第143話 新しい登場人物

カフェテリアへ到着し、それぞれ朝食を注文する。

「こいつ、一番高い飯を頼みやがってッ。」

約1名がわめいているが、スルーだ。それよりも気になることがある。

(なぁ、パール。あの宝石は本物だと思うか?) 

(分かりません。実証しますか?)

恐ろしいことをサラリと言うなぁ。

(あのな、それって誰かを殺さないといけないんだぞ?)

(何を今更。もうすでに殺しているじゃないですか。)

(それはそうなんだけどさ。やっぱりなるべくは殺したくないというか。)

殺人は麻薬だ。状況を動かすには有効な一手だが、一度ハマるともう抜け出せなくなる、気がする。

(仕方ありません。まだ鳳凰の羽の分析も終わっていませんが、こちらも解析いたします。)

(ああ、頼んだ。)

しばらく大人しく朝食を食べていると今日は会いたくない人物たちがやってきた。

「おはようー。」

マリーとラギーナだ。

「おはよう。」

「相変わらず寝ぼけた顔をしてるな、お前は。」

可哀想に。

「言われてるぞ、フレイ。」

「いやどう見てもジンに向かって言ってるだろう。」

うん、知ってる。どうしてラギーナは俺に対してだけあたりが強いんだろう。思い当たる節はない…こともないな。

「ジンたちは今日どこかにいくのー?」

「まぁ、すこし帝都を散策ぐらいだな。」

嘘は言ってない。

「なら、マリー達も行っていい?」

「待て、私は行かないぞ。」

「まあまあ、たまには息抜きも必要だよ。」

「どうしようか、フレイ?」

ごめん。でもこうするしかないんだ。

(マスター、逃げましたね。)

(戦略的撤退と言え。)

「えっ。………。」

俺のキラーパスにフレイは沈黙してしまう。それを見かねたのがローナが説明する。

「私達は飛鳥の群れを見に行くの。でもチケットが5枚しかないらしいんだよね。」

「飛鳥の群れだと!?。帝都に来ているのか!!」 

「う、うん。そうだよ。」

(ローナが押されているのは珍しいですね。)

(いつもはこっちのペースを乱してくるからな。それにしてもラギーナの食い付きが意外だな。劇とか興味ないと思ってた。)

