第156話 課外授業5

「ドルッ、ドルッ」

辺りに重低音が響き渡る。例えるなら外車のエンジン音?、体の芯にまで響いてくる。

(何だこいつは?。何か音を出してないか?)

(これはフレームモンキーですね。心臓から高速で血液を送り出しているため、ここまで音が響いているのです。)

えっ、やばくね。心臓の音がここまで響くのか?、見た目はいかついお猿さんなのに。それにしても破裂しないのかな?、文字通り凄い強心臓だ。

「ッッ、こいつはフレームモンキーか!!、どうしてこんな所に!?」

俺達は全員、身体に身体強化を施し、身構える。

へー、フレイは知っているのか。というか俺、一応冒険者活動してたんだけど出会ったことないなぁ。世界は広い。

(ランクで言えばどれくらいの強さなんだ?)

(子供でA、大人でSランクですね。)

(…高くないですか?)

いやいや、そんなやつが帝都の側にいちゃ駄目でしょ。というかこれ、俺が戦うことになるのでは?。……いや、バルア君とラギーナ君が何とかしてくれるさ。

ほぼ確信しつつも、まだ必死に現実を否定する。

そんなことを思っている間も状況は刻一刻と変化する。

「信号弾は誰が持ってるの〜?」

ここでもマイペースなのか。やるな、マリー。お前を見くびってたよ。

「俺は持ってないぞ。」

こいつもこいつで緊張感がないな、さっきはあんなにビックリしてたのに。それにしてもラギーナ達はどこまで行ったんだ?、全然帰ってこないじゃないか。早くしてくれよ、戦うなんてゴメンだぞ。

「俺もだ。」

「ぼ、僕が持ってるよ。」

どうしてエッグが持ってるんだよ?、フレイが班のリーダーなのに。まぁ、どうでもいいか。大勢に影響はない。

「じゃあ撃って〜。」

気の抜けた声でマリーが言った瞬間、フレームモンキーの姿が消えた。そして気付いた時にはマリーの前まで迫っており――

「ドゴッ」

吹き飛んだ。

…やっちまった。つい、助けちゃった。まぁ、今更ではあるのかなぁ?。…いやはや、そういう問題ではないよな。やっぱり人のために動くには大義名分がほしい。誰かの為に無償で何かするなんて俺じゃない。

「ありがとう〜、ジン。」

「マリー、お前能天気過ぎないか?。俺が介入してなかったら死んでたかもしれないんだぞ?」

尊敬するわ、マジで。俺だったら必死で逃げるね、たとえ死ぬとしても。

「そうかもね〜。でも助けてくれるって思ってたし。」

「ハァーーー。」

それはもう深いため息が出た。こいつ、肝が太すぎるだろ。俺がマリーの立場だったらそうは思えない。人が人を助けるのに理由なんていらないと言うが、俺はそう思わない、…と思っていたんだが、他ならぬ俺の身体は動いていた。ハァ、最悪だ。こういうとこからボロが出るからな、気をつけねぇと。でもまさか助けるとはなぁ、なんか嫌だ。

(マスター、疲れた顔をしてますよ。)

(この状況で疲れないやつがいるならお目にかかりたいもんだ。)

(あそこにいるじゃないですか。)

(え?)

「何やってんだ、テメェら。」

「全くだ。遅いぞ。」

俺達がなかなか来ないのを不審に思ったのか、ラギーナとバルアがやって来る。

んー、こいつらじゃ、多分勝てねぇんだよな。そもそもスピードについていけない気がする。

「あっ、二人とも〜、見てよ、あれ。」

「あん?、…あれは何だ?」

バルアは知らないのか。良かった、仲間がいた。

「あれは、…フレームモンキーか!?。どうしてこんな所にいるんだ?」

ふむ、ラギーナは知っていると。学力の差が出てるな。まだテストを受けてはいないから結果は知らんが。

「ハッ、フレームモンキーだァ?。ぶち殺してやる。」

そう言うやいなや、バルアは剣に風を纏わせ、斬りかかる。しかし結果は――

「ドン、ドッドッドッ」

蹴りの一つで吹き飛び、地面に伏してしまった。

「バルア、大丈夫か。」

そう言ってフレイはバルアに駆け寄り、身体治癒を施す。

流石フレイ、我が班のリーダー。頼りになるぅ、そこに痺れるぅ。…とまぁ、ふざけるのはこのくらいにして、どうするか考えるか。

「…強いな。信号弾はもう上げたのか?」

ラギーナにそう言われて俺達はエッグの方を見る。

「ご、ごめんよ。やり方がわからないんだ。」

必死で信号弾をいじっているけど、壊すなよ。そう思った瞬間――

「バンッ」

そう音を立てて水平に飛んでいった。そして辺りが明るくなる。しかし恐らく教師は気づいていないだろう。

「「「…えっ?」」」

俺達は見事にハモってしまった。

「ックク。」

それから必死で吹き出すのを我慢する。

フハハハハハハ、こいつ、やりやがった。やべぇ、面白すぎる。

(…マスター、流石に笑うのはヒドイですよ。)

(だ、だって、こんなの、笑うしかないだろ。)

やり方が分からないなら勝手にいじらなければよいものを。

もう、これどうすんだ?

