。
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