第155話 課外授業4
あれから気まずい雰囲気のまま、俺達は湖へ向かっていた。
ハァ、空気が重いなぁ。ムードメーカーのマリーが黙っているのが大きい。こういう時こそ頑張ってほしい。というか元を辿れば教師のせいだ。同じ部屋だからって俺たちに押し付けないでほしい。
そんなことを思っていると戦闘狂共が動き始めた。
「おっ、あれはスライムだな。俺様が倒してやろう。」
「あっ、ずるいぞ。待て。」
バルアとラギーナがスライムへ向かって駆け出していくが、俺からするとこの場からの離脱にしか見えない。
元気な二人を見送っているとパールが話しかけてくる。
(マスター、宝石の解析が完了しました。)
(!!、それでどうだった?)
マジで若返るならどうしよう。不死ではないっぽいから使うのは普通にあり、か?
(理論上は可能、といったところでしょうか。製作者の執念が伝わってきました。)
そんなのはどうでもいいんだよ、あの物語を読めば分かるだろ。それよりも結論を言え、結論を。
(結局、若返るのか?)
(若返りますね。どうです?、死なない方法を手に入れた気分は?)
(…微妙だな。)
本物なのは嬉しいけど思ったよりは嬉しくない。終わりが見えない人生は辛そうだからなぁ、最終的には自殺してしまいそうな気がする。それに人生って良いことより悪いことの方が圧倒的に多いからな、長く生きればその分不快な気持ちになることも増えるだろうし。
(意外ですね。てっきり手放しで喜ぶと思っていました。)
(終わりがないっていうのもしんどいからな。)
(私には分かりませんね。)
だからこその人工知能なんだろう。深いところで人の感情を理解できていない。
(仕方ないな。お前は人間じゃないから。)
(……………。)
パールが押し黙る。何を考えているかは人間には分からない。そしてしばらく沈黙が続いていると雰囲気を変えようと思ったのかフレイが話しかけてくる。
「なあ、ジン。ジンは魔法剣は使えるのか?」
魔法剣?、何だその心躍るフレーズは。魔法の練習ならウェルカムだぞ。ゲーム感覚で面白いから。
「魔法剣?、魔剣じゃないのか?」
「知らないのか?、魔法の最終型とも言われてるんだが?」
知らねー、家の教育でも習わなかったぞ。男爵家だからか、それとも両親がズボラなせいなのか、…絶対に後者だな、間違いない。
親ガチャ、そんな言葉が頭をよぎる中、フレイに尋ねる。
「へー、具体的にどういう感じなんだ?」
「魔法で武器を作って、それを操るんだ。」
もしかしたら黒剣的なやつのことか?、なるほど、やっばり皆思いつくんだな。ジェドも使ってたし。だが、ここで実力を見せるわけにはいかない、俺の平穏な生活のためにも。
「…難しそうだな。フレイは出来るのか?」
「出来ないから聞いたんだ。ジンならもしかして…と思って。」
多分、今の俺なら火魔法とかでもできるだろ。黒剣を作るのに一番大事なのは魔力操作だったからな。赤ん坊のころから鍛えているから魔力操作には自信がある。
「…意外だね〜、ジンでも出来ないんだ。」
これまで黙っていたマリーが急に会話に入ってくる。エッグは黙ったままだというのに。
「そりゃそうだろ。俺を何だと思ってるんだ?」
俺の体はこの世界の人類と同じだぞ。
(化け物じゃないですか?)
(失礼だな、相変わらず。)
(いいえ、私は敬意を払ってるんですよ。あの時代には規格外が少なかったので。)
敬意を払うのに人を化け物って言わないだろ。これだから感情のない無機物は。
(ふーん、魔法陣が発達し過ぎていたからか?)
それが原因で影のモノの介入を受けたようだしな。
(その通りです。魔法陣が強力すぎたため、個人の力にはあまり意味がなくなり、必然的に規格外の人間が減ったのです。)
(そりゃ、自分を鍛えるよりも魔法陣の開発でもしたほうが効率はいいだろうな。次の世代にも受け継がせられるし。)
(はい。ですが博士は危惧していました。もし魔法陣の開発者が何らかの原因で居なくなれば、世界はあっという間に大混乱に陥ると。)
魔法陣って車のようなものだからな。仕組みを知っているのは極一部の人のみ。一人で作り上げられる人なんて皆無ではないだろうか?
(それはそうだな。)
(そして規格外の人間が減少していることにも危機感を覚えていました。魔法陣のみに頼るのは良くないと。非常時には何が起こるか分かりませんから。)
(俺もそう思う。リスクの分散は基本だからな。)
(そうですね、私もそう思います。ですが博士の意見は少数派。魔法陣の発展のみに世界は注力していました。)
(そして戦争が勃発し、古代文明は廃れたと。)
(その通りです。かつての戦争の時に規格外の者がいれば戦争を早期に終わらせられたのではないかと博士は思っていたようです。)
(希望的観測がすぎるな、それは。)
人に期待しすぎだ、規格外の人間が善人だとは限らない。むしろ悪人であった場合の事を考えると、居ないほうが良いという場合もあるだろう。世の中の人間の大半は愚かだから。まあ、俺は自覚した上で愚かだけどな。
(…そうかもしれませんね。ただそれほど人類は追い詰められていたと言う事です。もともと博士は個人の力で最強になりたかったようですが、素質がなかったので諦めて私を作ったのです。)
(お前は攻撃手段を持っていないんだろ?)
(そうですね。攻撃用魔法陣のソフトが搭載される前に博士は行方不明になりましたからね。)
ソフトか、ナチュラルにオーパーツのフレーズを使ってるな。
(ん?、ということはソフトがあれば攻撃できるのか?)
(はい、できます。ですが博士が影のモノに暗殺されていたとしたらソフトも消されているでしょう。)
ここでもちらつくのか、影が。俺も強くなったからいつか接触してくるかもしれないな。でも対処のしようもないしなぁ。まぁ、死ぬときは死ぬし、生きるときは生きるか。
(恐ろしい時代だな。その事を思うとこの時代に産まれて本当に良かった。)
(マスターならそう言うと思っていました。)
やっぱり平和が一番だ。その上でゲームとかがあれば言うことは無しなんだがなぁ。
パールと会話しているといつのまにかフレイ達との会話が終わっていた。このままお通夜の雰囲気が続くかと思われたとき、遠くでうなり声が聞こえてきた。
「ドルッドルッ」
ああー、うん、何となくこうなると思ってた。あいつらに何とかしてもらおう。そう決意をして現実逃避する。
ー-??ー-
「これはジーギス大臣、此度は停戦に関する話で参られたという事でよろしいでしょうか?」
「そうなります、エンベルト外務大臣。」
「単独で来られたのですか。」
「ええ。トランテ王国のペール外務大臣はどうやら本国で話が纏まらず、動けないようでして。ですが我らとしてもいつまでも待つわけにはいきません。」
「なるほど。では条件について話し合いましょうか。」
エンベルトは柔和に微笑む。
〈まさか向こうからくるとはな、好都合だ。だが、ここでできるだけ好条件を引き出す。外務大臣を選んだのは正解だったな。〉
他国との交渉で好条件を引き出せば、評価が上がる。帝国は大陸唯一の超大国のため、大抵の場合、帝国は譲歩される。それでも手柄となるのだ。だからこそ外務大臣の座は帝位候補者が虎視眈々と狙うポジションとなる。油断を見せてはならない、誰もが優秀で、隙あらば引きずりおろそうとするのだから。
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