第154話 課外授業3

「どうする皆?、とりあえず湖の方に向かってみるか?」

「ああ、そいつがいい。こんな浅瀬じゃスライムさえ出ねぇ。ったく、コブリンでさえ教師を呼べとか俺たちのことを舐めてんのか?」

「それは仕方がないよ〜。先生だって私達が怪我したら困るだろうからね。」

そのとおり。誰かが大怪我でもしたら、まず間違いなく教師は首だ。下手すれば物理的に首も飛ぶ。俺はどちらかといえば教師の味方だ、元庶民なので。

それにしても教師という仕事が大変なのはこちらも同じだな。いや、普通にこっちのほうが大変かもしれない。処分が重すぎるからな。

しっかし、本当に将来どうっすかな?。やっぱり俺的には図書館の司書を狙いたい。こっちでも資格とかいるのかな?。もし必要なら改めて考えよう、もう勉強はしたくないからなぁ。

そんなことを考えているとラギーナも会話に参加し始めた。

「私もバルアの意見に賛成だ。オークも領地で倒したことがあるからな。これじゃ訓練にならん。」

「いや、空気に慣れろって事じゃないか?。同世代で行動するのは初めてだろ?」

俺は浅はかな子供の考えを論破した、つもりになっていた。そう、ここは民主主義ではない。

「いや、派閥内で同年代の子と狩りはしたことがあるな。」

「私も〜。」

「ハッ、テメェの家は浮いてるからな、経験してなくてもしょうがねぇだろ。」

「そういうことだ、ジン。」

皆が華麗なる連携で俺の心を抉る。ヤメて、俺のライフはもうゼロよ。

「…その割には取り巻きがいないよな、上級貴族なのに。」

せめてものささやかな抵抗。

「学園に政治を持ち込むのは皇帝陛下が禁じておられるからな、誰も逆らおうとはしないさ。」

なるほど、色々考えられてんだな。

(マスターの無知が露呈中です。すぐに対応してください。)

こ、こいつ。自律してないAIみたいな言い方しやがって。

(うっせえ。しゃーねーだろ、知らなかったんだから。)

(知らないで済まないことも世の中には沢山あるんですよ?)

(クッ、言い返せない。)

(いいですか、未成年の貴族が帝位争いに巻き込まれないように学園に通学させるという面もあるんです。たとえ親が粛清されても子が守られるよう調整されているんですよ。まあ、粛清なんてあまり起こらないんですけどね、大体は力を削られるくらいです。)

(…へえー。)

日増しに増すパールの学習速度、これはもう俺の十八番の屁理屈で対抗するしかない。

「ねえねえ、エッグくんの魔法の適性は何なの?」

パールと会話しているとマリーがいきなり地雷を踏み抜いた。

君を第二のアレナと認定してあげよう。一番触れちゃだめなやつだろ、人物的に。空気読めよ、この一言に尽きる。

「え、えっと、その…、僕、魔法の適性が無くて身体強化しか出来ないんだ…。」

エッグがそう言った瞬間、場の空気が凍る。

ヒュ〜、マジかよ。考えもなしに凸るからそうなるんだ。自分で対処してくれよ。

(マリー、やっちゃいましたね。)

(だな。どうすんだよ、この空気。)

現在、こちらは非常に重い空気となっております、現場からは以上です。

「そ、そうなんだ。ごめんね。」

これには流石にマリーも間延びした声で答えなかった。

「何、それなら身体強化を限界まで鍛え上げれは良いだけだ。そうだ、お前もジンと戦ったらどうだ?。こいつは腹立つことに強い、得るものは多いはずだ。」

ハァァァ!?!?!?!?、ラギーナ、お前何言ってくれちゃってんの!?!?。

「お、おい。」

「そ、そうだね〜、それがいいと思う。」

マリー!!!、俺に尻拭いさせんじゃねぇ!。

この世界に転生してから一番頭にきているかもしれない。こういうのが最も嫌いだ。

「いや、ならラギーナとマリーが教えてやればいいじゃないか。俺は、本当は戦いたくないんだよ、平和主義者だし。それにそもそもはバルアだけだっただろ?」

あくまでもこいつらは俺より立場が上なので、正論で攻め立てる。

「そ、それはそうなんだけどさ〜。友達でしょ、エッグ君は?、同じ部屋なんだし。」

マリーはさらに超特大の地雷を踏み抜いた、踏み抜いてしまった。男子の事情は知らないので仕方がないのかもしれないが。

おいーーー!!、勝手に友達とか決めつけるな、違ったら悲惨なことになるんだよ!!。

「「「…………。」」」

俺たち男性陣の反応を見て、悟ったのだろうか。マリーは顔を青ざめさせて沈黙してしまった。

(…今度こそ終わりだ。もうどうやってもこの先ずっと気まずいままだろ。)

(一番の原因はマスター達がエッグと距離を取っていたことなんですけどね。)

(俺達が悪いみたいに言うなよ。気の合わないやつとは話したくないというのは当然だろ?)

前世では話したくないやつとも話さないと浮いたりするから話さざるを得なかったからな。だけどそれはもうゴメンだ。合わないやつとは話さない、そう決めてるんだ。

(そうですか、好きになさってください。それよりもどうやってこの場を乗り切るのかが楽しみです。)

でしょうねぇ!!、俺も絶対当事者じゃなかったらすげぇ楽しんでたよ。

「なら、今友達になればいい。そうだろ?」

ここでラギーナ選手のファインプレー。

「そうだな。」

フレイだけが賛同し、バルアはそっぽを向いている。マリーの様子を見るともう余計なことは言うまい、とでも思っているのか前しか見ていない。

俺はどうすればいい?、妥協するしかないのか?。

(マスターの対応で全てが決まりますね。)

(それは言いすぎじゃないか?、全ては決まらないだろ。)

(マスターは知ってるか知りませんが、このグルーブ内ではかなり影響力があります。ですから残り一人のマスターの対応次第でエッグの立ち位置は変わります。)

…くっそ、俺はできれば傍観者が良かったのに、なんでこんなことになってるんだ。恨むぞ、マリー。

それから俺の出した答えは―――

「まあ、そうかな?」

否定も肯定もしない、逃げの一手だった。

(ヘタれましたね。)

(ふん、これが俺の処世術だ。)

その後、気まずい雰囲気のまま、湖へ向かうのだった。


ーー??ーー

「素晴らしいですね。まさかそのお歳で魔法剣を習得されるとは。」

「だが、これを実践で使えるかは別だ。父上に賊刈りを申請しておいてくれ。」

「御意。」

少女が手にするは髪と同じどこまでも燃え上がらんとする真紅の大剣。これが習得できるのはほんの一握り、まさに選ばれたものだけが使うことができる。

「ふふ、早く戦場に行って、全てを焼き尽くしたいものだ。」

燃え盛る大剣を空に向かって振り上げ下ろす。それだけで炎がどこまでも登ってゆく。

その姿を見つめる部下たちの瞳は―――

「どこまでもお供いたします。」

狂気に染まっていた。少女の持つ圧倒的なカリスマに魅了されているのだ。これこそが真の王、生まれでも血でもない、人を惹きつける雰囲気。自分を犠牲にしてでもいいからどこまでも突き進んで欲しい、そう思わせられるのは本物のみ。そして本物に勝てるのも本物のみ、さて世界にどれほど本物はいるのだろうか?



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