第157話 課外授業6
転移した先は人里離れた山の中。
ここなら暴れてもいいだろ。ストレス発散にこいつで遊んでやろう。
「ドル、…ボボボボボボ」
エンジン音が更に変化する。
(まだ強くなるのか、上げ幅が大きすぎないか?)
(こんな見た目でもSランクですからね。強いのは当然です。)
面白みの無い答えをどうもありがとう。
「時間が限られてるからな。悪いけどすぐに終わらさせてもらうぞ。」
…フラグじゃないよな?、異世界ってだけでフラグを警戒しないといけないもんなぁ。
「ウボッ、ウボウボウボウボ」
そして奴は変な唸り声を上げて迫ってくる。
それにしてもこいつ殴り合い好きだな。いいだろう、付き合ってやるよ。攻撃魔法を使えば瞬殺しちまうからな。それに練習にでもなるだろ、肉弾戦の授業はないし。そもそも肉弾戦の授業は絶対やるべきだと思うけどな、スマートな戦い方ばかりじゃないだろ、戦場は。
「ブンッ」
凄まじい威力の炎の拳をしっかり受け流していく。
よしよし、見えてはいる。けど反撃の仕方がわからんな、前世でも殴り合いとかしたことないしなぁ。蹴りなら分かるんだが。
(マスター、何戯れてるんですか?。早くしないとエッグ達に不審に思われますよ。)
なぜ、ここでエッグを出す?。こいつ、性格腐ってきてるんじゃないか?。パールにかなりの懸念を抱きつつも、一気に終わらせにかかる。
(へいへい、さっさと終わらせますよっと。)
もう魔法でいいや。飽きた。
フレームモンキーと一気に距離を取り、魔法を行使する。
「風槍」
凄まじい威力の風槍は文字通りフレームモンキーの身体に風穴を開けるだけに留まらず、後ろの木々もなぎ倒していく。
「バキバキバキバキ…」
…やっちまった。ここだけ竜巻が通ったみたいだ。
(派手にやりましたね。まぁ、エッグ達には気づかれていないでしょうが。)
(たぶんストレスが溜まってたんだろうな。)
振り返れば、過剰に魔力を込め過ぎたような気もする。まあでも、スッキリしたからいいか、大事だもんな、ストレス発散は。
(マスターはストレスが溜まらないような気楽な生活をしていますけどね。)
(見解の相違というやつだな。)
(それを言えばいいってもんじゃないんですよ?)
(そっくりそのまま返してやるよ。)
(本当に減らず口ですね。)
(口が減ったら怖いだろ?)
(…)
勝ったな。どんな形での勝利でも嬉しい。
〈マスター、ひねくれ過ぎではないですか?。たった12年だけでこんな酷い有様になるでしょうか?。それに出会った当初も大人びている、…いや違いますね、図々しくありました。つまり…演算不能。〉
「さてと帰るか。転移。」
強化した視力でフレイたちの場所を確認し、森に戻る。そして素知らぬ顔でフレイたちと合流する。
「ジン、大丈夫だったの?」
「ああ。何とか。」
マリー、間延びしてないな。そんなに心配してくれたのか、何か嬉しいな。
「まあ、ジンが負ける姿は想像できないよな。」
「チッ、テメェ…」
「何だ、バルア?」
最後まで言ってくれないと気になる。
「何でもねぇよ。」
全く、まぁ難しい年頃だもんな、でも口にしてくれないと分からないぞ。
「ジンの強さに驚いているだけだろ。それよりフレームモンキーはどうなったんだ。」
「適当にいなしてたら走り去っていったよ。」
(いいんですか?、嘘をついて?)
(死体がないからな、倒したと言うわけにもいかないだろ。)
(では口止めが必要ですね。)
(確かに。)
「本当か?」
疑い深いな。ラギーナは俺のことを嫌ってそうだしなぁ。
「本当だ。あとこの話はここだけにしておこうぜ。」
「…ああ〜、先生に実力がバレたくないってことだね〜。」
流石マリー、頭の回転が早い。子供だと侮らないほうがいいな。
「そういうことだ。ちなみに言ったらもう訓練はしないからな。」
まぁ、多分そんなことになったら学園から去るけどな。他の奴らの事なんて知ったことかよ。
「…まあ、マリーは言わないよ〜。」
「俺も言わないぞ。もっと強くなりたいからな。」
「なっ!?、二人とも。それは帝国貴族としてどうなんだ?」
忠誠心が高いねぇー。立派立派、偉い偉い、でも俺からしたらなんの価値もないけどな。
「じゃあ、ラギちゃんはジンに戦ってもらわなくていいの?」
「そ、そうは言ってない。だが…」
「俺はテメェの口車に乗ってやるよ。テメェに勝ち逃げされるわけにはいかないからなァ。」
「バルアまで…、チッ、今回だけだからな。次はない。」
「そいつはどうも。エッグもそれでいいよな?」
「う、うん。」
なよなよしてんなぁ、こういう奴は好きじゃない。
(無事に丸く収まって良かったですね。)
(まあ、いざとなればトンズラするだけだからな。どうでもいいっちゃ、どうでもいい。)
(冷めてますね。)
それにしても戦犯のエッグは大人しいなぁ。
あっ、元からか。
「じゃあ〜、そろそろ戻ろうか〜。もう12時だしねぇ〜。」
「そうだな。そうしようか。」
それから俺達はまた森の入り口へと戻るのであった。
ーー??ーー
「エナメル王国は帝国と停戦を結ぶつもりのようですね。」
「ああ。本来は我が国もそうすべきだというのに、本国の頑固ジジイ共は戦場にも出ないくせに囀る。老害ここに極まりだ。」
「フフ、言い過ぎですよ。しかし、腰が重いのはどうにかしたほうがいいですね。恨みがあるとはいえ、我が国単独では勝てません。」
「ああ。流石にそれぐらいは理解してると思うんだがな。」
「公安が動きますかね?」
「かもな。今代の陛下は強権発動も躊躇なさらないからな。」
「公安は治安を乱すためじゃなくて維持するためにあるんですけどねぇ。」
「未然に秩序が大幅に乱れるのを阻止するのも大切だ。」
「本当にそうなら、ですけどね。」
「どちらにせよ、それを判断するのは陛下か長官だ。」
「まあ、そうですけど。」
トランテ王国の歴史も帝国ほどではないが古い。そのため、考え方が慣習にとらわれていた。先例をとにかく重んじるのだ。だが、それでは帝国には勝てない。なぜなら現状維持は不可能なのだから。
帝国は良し悪しは置いといて常に向上心がある。それが現在の両国の差に繋がっている。しかし今代のトランテ国王は傑物、そのような風潮を変えようとしていた。改革の芽が出始めるまで耐え抜けば、希望はある。
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