第152話 課外授業
また平日が始まったが、今日はいつもと違う。
「では今日は昨日言った通り、帝都の外へ課外授業に行くからな。しっかりと防具を身に着けるように。」
(初めての課外授業ですね。楽しみなんじゃないですか?)
(まぁ、普通の授業よりはマシというのは確かだな。)
楽しい楽しい遠足のようだが実態は違う。モンスターを狩りに行くのだ。学年が上がると狩るのは人に変わるが。
それにしても今回は変なのと遭遇しないよな?、さすがに聖女レベルはないと思うが。…、もうこれ自体がフラグのような気もするけど。
(今日の天気はずっと快晴です。)
(へー、お得意の観測装置か?)
(そうですね。)
ああ~、これは皮肉が通じていないな。これだから感情のない電子(?)部品は煽り甲斐がない。
(…今回は特別なことは起こらないよな?)
(私に聞かれても困ります。大精霊のみぞ知るってやつじゃないですか。)
(…大精霊ねぇ、本当に居るのか?)
俺は自分の目で見るまでは信じない。他人なんか信用できない。
(各国の機密資料にもところどころ記述が見られますから、存在している可能性は高いです。そもそも数こそ少ないですが精霊自体は存在しますからね。)
(えっ、いるのか?)
(魔力溜まりで遭遇したという記録が多いですね。)
いるのか、精霊が。さすが異世界、何でもござれだな。
(ふーん、いつか魔力溜まりに行ってみるのも良いかもな。)
もしかしたら新たな信頼できる仲間ができるかもしれないからな。…ふむ、俺、人間不信を極めてきてないか?、前世はここまで酷くはなかったような気がするけど。
(そうですね。すぐに会えると思いますよ、マスター。)
(なんで言い切れるんだよ?)
(これまでの事を振り返れば分かるんじゃないですか?)
この世界に生まれてから今までを振り返ると、確かに厄介な出来事しかなかった。
いきなりリュウとの生存競争ってどんな鬼畜ゲーだ。俺が弱者だったら即ゲームオーバーだったぞ。
(…、お前の言うとおりだな。)
(そんなげんなりした顔をしないでください。いざとなったら避難船に押し込んでこの星から脱出しますから。)
(他の人間はいいのか?、お前は多数の人間を救うために作られたんだろ?)
(それは過去の人間に対してであって、今を生きる人々に対してではありません。でも、マスターが助けたいと思う人がいるなら私も助けますけど。)
それでいいのか、人工知能。でも、やっぱり嬉しいよなぁ、ここまで思ってくれてるなんて。主従関係が前提にあるのかもしれないが、それでもいいや。さすがに独りはつらいからな。
(…、そいつはどうも。)
しばらく感傷に浸っていると、マリーが話しかけてきた。
「ねえ、ジンどうしたの?、顔が赤いよ、熱でもあるのかな~?。」
マジで?、これじゃツンデレじゃねぇか。落ち着け落ち着け、隕石が落下してくるところを想像するんだ。
「あれー、今度は真顔になっちゃった。本当に大丈夫~?。」
「ああ、大丈夫だ。」
「緊張しているのか、ジン?」
「こいつに限ってそれはないだろ。」
「はぁ?、ラギちゃん、俺は不安なんだよ~。」
少々イラっとしたので軽く煽る。
「ああ゛?。」
「いや、なんでもない。」
これは負けてない、しっかりとした戦略的撤退だ。
「相変わらず仲いいな。二人とも。」
「お前の目は節穴か?、どこを見たらそうなる。」
「え、でも実際仲いいしなぁ。なぁ、バルア。」
「どうでもいい。それよりさっさと武具を身につけろや。」
「そうだな。」
それぞれが自前の武具を身に着けるが、俺だけは学校のを身に着けている。
恥ズイー-、ああ、恨むぞ、アレクとアレナ。あのラギーナでさえ憐れむ目を向けるだけで何も言わなかった。あの貧乏人を憐れむ目がすべてを語っていた。
実は武具を使う授業があったときから買おう買おうと思っていたがすっかり忘れてたんだよな、いろいろあったし。そもそも自分で買うのもいかがなものかと思う。端的に言おう、親が払えや。
いそいそと装着していると、マリーが話し出す。
「それにしても班で行動するんだね〜。皆よろしくね。」
そう、俺達は班で集まっている。一班六人で、そう六人で…。マリー、ラギーナ、バルア、フレイ、俺、そして…。
「ねぇねぇ、エッグ君は緊張してる〜?」
「ぼ、僕はしてますね、はい、してます。」
お分かりいただけただろうか、あの現象が発生した結果、こうなったのだ。すべては教師が悪い。
(最悪だな。こいつだけは嫌だった。まだ、ですの、お嬢様のほうが良かった。)
(ですの、お嬢様ですか?、それはエミリアの事ですか?)
(ああ。)
(彼女のことを面倒くさいとか言ってませんでしたか?)
(まあ、剣術の授業で組んだときはうるさかったけどな、根は悪いやつじゃない気がするんだ。)
いつも語尾に「ですの」をつけてるのは、今までで知る限り彼女一人。もはや絶滅危惧種に指定してもいいだろう。
(まあ、彼女の実家は公爵家ですが、帝位争いにも関与してませんからね、気軽に話してもいいと思いますよ?、建前上学園では、貴族間の優劣はありませんから。)
貴族間の優劣がない、つまり貴族と平民の間では存在する。だからこそ学舎が別れているわけなんだけれども。
平民と貴族の差は血だ。地球とは異なり、この世界では血に意味がある。なぜなら保有魔力に関係するから。この点を埋める技術が存在しないと貴族と平民の階級差は無くならないだろう。
(いや、別にそこまで話したいわけじゃないから。)
その後、武具を装着し終えると、出発することになった。
「いいか、実践では何が起こるか分からない。教師の指示には従うように。今回はスライムを討伐してもらうからな。」
担任のバンがスライムと言った瞬間、少しざわめきが起こった。
「いいか、スライムを甘く見るな。下手に触ると指が溶けるからな、ちゃんと緊張感を持つように。」
えっ、指が溶ける?、怖すぎんだろ。改めて平和の尊さを知った今日、この日であった。
ーー??ーー
「兄さん、どうやってモンスターをマーテル公国に追い込むの?、地道に誘導したりとか?」
「クック、それも方法としてはあるが…。おい知ってるか、かつてモンスターを集める古代の魔道具があった事を?」
「ううん、知らない。もしかしてそれを使うの?」
「ああ゛、帝城の宝物庫にある。どうも戦利品として奪ったらしいな。」
「よくそんなことがわかったね、もしかして?」
「ああ、お前の想像どおりだ。あの魔道具を使った。安心しろ、痕跡は残してねぇよ。」
「いや、それは心配してないんだけど…、どうやって宝物庫から盗むのかなぁって思ったんだ。」
「俺の手足を使う。」
「ああ、あの奴隷たち。」
「あいつらは使えるぜ、何せ俺様直々に鍛え上げたからなァ。」
リーバーの凍える瞳からどう鍛えたかが透けて見える。
「さすが兄さんだね、小さいときから父上に、犯罪奴隷の所有権を要求してたもんね。」
「クハっ、大きくなってから慌てて禁止してきやがったけどな。もうそのときには手遅れだっていうのになァ。」
今も法務大臣から優遇を受けている。そう、死刑囚などを融通させているのだ。何が為に?、楽しむために。
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