第159話 コンニチハ

全く、どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだ。これも転生者の宿命なのか?

(もしかしてSS級冒険者かな?)

(ジェドを殺してますから恨まれていても仕方がありませんね。)

(でも証拠は残してねぇし。もしかして未来を視る探偵とやらが動いたか?)

(いいえ、フォーミリア王国の王都を監視していますが、姿は確認できていません。というか、本当は分かっているのではないですか?。)

…未知の魔法って言われたときから影のモノしか頭に思い浮かばねぇよ、ガッデム!!

(…泣いていいか?)

(どうぞご自由に。)

やだ、ほんとに冷たい。泣いちゃいそう。

…つーか、一人じゃなくてマジで良かった。一人だったらこんなに余裕はないもんな。

その後もパールとしばらく会話していると地面に到着した。

「なんだ、ここは?…」

ふーむ、ここは室内かな?。どこなんだろうなぁ?

「カカッ。よくぞ参った、表の者よ。」

声のしたほうを見ると頭と身体の割合がおかしい婆さんと何人かの付き人らしき人達がいた。

頭でか過ぎだろ、怖いとしか感想が出てこねぇよ。

「どちら様でしょうか?」

とりあえず下手に出るんだ、戦いにならないように。…しかしもし戦ったら勝てるのか?、チッ、舌打ちしか出ねぇな、マジで。

「ソナタは知っておるのではないか?」

「…影のモノ、ですか?」

「カカッ、そうかもしれぬな。」

うっざ、うっざ、マジで帰りてぇ。もう敬語使うのやめよう、アホらし。

「で、用件はなんだ?、何もなく呼び出したわけではないだろ?」

〈急に態度が豹変しましたね。マスターらしいといえばマスターらしいです。〉

「そのとおりじゃよ。ソナタに話があってな。」

「話?、なんで俺なんだ?」

「表で一番強いからじゃよ。なら表の世界の代表者は主じゃろ?」

「そうですね!!」 

「まぁ、それだけではないがの。」

(マスター…)

(何だよ、言いたいことがあるならハッキリ言えよ。)

持ち上げられて嫌な気持ちになるやつは少数派だろ?。…というか

「何故そのことを知っているんだ?」

「色の魔力は強大。気づかぬほうがどうかしておる。」

そこまで知られているのか。手の内はかなり漏れてると思ったほうがいいな。というか色の魔力って言うんだな。…もしかしてあっちでも気づいたやつとかいんのかな?。…まぁ、いたとしても俺だとはバレてないから大丈夫っしょ。

「それでソナタも薄々気づいておろうが、ここは光届かぬ闇の世界。我らは裏と呼んでおる。」

「へー。それで表の世界に干渉しているというわけか?」

「そのとおりじゃよ。」

「なぜだ?、表の世界に侵略でもするつもりか?」

もしそうならまた殲滅戦だな。…俺が好きなのは弱い敵を嬲ることなんだけどな。

「否。バランスを保つためじゃ。」

うわー、これ、納得せざるを得ない臭がするな。

「…バランスを保つとは?」

「表の世界が光に溢れすぎないようにすることじゃよ。我らが生きるには月の光を毎晩浴びる必要があるのでな。」

「…つまり発展しすぎて月の光が届かなっては困ると?」 

「そういうことじゃ。」

「でもそれはそっち側の理屈だよな。俺達には関係ない。」

「そう思うじゃろ?、じゃが違う。我らが死ねば闇を吸収するものがいなくなって裏の闇が表に流れ込み、永遠に夜の世界となるじゃろうな。少なくとも今の人類では生き延びられんじゃろう。」

…どうすべきなんだ、マジで。ずっと暗いのは困る。確かに光が消えれば植物は育たなくなるだろうし、間違いなく大勢の人間が死ぬ。つまり殲滅戦は回避か。

「…なる、ほどな。」

「世界というのはよくできておる。調和を保つためにのぉ。だから光と闇がある。」

「何の話だ?」

年寄りは脈絡のない話をするから合わせるのが大変だ。

「つまりじゃ、世界は歪みが生じて壊れないように常に調和を保とうとしておる。それに有効なのが二項対立なのじゃよ。男と女、天と地、光と闇、右と左などといったようになぁ。」

「…それは俺たちが勝手に名付けているだけじゃないか?」

「名付けて成り立っておる時点で、必死に調和を保とうとしている証拠じゃ。」

まあ、どうでもいいんだけどな。俺さえ良ければ。

「…月の光を浴びるということは毎日表に出てきているということか?」

「カカッ、そのとおり。表の者たちが気づいていないだけで夜は我らの時間よ。」

怖っ、もしかしたら地球でもあったのかもしれないな。俺たちが知らないだけで。

「…それで俺に話というのは?」

「ソナタの持つ宝石を譲り受けたくてな。」

「バチバチバチ」

思わず殺気立ち、銀の魔力が迸る。

「何故だ?」

そういうと婆さんは微笑み、理由を告げる。

〈ふむ、話し合いから入るか。こやつを選んで大正解じゃったな。〉

「それは人間には過ぎたもの。特に超越者が持つべきものではない。」

「…超越者っていうのは色の魔力を持つ者のことか?」

「カカッ、鋭いのぅ。そのとおりじゃ。ソナタも異界のものかえ?」

異界?、表だったら表って言うだろうし、もしかして地球のことか?

