第147話 さびし

帝城へ向かった次の日、俺はいつもどおり過ごしていた。皆で朝食を取っているとパールが話しかけてくる。

(マスター、昨夜、近衛騎士団長達が処刑されました。)

(まあ、俺が介入してないから当然だな。)

(帝国は優秀な人間を失ってしまいましたね。)

(仕方がない。暗殺されたのは致命的なミスだし、皇族が暗殺されて責任者を処刑しなかったらそれこそ皇族の権威も落ちるからな。むしろ家族の連座を免れた時点で温情だろ。)

(近衛騎士は家と縁を切らないといけませんからね。)

どんなに優秀でもミスをしたら責任を取らないといけない。そうでないと組織が腐ってしまう。それに変わりなんていくらでもいるからな、非情なことに。

(ミリアが知ったら悲しむかな?)

(当然悲しむでしょう。そこまで冷血漢ではないはずです。)

それを聞いて俺の心が軋む。

この世界には俺にとって大切な人がいない。今の両親や兄弟が死んでも少し悲しく思うだろうが、それだけ。何としてでも助けたいとは思わない。前世では両親や祖父母といった人たちがいたが、今世では居ない。恐らく血が繋がっていても素の自分を出せていないからだろう。

(大丈夫ですか?、マスター。哀しそうな顔をしてますよ。)

パールが心配そうに声を掛けてくる。それに少し救われた気がした。

…いつかこいつに全てを打ち明けよう。こいつの前ではありのままの自分をさらけ出せているから。

(…ふん、気のせいだろ。それより今日の魔法の小テスト嫌だな。力加減が難しいんだよなぁ。)

(…小細工は得意じゃないですか。)

(神経使うから疲れるんだよ。)

(そうですか。)

〈マスターの魔力がほんの一瞬だけ揺らいでいました。それにさっきの表情も初めて観測したものです。何か抱えているのでしょうか?、話してくれるまで待つべきなのでしょうか、…計算不能。〉

「それにしてもあと二年で魔剣士大会か。楽しみだな。やっぱりジェド様がまた優勝するのかな?」

「そうだろう。あのお方の剣捌きは素晴らしいからな。」

フレイとラギーナが何やら話している。

(魔剣士大会って確か5年に一回、開かれるやつだよな?)

(はい、その通りです。よく知ってましたね、偉いですよ。)

バカにしてるな、こいつ。

(前回の優勝者はジェドだったのか?)

(そうですね。)

(詳しく教えてくれ、魔剣士大会について。)

(了解です。この大陸では5年に一回、大規模な剣術大会が冒険者ギルドによって前回行った帝国の闘技場で開かれています。前回が行われたのは約3年前ですから次の開催は2年後となります。そして参加資格は成人かつ剣を使う者、魔法単体ではだめです。もうすでにご存じでしょうが、前回の優勝者はジェド。そして優勝者には剣聖の称号が送られます。SS級冒険者が出てもいいのかという反対意見もありますが、大会の趣旨は最強の魔剣士を決めるというものですから認められたようです。)

(へー、人死にがたくさん出そうだな。)

(そうですね。治療班もすぐそばに待機しているようですが即死だと間に合わないようです。)

(恐ろしいな。なんで出場しようと思うのかが分からない。)

(優勝者はSS級冒険者となれ、かつフリーパスで各国を通過できるようになります。賞金の額も莫大ですし、副賞品も闇オークションでしか手に入らないようなものですから。)

(ハイリスク・ハイリターンというわけか。)

(はい。出場されてみたらいかがです?、夏休みの期間に開催されますから暇つぶしには最適ですよ。)

(…そうだな。修行して仮面で出場するのもいいかもな。何より剣聖は憧れる。)

異世界に来たらやっぱり剣聖になるべきだろ。

(マスターも男の子ということですね。)

(ああ。)

そんなことを話しているとラギーナ達がさらに盛り上がっている。

「でもここのところジェド様の噂を聞かないんだよな。噂だと行方不明らしい。」

「何、さらに研鑽を積まれているのだろう。」

…凄いいたたまれない。

(マスター…。)

(俺は何も知らない。)

「でも残念だねー、マリーたちは次の大会までに成人していないからエントリーすらできないよ。」

「ちっ、最悪だぜ。」

口が相変わらず悪いな、バルアは。

その後、しばらく話してから授業の準備をする。

無事にこの一週間が終わりますように。


ー--??ー--

「マーテル公国の反応はどうだ?」

「向こうは大変乗り気です。」

「そうか。このまま同盟まで持っていけたらよいのだが。」

「そうですね。同盟が結ばれればクレセリア皇国も侵攻を辞めざるを得ませんから。ですがトランテ王国とエナメル王国は大丈夫ですか?、下手すれば三国同盟となりますよ。」

「そうならないように外交で妨害するのだ。奴らの得意な土俵では勝負せん。」

「御意。」

「ところで中立の公爵家を説得できたか?」

「いえ、取りつく島もありません。おそらく巻き込まれるのを極端に恐れているのでしょう。」

「ふん。まぁこの膠着状態でもいいのだが、あの双子が何もしないとは思えん。警戒は怠るなよ。」

「御意。」

〈好き勝手にはさせんぞ、シュバルツ!!)


ーー??ーー

「シャンデリア様、暗殺者を揃えました。」

「そう。ありがとう。でもこちらから仕掛けちゃ駄目よ。あくまでも防衛のためにね?」

「御意。徹底して肝に銘じさせておきます。」

「それで…ノルの様子はどう?」

「はっ。最近は貴族への挨拶周りを活発にしているようです。」

「あの子が動くようになったのが、帝位争いというのが悲しいわね。」

「ノルヴァリア殿下は昔から怠惰で動かなかったため、無能と呼ばれてましたからね。」

「それでも適当に受け流してたものね。メンタルは並ではないわ。」

「確かにそうですね。」

部下が苦笑しながら答える。

〈それにしても今回は帝位争いに参加している公爵家が少ないわね。まだまだ分からないわ。〉


ーー??ーー

「それで色よい返事は貰えたのですかな?」

「ああ。俺がでかい手柄を立てれば味方になってもいいそうだ。」

「それは良かったですな。これからどうされるので?」

「財務大臣を取ってかつ誰かを落としたい。そうすれば味方も増えるはずだ。」

「そうでしょうな。実績のない人についていこうとは思いませんから。」

〈問題はあいつらも動いてくるってことだな。同時に二人の相手をするのは正直手に余るからな、他の奴らも巻き込もう。〉


ーー??ーー

「財務大臣がやめるだと!!、糞、ここからじゃ何もできん。お前らで根回しは出来るか?」

「可能ですが、やはり殿下がなさるより影響力は減衰してしまいます。」

「チイッ、勅命さえなければすぐにトランテ王国など蹂躙してくれるのに。」

シュバルツは勅命のため、フォーミリア王国から動けなかった。

〈まぁ、いい。戦争が起きるまで待ってやる。宝物を奪われたのは痛いが、王都を占領しているのはプラスだからな。〉

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