第142話 休みの日
「ジン、今日は何か予定でもあるのか?」
「いいや、特にはないな。フレイの方はどうなんだ?」
「俺もないな。どこかに遊びに行かないか?」
うーん、どうしたものか。できれば一人でぶらつきたいんだが。
(マスター、世間との付き合いというのも大切なものです。特に家のヒエラルキーが低いんですから。)
人工知能に諭されるのか、なんかへこむわ。
(身もふたもない事を言うなよ。俺だってのんびりしたい時もある。)
(まぁ、魔法陣の授業で苦労してますもんね。)
(それな。)
あれだけは無理だ。手が不器用なのは前世と変わらないからな。
「おい、ジン?」
「…ああ、悪い。別にいいぞ。でもどこに行くんだ?」
「劇場だな。飛鳥の群れって知ってるか?」
(なんだっけ?、どこかで聞いたことがあるような気もするけど?)
(飛鳥の群れというのは大陸各地で活動している劇団ですね。常識ですよ?)
(ふん。)
「…ああ、知ってるぞ。それがどうかしたのか?」
「実は今、帝都に来ているらしくてな。父上にお願いしてチケットをもらったんだ。一緒に行こうぜ。」
「ああ、いいな。面白そうだ。」
「それと、じつはチケットは5枚あるんだ。他に誰か誘うか?」
部屋の中で話しているため、当然他のルームメイトにも聞こえる。
「てめぇら、飛鳥の群れを見に行くつもりか?」
「そうだが?」
「…俺にもチケットをくれ。」
これは驚いた。あのプライドの権化みたいなバルアがお願いするなんて。
「ああ、別に構わないが、訓練はいいのか。」
「ああ、今回は特別だ。」
「ならあと2人はどうする?」
「ラギーナとマリーでいいんじゃないか?」
「そうだな、そうしようか。」
エッグは俺たちの会話に気まずさを感じたのか、部屋から出ていく。
「…ふん、陰気な奴だ。」
「お前がしゃべってやったらどうだ?」
(自分がやらないのに人に押し付けるんですか?)
(お前は黙ってろ。)
「冗談でも笑えねぇな。てめぇがやれよ。」
「いや、やっぱここは頼もしいフレアだろ。」
「えっ、俺?」
「そうだな、てめぇがやれ。」
俺とバルアの連帯攻撃でフレイに押し付ける。数は力だ。
「いや、それはちょっと勘弁。というか、向こうも俺らと話す意思がないんじゃないか?」
「少し前のバルアみたいだな。俺は凡人とつるむ気はねぇってな。」
「くっ、うっせえ。」
「まぁ、そろそろ朝食を食べに行こう。ラギーナ達にも話さないといけないし。」
「そうだな。さてバルア君、今日もゴチになります。」
「そう思ってんなら一番高い飯を注文するな。」
「それこそ無理な注文だ。なんせ俺の貴重な時間の対価なんだから。」
「そういうとこ尊敬するよ。」
フレイにしみじみと言われてしまった。
(マスターはがめついですからね。)
(ふん、倹約家でいいじゃないか。散財するよりいいだろ。)
(それはちがいます。忘れたのですか?、闇オークションで散財してたじゃないですか。それに私が言いたいのはそういうことではありません。散財するのに細かい支出を気にするのがみみっちいという意味で言ったんです。)
…人工知能が主に対して辛辣すぎる件。
(うるせー。)
その後、カフェテリアへ向かっている途中にローナと出会った。
「おはよう。ジンたち今日はどこかに遊びにいくの?」
なんでこいつがここにいるんだよ。
「ああ、そうだ。」
「へー、どこにいくの?」
「劇場だ。何でも飛鳥の群れが来ているらしい。」
「えっ、あの!?」
やっぱり有名なんだな。こちとら芸術とか興味ないからなぁ。
「だよな?」
「ああ、そうだ。」
「ええー、いいなぁ。私も一緒に行っちゃだめ?」
(面倒くさい事になったな。この女に遠慮という文字は存在しないのか。)
(類は友を呼ぶと言うやつです。それよりバルアの様子がおかしいですよ。)
パールの指摘でバルアを観察してみる。
こいつ、顔が赤くないか?、ローナは顔だけはいいからな。
「どうしようか。」
「フレイが決めたらいいんじゃないか。チケットを持っているのはフレイなんだし。」
(見事な押し付けです。)
(照れるなぁ。)
(褒めてませんよ。)
「バルアはどう思う?」
一人で決めたくないのか、フレイがバルアに尋ねる。
「えっ、お、俺はその…」
…はぁ?、乙女かよ。
バルアは顔を赤くして下を向いてしまった。こいつは駄目だと思ったのかフレイが俺に改めて聞いてくる。
「どうするジン?」
俺に来るんかい。
「…まぁ、いいんじゃないか。いざとなれば俺抜きでもいいし。」
むしろそちらの方がいい。幻術でごまかして観ることもできるし。
「え、ジンはいかないの?」
ローナが凄い悲しそうな顔をしてくる。
(もてる男はつらいですね。)
(つらいというか対処に困るよな。)
前世でもこういう経験はないのでどうしたらいいか分からない。そもそも俺のストライクゾーンはもっと上だ。
「…チケットは5枚だもんな?」
「ああ。人気でこれ以上は手に入らなかったらしい。」
「ならいっそもうこの4人でいいんじゃないか?、なぁ、バルア。」
数は力を信条とする俺は味方を増やす。
(いいんですか、バルアは明らかにローナに好意を持ってますよ。)
(いや、別に俺はローナの事が好きじゃないからな?)
