第153話 課外授業2
「ガチャッガチャッ」
まじで鎧の音がうるさい。それに甲冑のせいで前も見えにくいし、良いことなしだ。まぁ、俺のは高級品じゃないから当然といえば当然なんだけども。
(マスターに鎧は似合いませんね。どうです?、武器くらいは自前のものを使われては?、せっかくオークションで競り落としたんですから使わないともったいないですよ。)
(いや、それって魔剣のことだろ?。使えるわけねぇじゃん。)
あんなの悪目立ちする気しかしない。
(ではあの笏とか、武器屋のお爺さんにもらった剣とかはどうですか?。少なくとも学園のよりは格段に優れていますよ。)
正直、考えなくもなかったが俺の身分は男爵家の次男。上級貴族並みの武器を使って悪目立ちしたくない。ただでさえ、貴族社会で浮いているっていうのに。
(…却下だ。まあ、剣の練習だと思って頑張るわ。真の達人は剣を選ばないからな。)
俺は滅茶苦茶選ぶけどな。やっぱり形から入るのは大切だと思うんだ。
(そうですか。それより超集中状態の維持はどうですか?、今はしてないですよね。)
(もう止めた。面倒くさいからな、夜に十分だけ鍛えることにする。)
そもそもゾーンの長時間維持なんて無理だったんだ。前世から入れるとはいえ、負担が大きすぎる。それに楽をしたいのに苦労しているなんて本末転倒だ。そのことに気づいたとき、軽く自分に失望した。感覚が鈍らないように毎日少しはやるけれども。
(マスターは飽き性ですからね、仕方がありません。)
(今更だな。改めて言われるまでもない。)
(確かにそうでした。)
失礼だな、おい。でも怠惰な性格も俺のアイデンティティの一部。それを否定することは俺を否定することになる。それだけはできない。自身の否定、それは今までの人生の否定に等しい。自身の否定と肯定からアフへーベンに繋がるとか言うバカもいるかもしれないが、そんなはずがない。己の肯定一つ、そこからすべては始まると俺は思っている。
それからしばらくパールと会話していると目的地が見えてきた。
「ジン、懐かしいな。ここで聖女様と会ったんだよな。」
「確かにそうだな。」
出来れば関わりたくない人物の中でトップクラスの存在だ。
「えっ、二人とも聖女様と会ったの~?」
「あれ?、言ってなかったっけ?。ここで聖女様が賊に襲われていたのを助けたんだよ。なっ、ジン?」
「ああ。それでフレイは聖女様に傷を治してもらったんだよな。」
それで惚れたと。チョロインかよ。
「そうそう。本当に素晴らしいお方だった。」
そう言うフレイの顔は恋する乙女の顔だった。それを見て皆は大体の事を察したようだ。こいつ、顔に出すぎだろ。
「そうだろうな。だから聖女様なんだろう。」
そしてなぜかラギーナが知った風に話している。一番最初のころのお前はどこにいった?、氷姫よ。
皆で聖女関連の話をしていると目的地へ到着した。
「よーし、皆。いいか、この森にはスライム、コブリン、個体数は少ないながらもオークが存在している。そして事前に言っているが、今回戦うのはスライムだ。もしコブリンやオークが出たら戦わずに信号弾を放つように。すぐに教師が向かうからな。それとこの森の奥に湖があるからそれより向こうには行かないこと。…、注意事項はそれくらいか。それでは解散、12時にまたここに集合だ。」
その後、俺たちはそれぞれバラバラに行動するのだった。
ー-??ー-
「殿下、どうやら双子が動くようですな。」
「やっぱりな、思った通りだ。詳しくわかるか?」
「申し訳ございませぬ。手練れがいたため、警戒せざるを得ませんでした。」
「ふーん、元近衛騎士団長でも駄目だったのか。」
第七皇子の執事、実は3代前の近衛騎士団長だったりする。
「不甲斐ない。」
「いや、別に責めてるわけじゃない。相手にも大駒がいることが分かっただけでも大収穫だ。」
「見たところ、約二名が飛びぬけておりましたな。おそらく二人がかりならば私でも負けるでしょう。」
「…そこまでか。確かリーバー兄上は犯罪奴隷を持っていたよな?」
「はい。今でこそ皇帝陛下が禁じておられますが、幼少のころは許可されておりましたからな。」
「チッ、無駄に頭が回るから面倒くさい。まぁ、幼少の時はただ玩具が欲しいってだけだったんだろうが。」
小さいときの布石が未来で輝く、それは珍しくはない。問題はその輝きの程度だ。今回の輝きは笑って流すには眩しすぎる。
「どうされますか?」
「今は何もしない。とりあえず罠を仕掛けるくらいだ。」
そう言ってニヤッと笑う。
ノルヴァリアの真骨頂は荒れた状況でも飄々と最善へ突き進むこと、それを自覚し邁進する。だから強い。
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