第144話 秘剣

(それでどうされるんです?)

(とりあえず学園の外に出る。そこからは先はその時に考えよう。)

(成長しませんね…。それはそうと買われた本は読まれないんですか?)

(あれは所詮暇つぶし用だからな。)

この世界の本には大して期待してない。ラノベや漫画もないようじゃなぁ。

外出届を書いて提出し、帝都へ繰り出す。

(さあ、俺は自由だ!!。何をしようかな、久しぶりに帝都の外へ行くのもいいかもな。)

(そうですねぇ、闘技場なんかどうですか?。成人してないと入れませんが、マスターは幻術を使えますからバレることはないと思います。)

(本当にバレないか?)

些細なところまで注意を払う。俺は油断なんかしない。

(絶対とまでは言いませんが、大丈夫のはずです。)

(身分証はいらないのか?)

(マスター、身分証があるのは貴族か冒険者だけです。庶民は持ってませんよ。)

(ならどうやって成人してるかを見分けるんだ?)

(その担当員によります。認められるときもあれば認められないときもあります。)

やっぱりそういう所はルーズなんだな。まぁ、俺にとって好都合だから文句はないけどな。

(なら闘技場に行くか。案内してくれ。)

(了解です。)

裏路地で一般人に化けて闘技場へ向かう。

(へー、こっちの方にあるのか。あんまり来たことがないな。)

(まあ、帝都の中心から外れてますからね。)

しばらく歩くと大きいドームが見えてきた。

(あれがコロッセオですね。仲では勝者を予想する賭けなども行われています。)

(へー、定番だな。俺もやってみようかな。)

(いいですね。私がいますから外すことは万に一つもありえませんよ。)

やっぱりこいつはまだわかってない。

(はぁ、いいか。俺は賭けを楽しみたいんだ。誰が勝つか分かってたら面白くないだろ。)

(でも負けてもいいんですか?。損しますよ。)

(その程度問題ない。)

〈マスターの思考はよく分かりません。夕食の支出は気にするのに…〉

パールと話しているとコロッセオの入り口に到着した。

「入場料は銀貨8枚だ。」

「はいよ。」

金を渡して中に入る。

でっけぇな、おい。外から見てた時から思ってたけど、大きすぎるだろ。数万人は入れるんじゃないか?、それに…

(人がやけに多いな。)

(今日は休日ですから。それに貴族だけでなく、庶民の楽しみでもありますしね。)

(ふーん。)

「では次の試合に参りましょう。このコロッセオの絶対王者、アレクッス・アルマデアだーー。」

「「オオオーーーー」」

一人の名前が呼ばれた瞬間、闘技場全体が沸き立つ。そして灰色の髪の青年がバトルフィールドへ歩みを進める。

あいつ、かなり強い。魔力が洗練されている。

すると

「チラッ」

一瞬だけ目と目が合う。

あの野郎、幻術じゃなくてリアルの俺の目を見てきやがった。

(マスター…)

(ああ、気づかれてんな。かなり力を入れて幻術を使ってるはずなんだが。)

この世界は化け物ばっかりだ。本当に生きづらい。

「対する挑戦者は秘剣の使い手であるランドの弟子、レイズ・バウアーだぁーーー。」

「「ウオオオッーーー」」

秘剣ね。この世界は魔法が優位だと思われているが、あくまでも一般人の場合だ。一つのものを極めた者に勝つのは厳しい。そして剣術が極まり、回避不能の技を秘剣と呼ぶ、らしい。らしいというのはあくまでも知識でしか知らないからだ。

(なあ、秘剣って本当に存在するのか?)

(今はわかりませんが、確かに存在します。データによると5つ存在した、そのように残されています。)

(へー、そうなんだ。回避不能の技を秘剣って言うんだろ?、本当に回避不能なのか?)

(はい。気づけば斬られている、それが秘剣。そのように私のデータベースには書かれています。これ以上の情報は載っていないんですけどね。)

秘剣とかどうせ超高速で斬るとかそういうものだろ。下らん。

(マスターが何を思っているのかは分かります。ですが秘剣は存在しますよ。)

(この目で見てみないと信用できないな。)

そんなことをパールと話していると試合が始まった。試合は大方の予想通りアレックスが優勢に進めている。



ーー??ーー

〈なかなか強いな。でも俺の脅威ではねぇ。むしろあの観客席にいた奴のほうが…〉

「やっぱり強いですね。でも勝つのは私だ。」

そう言うとレイズの雰囲気が変わった。

〈なんだ、雰囲気が変わった。まさかとは思うが…、使えんのか、秘剣を?〉


ーー??ーー

なんか雰囲気が変わったな。

するとレイズが間合いの外から剣を振るう。見た限り特に魔法も使われてない。だが…、

「ああーー、ついに挑戦者レイズの一太刀が王者アレックスに入りました!!」

「バカな!!」

思わず声が出てしまうがそれどころではない。

どういうことだ、斬撃でもないのに、間合いの外から斬っただと。

(あれは秘剣の一歩手前ですね。完全なる秘剣ではありません。)

(…あれがそうなのか?)

(はい。間合いの範囲外を斬撃以外で斬る、まさしく秘剣です。)


ーー??ーー

「ぐっ!?」

咄嗟に紙一重で躱すが、頬に一筋の傷が走る。

「…躱されましたか。棄権します。私では勝てません。」

「…なんと、き、棄権ですーー。勝者アレックス・アルマデアーー。」

去りゆく背中に声をかける。

「おい、待て。あれが秘剣か?」

「…違いますよ。あんなのは入り口ですらありません。ですが究極的には秘剣となるでしょう。次はあなたに勝って見せます。」

それだけを言い残し、今度こそ去ってゆく。

〈やべぇな、あれは。くそ、俺も会得してぇ。〉


ーー??ーー

(良いものが見れたな。だが、秘剣か。どうすれば会得できるだろうな?)

(ランドという人物に弟子入りしてはどうです?)

弟子入りか…、絶対嫌だな。

(…何か他に手はないか?)

(マスター、嫌なのは理解していますがこればっかりはどうしようもありませんよ。)

(…しゃーねーな。ならランドって奴を探してくれ。)

(了解です。しかし時間がかかるかもしれません。)

(仕方ないな、それは。あと秘剣は5つ存在するんだろ。他の4つの秘剣についても調べておいてくれ。)

(了解です。)

その後、俺はなんだか試合を見る気分でもなくなり、山で剣の稽古をするのだった。ちなみに剣に空間魔法を纒わせれば再現することができた。

でもそうじゃないんだよなぁ、剣術だけってところに意味がある。

その後、寮に戻るとローナに延々と話を聞かせれて辟易とした。


ー-??--

「秘剣か…、あんな技があったなんて世界は広いな。このままじゃあ駄目だ。…そうだな、世界でも見て回るか。」

〈俺は負けねぇ、誰にも。だがあの観客席にいたやつは…俺よりも強い。ぜってぇあいつより強くなってやる。〉

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