「ご、ごめん。ほ、本当にごめん。」

エッグは顔面を青ざめさせ、何回も謝る。しかしフレームモンキーは待ってくれない。

「ウホッ、ウホッ。」 

んー、俺を見てるな。まぁ、風魔法で吹き飛ばしただけだからな。

(どうするんです?。この面子ではマスターしか勝てませんよ。)

(どうしよう?) 

エッグがミスらなかったら、教師が来るまで持ちこたえたら良かったんだけどなぁ。まぁ、教師は死ぬだろうけど知ったことじゃない。そもそもエッグが一番の戦犯だが、エッグを責めるのはお門違いだ、だってあんなに笑わせてくれたんだから。

「ウホッ」

そんな俺の思考の合間を縫って、急に襲いかかってくる。先程よりも速い。

「チッ」

炎が纏われた拳を後ろに下がって避けるが、さらに加速し距離を詰めてくる。

(気をつけてください。フレームモンキーは身体の細胞を炎で活性化し、通常時の何倍も強くなりますから。)

(言うのが遅い!!)

(聞かれませんでしたので。)

…本当に俺が主人なんだろうな?

「風纏」

これは、俺が編み出した技だ。防御並びに自動で反撃ができる。そして格段に動きも速くなる。

「トン、…ドゴッ」

手刀で拳が振るわれる方向を変え、かなり本気の蹴りをお見舞いする。

チッ、流石に腕は斬り落とせなかったな。周りにフレイ達がいるからなぁ。いなかったらすぐ終わらせられるのに、めんどくせぇ。

「凄いねぇ~、ジン。マリーはもう見えてないよ。」

「…ここまで強いのか、この歳でッ。」

マリーとラギーナの差が凄い。特にラギーナ、向上心を持ちすぎだろ。尊敬するわ、マジで。

「くそっ、あの猿、ぜってぇぶっ殺す。」

「落ち着け、お前じゃ勝てないのは分かっただろう?」

「そんなことはねぇ!!」

「現実を見ろ!!」

おお、こっちはバルアとフレイがバチバチにやりあってんな。珍しい。

「ウボッ、ウボッ」

きもっ、鳴き声が変わってる。それにエンジンも激しくなってる。

(気を付けてください。本気で来ます。)

(まだ本気じゃなかったのか?)

(はい。背中を見てください。)

背中?

(…なんか膨れ上がってないか?)

まるでジェットパックみたいだ。

(あそこから風が吹き出し、とてつもない推進力が生み出されます。気を付けて下さ…)

「ドンッ」

話の途中でフレームモンキーが大地を踏みしめてものすごいスピードで迫ってくる。

はやっ!!、不味いな。

一気に身体強化のレベルを上げ、風纏も濃密にする。

「ズザザザッ」

どう対応すればいいか、分からなかったのでとりあえず拳を左手で掴んで受け止めるが、凄まじい威力で押されていく。

「ジンーー!!」

恐らくマリーであろう声が急速に遠のいていく。

クソッ、身体の方は痛くはないが、これは不味いな。湖に着水なんてゴメンだぞ。

(マスター、大丈夫ですか?)

(まあな。とりあえず転移でここから離れるわ。)

(それがいいですね。)

フレームモンキーの死体さえ上がらなきゃなんとでも言い訳できるからな。

そしてフレームモンキーごと魔力で包み――

「転移。」


ーー??ーー

「総括、各ギルドからの報告です。」

総括と呼ばれた男性が報告書を受け取る。そして読み進めていくうちに顔が険しくなっていく。

「…これは不味いかもしれんな。」

「はい。各地でいるはずのないモンスターが現れ始めています。それとこちらは不確定な情報ですが、現れるモンスターの数も増えているという試算があります。」

「…。SS級冒険者にはこれらの情報を伝えておけ。それとジェドの行方は分かったか?」

「申し訳ありません。マルシア王国にいた事までは掴んでいるのですが、それ以降の足取りは追えてません。」

「あいつに限って死ぬような事はないと思うが…。」

「何にせよ、備えないといけないでしょう。前回は運良くリュウの襲撃を退けられましたが、事前に襲来を把握することはできませんでした。あのような事態は最後にすべきです。」

「分かっている。…ところで銀仮面が現れたという情報はないか?」

「ありませんが、どうかされましたか?」

「アマルンティアからの突き上げが激しくてな。」

「ああ。…お疲れ様です。しかしそんなに強いんでしょうか、銀仮面とやらは?」

「ああ。どうやら数体のリュウと渡り合っていたらしい。」

「!!、それは確実にS級冒険者以上の実力がありますね。」

「だが、あいつは戦いの最中、姿を消したそうだ。それで最後に現れたのはトランテ王国だ。…いったいどこにいるんだろうな?」

「謎が多いですね。でも今はやるべき仕事があります。」

「もちろん分かってる。各支部に通達を送っとけ。」

「了解です。」

ここでは話題にならなかったが、最後空を染めあげた謎の紅と銀の炎は未だ謎である。帝国人の間では大精霊の御業だと信じられている。ちなみにセントクレア教と対を成すエルフィー教は大精霊を信仰している。









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