(ローナも報われませんね。)
「ああ、俺もそれでいいと思う。」
「分かった。じゃあ、4人で行こうか。」
無事に結論が出てカフェテリアへ向かう。
ー--??ー--
帝国の上層部の人間たちが集まり、緊急会議を開いている。
「陛下、フォーミリア王国はどうなされますか?」
「ふむ、王都を抑えておるのか。どうすればよいか皆の意見を聞きたい。」
「いっきにこの機会に併合すればよいのではないでしょうか?」
シュバルツの陣営の軍部大臣が発言する。
「それは拙速すぎる。トランテ王国とエナメル王国と全面戦争になるのは望ましくない。」
「それはそうね、なによりまだ帝国西部も完全に復興したわけではないのよ。」
外務大臣のエンベルト、内務大臣のシャンデリアが阻止に動く。
「ふむ、しかしだいぶ帝国西部も復興し、すでにトランテ・エナメル連合軍とは一戦を交えております。なら優勢のうちに勝負を決めるべきでは?」
各大臣が意見を出し合うが、話は平行線のままだ。
「ガルド財務大臣はどう思われますかな?」
妻のために休みの日には必ず領地に帰るガルドがここにいることを全員が不思議に思う。
「戦には金がかかります。そして西部の復興のためにかなりの金額を投入しています。ですから私は現状維持がいいと思います。」
「なるほど。」
この発言によってシュバルツの味方ではないと皆が認識する。だがガルドの発言はこれだけに留まらなかった。
「皇帝陛下、よろしいでしょうか。」
「なんだ?」
「実は財務大臣の職を辞したいのです。」
いっきに場が騒がしくなる。
「…理由を聞いてもよいか。」
「御意。実は妻の病が治りまして今までの時間を取り戻そうと思った次第です。」
〈もう無理にお金を得る必要もない。ただ、ジン君にはなんて釈明しようか。勝手にやめたら怒るだろうか?、だがそれでも妻といたい。〉
「ほーう、治ったのか。それはよいことだ。だが、当分は無理だ。」
〈なんてことを言いだすのだ。混沌とした場をさらにカオスにするでない。〉
「御意。では一か月後ということでどうでしょうか。」
「…了解した。では本題へ戻る。」
すべての大臣が発言したところで皇帝が判断を下す。
「皆の意見はよくわかった。その上で決断する、王都ガーレットまでを併合する。ただし、エナメル王国、トランテ王国と戦争はしない。」
皇帝の無理難題と思える宣言に全員が頬を引きつらせる。
「へ、陛下。恐れながらそれは難しいかと。」
「そんなのは理解しておる。その上でどうにかせよ。」
その後も各大臣が皇帝を諭そうとするが、どれも退けられてしまう。
「ではこれにて会議を終了する。」
こうして帝国の一大プロジェクトが始まる。
ー-??ー-
「くっそ、ガルドの奴、完全に私を裏切るつもりか。」
「さらに圧力をかけますか?」
「ああ、徹底的にな。見せしめに潰せ。」
「御意。」
「それと次の財務大臣の椅子も取るぞ。」
「御意。」
〈私を裏切ったことを後悔させてやる。〉
ー-??ー-
「驚いたわね。まさかガルド殿がやめるなんて。」
「これは荒れますね。」
「そうね。エンベルトは間違いなく次の財務大臣も取ろうとしてくるわ。私たちも根回しを始めるわよ。」
「御意。」
〈あの子も動くかもね。〉
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