「あれ、ラギちゃん、興味あるの?」

マリーの言葉を聞いた瞬間、雷が落ちたような衝撃が身体に走る。

「ラ・ギ・ちゃん・だと。」

「マリー!!。」

「ごめんごめん。つい口に出ちゃった。」

「おいジン、今すぐその顔をやめろ。」

「悪い、ラギちゃん?」

「覚えとけよ。いつか泣かす。」

顔を赤くして言われても説得力がないな。

「へいへい」

「それで本当に飛鳥の群れを観に行くのか?」

「ああ。」

「…頼む。私達も連れて行ってくれないか?」

「それなんだけど俺がもらったチケットはローナが言ったように5枚なんだ。俺、ジン、バルア、ローナ。残るは1枚だけなんだ。」

フレイにそう言われてラギーナは黙り込んでしまう。

いや、そんなに行きたいか?。別に劇とかいいだろ。

「マリーは別にいいからラギーナ行ってきなよ。」

「でも…。」

「マリーのことは気にしなくていいよ。まだ読みかけの本もあるから。」

「しかし、だな…。」

マリーとラギーナの水掛け論を見て使えるのではないかと黙考する。

「なぁ、俺行くのやめるからさ、マリーが行ってこいよ。」

「「「「えっ」」」」

バルアは反応なしと。まあ、ローナがいればいいんだろうな。

「俺、実は劇とかに興味なくてさ。それなら別にマリーでいいんじゃないかなぁと思うわけですよ。」

「でも、じゃあジンは何をするの?」

「帝都の散策だ。まだ全部は回れてないからな。」

「本当にいいのか?」

「誘ってくれたのに悪いな、フレイ。でも観たい人が観たほうがいいと思うんだ。」

だがここでやらかすのがローナという女だ。

「ジンが行かないなら私も行くの辞めようかなぁ。」

バカローナ。せっかく話がまとまりそうだったのに。

「なっ」

この発言に最も慌てているのがバルアだ。

こいつ、チョロすぎるだろ。何かローナと接点でもあるのか?。気になるがとりあえずは目の前の事から対処しよう。

「ローナ、せっかくの機会なんだから観たほうがいい。」

「それはジンもでしょ。」

「それはそうなんだけどさ、観たい人が観るべきじゃないか?」

ローナが反論しようとしてくるが、意外なことにバルアが介入してくる。

「今回はそいつの言うとおりだぜ。チケットが限られてんなら観たいやつが観たほうがいい。」

「でも…」

なおも言い募ろうとするが、ラギーナも介入してくる。

「ローナが観て感想をジンに伝えればいいじゃないか。それなら問題ないだろ。」

「うう、でも。」 

「ラギーナの言うとおりだ。後で感想を聞かせてくれよ。」

「…わかったよ。でもちゃんと聞いてくれないと怒るからね。」

「了解。ところで一ついいか?」

「どうしたの?」

「ローナとバルアは知り合いなのか?」

「それ、マリーも気になってた。」

「えっとねぇ、実は…。」

「待て!!、内緒の約束だろ。」

「あっ、そうだった。ごめんごめん。」

相変わらずノリが軽いな。

「えー、何それー、気になるんだけど?」

結局、二人の関係性は明らかにされず、違う話題へと移るのだった。その後、朝食を食べ終わり、俺は晴れて自由の身となった。ローナは不満そうな顔をしていたが。


ーー??ーー

「さて、では次の国を攻めるぞ。準備は完了したな?」

「はい。軍の再編成は完了し、抵抗勢力はもう力を保てていません。」

「よろしい。ここからが本番だ。相手は全力で抵抗してくるだろう。だがそれを打ち破ってこそ意味がある。所詮奇襲は奇襲、油断がなければ成功しない。」

「そうですね。まだまだ先は長いですね。」

「ふふ、楽しみが終わらなくていいじゃないか。では明朝に侵攻を開始する。」

「了解です。」

再び東方の島国、ジルギアス王国が動き出す。



ーークレセリア皇国ーー

「父上、私はまだ戦場に出てはならぬのですか?」

真紅の髪の少女が父に尋ねる。

「スカーレットよ、お主はまだ成人しておらぬだろう。それに戦場を甘く見るでない、気の緩んだ者から死んでゆくのだ。」

「そんなことはわかっています。ただ王族が戦場に出れば士気もあがるかと。」

「ならぬ。あと2年は待て。返事は?」

「…御意。」

少女が深く一礼し、玉座の間から退出する。

〈私が求めるのは熱い戦いだ。ああ、早く帝国と戦いたい。負けても充足に足るだろう。〉

少女は生まれながらに狂戦士だった。生きている実感が得られるのは命が賭かっているときだけ。

「早く成人したいものだ。」

いつかの時のために今日も剣を振るう。


ーー??ーー

「ひさしぶりだな、ようやくここまで来た。俺ももう18だ。あれからもう10年か、早いものだ。…俺は世界を変えられるだろうか。何、お前たちの前で弱音を吐くくらい許してくれ。ここを離れたら、また闘うから。」

男は改めて誓う。奴隷であった自分から唯一の宝物であった親友と妹を奪ったこの世界に復讐することを。

「あの日、確かに俺は、僕から俺になった。この世界は弱者にとって生きづらい、その事が証明された日でもあった。だからこそ俺は世界を変える、誰もが自由で平等に暮らせるように。見ててくれ、俺が生きる様を。」

かつて全てを奪われた一人の奴隷の少年はリスクを犯して所有者を殺し、脱走した。そこからは商店で下働きの日々を過ごす傍ら、こっそり商品の本を読んだりして知識を蓄えた。そしてたまたま訪れた貴族の少女に好かれて使用人として引き取られた。そこで武・智を磨き、コネで軍に入隊。あとは成果を上げて人の上に立つだけ。この世界にしては早すぎる新しい時代の風が吹き始める。

「またな。もう当分は来れない、ゆっくり眠っててくれ。」

青年はもう振り返らない。


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