「……」

「ふむ、言い換えようかの。主は転生者じゃろ?」

「…なぜそう思う?」

「かつての超越者たちも転生者じゃったからよ。」

「!?、初代聖女とかつてのSS冒険者のことか?」

「さあの。表の世界の事をすべて知っているわけではないのでな。」

「ふーん…」

やっぱり俺以外にも転生者がいたんだな。まぁ、同じ地球とは限らないけど。

「それよりも話を戻そうぞ。宝石を手放すつもりはないかえ?」 

「ない!!」

「何故じゃ?、使う予定でもあるのかえ?」

「ないな。」

「ならば何故じゃ?」

そんなの決まってる。

「俺のものだからだ。」

俺は自分のものを取られるのが最も嫌いなことの一つだ。俺の物は俺の物、誰にも譲る気はない。

「そうか…」

「戦うか?、別に構わんぞ。俺にも譲れない一線がある!!」

(ただ頑固なだけでは?)

(そんなの、どう言うかの違いなだけだ。)

それに戦いにはならん、と思う。

「…カカッ、何、やり合うつもりはない。それに賢明なソナタは使わなさそうじゃからな。不老が常に幸せとは限らんからのぉ。」

「…だな。」

「何より今回の一番の目的はソナタと接触することじゃからの。」

「ふーん。」

ちょっと大掛かり過ぎるよ、婆さん。

「何か聞きたいことがあれば聞くが良い、もう当分会わないじゃろうからの。」

いや、出来ればもう一生会いたくないんだが。

「…アンタの名前は?」

俺がそう言うと婆さんは目を丸くして笑い出す。

「カカカカカカッ、何を聞くかと思えば妾の名前か。面白い人間じゃ。妾の名前はサンシャレクス。ソナタの名前は?」

名前がサンなのか?、すごい皮肉だな。

{実際の名前はサンシャレクス、家名はなし}

「ギラニア帝国、男爵家の次男、ジン・フォン・エルバドスだ。というか知ってるんじゃないか?」

「我らが知るのは断片的な情報だけじゃよ。ソナタが宝石を手に入れたことを知ったのも偶然宝石を追っていた同胞が見たからじゃしな。」

〈それにしてもエルバドスとな?、アヤツの子孫か。それが帝国に仕えているとはのう、皮肉なんもんじゃて。〉

「ふーむ、だいたい何人くらいいるんだ?」

「秘密じゃ。もっと仲を深めてから語り合おうではないか。」

チッ、流石に教えてはくれないか。それにしてもウインクが驚くほど似合ってない。

「それは残念だ。」

「本当はこの世界を案内してやりたいのじゃがな、ソナタにも表の生活があるであろう。今回はソナタと接触できたし、これくらいで良かろう。また会おうぞ。」

そう言って婆さんは大きい闇の球体を作り出す。

「…この中に入ればいいのか?」

「察しが良いのう。そのとおりじゃ。」

ええーい、ままよ。

特に確認することもなく、飛び込む。

(マスター、思い切りが良すぎませんか?。マスターのことがよく分からなくなってきましたよ。)

(そう?、俺はもう早く帰りたいんだ。軽率だったとは思うけど。)

浮遊感を覚え、ボーッとしているとまた元の世界に戻って来ていた。

(まじで疲れた。早く寝るか。)

(それにしてもまさか影のモノと接触するなんてさすがマスターですね。)

ちっとも嬉しくない。刺激が強すぎる。しかも押し付けられる相手もいないし。でもあの魔法を会得すれば影の世界に行けるってことだよな。魔法って感覚の部分が大きいからなぁ。また練習か。よくよく考えれば、赤ちゃんの頃から魔力操作しているから俺ってかなり努力してるんだよなぁ。

その後、部屋に戻り、フレイたちと適当に会話を交わしてから眠るのであった。

ちなみに昼が課外授業だったので戦闘訓練はなかった。よきかなよきかな。


ーー??ーー

「首領、本当に良かったのですか?。あの宝石を取り上げなくて。」

首領と呼ばれたモノはすでに老人の姿をやめ、光すら吸収する濃密な黒い影となっていた。

「構わんじゃろ。アヤツは使わん。孤独というのはしんどいからのぅ。それにアヤツが本気を出せば我らでも勝てん。歴代の超越者の中でも最強であるがゆえにの。しかし衝突することはあるまい、アヤツは対話から入るからの。しっかり意思疎通すれば問題なかろうて。」

「…監視は継続します。」

「勿論じゃ、ただし気づかれんようにな。」

超越者を放置するほど影のモノは暢気ではない。超越者は表の世界を変える力がある、だからこそ注目してきた。そしてジンに至っては裏の世界さえも――

〈…また時代が動くか。大抵は時代の節目に超越者が現れる。つまりは…そういうことなんじゃろうな。〉

長き時を生きれば暇もある、そして秘法と呼んでも差し支えのない究極の魔法を作る時間も。生きている間、サンシャレクスは魔法で実験、観測し、ずっと考えていた、世界のあり方を。

世界は調和を保ちつつ、発展しようとしている。そしてその発展の為に超越者を用いているのではないか?、そうサンシャレクスは考察した。

超越者に必要なのは格の高い魂、それは記録、すなわち記憶が残っている魂を意味する。通常は記憶が消され、魂の格は少ししか上がらない。記憶が抹消されるのは新陳代謝を促して常に流動性を生み、可能性を絶やさないため。だがほんの一握りの魂の記録を消さないことで劇薬とし、反発か融合といった化学反応で世界は飛躍的に進化してきた。その化学反応は常に正しいとは限らないだろう。だが世界はその発展方法を選んだ、一番効率的だから。

しかしそれは何の為に?

恐らくは世界の完結のために――

そうサンシャレクスは結論づけた。しかし、その始まりと超越者が時代の節目に現れる理由についてまでは分からなかった。だが確実に一つわかるのは超越者が現れれば時代が変わるということ。一番わかりやすかったのは貴族の時代から王の時代へと移行したあの時だろうか?

また時代が変わる。サンシャレクスは己の倦怠感が緩和されていくのを感じ、微笑んだ。







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