第140話 情報

宝石をパールに預け、しばらくパールと雑談しているとどうやら居場所が判明したようだ。

「マスター、ドンの居場所が判明しました。現在は自宅で睡眠中のようですね。」

「へー、自分の家とかあるんだ。教会に住んでいるんだと思っていた。」

「セントクレア教の上層部だからじゃないでしょうか?」

「やっぱり偉くなったら人格も歪むのかなぁ。」

俺はやっぱりそこそこでいいや。頑張って出世したところで死んだら意味がないからな。それなら楽しんでから死にたい。

「かもしれませんね。誰もが賢者と言うわけではないですから。」

「まぁ、むしろ賢者だらけだったら、それが当たり前で賢者っていう概念もないかもな。」

「そうですね。」

「では、ドンのいる所へ案内してくれ。」

「分かりました。…それはそうとどうされるつもりですか?」

どうしようか、拷問は趣味じゃないし。殺しもあんまりしたくない。でもこの世界じゃバレる可能性は限りなく低いからなぁ、楽な方法があるなら俺は頼ってしまう。それが、人格が完成した俺だから。

「秘密裏に殺す。できれば組織の事も吐かせたい。でも拷問はしたくないから、お前に任せていい?」

「はい、構いませんよ。自白剤がありますから。」

「物騒なもん持ってんだな。博士の置き土産か?」

「はい。あの当時、誰が裏切っているかわからず、こっそり食事などに混ぜて使っていたようです。」

「…今の時代に生まれてよかった。じゃあ、そろそろ行くぞ。」

「了解。」

パールの案内でドンの元へ向かうと大邸宅へ到着した。

「でっけー、そこらの貴族よりいい生活してるんじゃないか?」

「マルシア王国はセントクレア教の本拠地ですからね、政治にも大きな影響力を持っているのです。」

政治と宗教が絡むのはよくないよなぁ、一度絡んだらほどくのは至難の業だ。

「まぁ、帝国の話じゃないからどうでもいいけどな。さて、では侵入と行くか。見たところ衛兵はいるが、魔法は展開されてないな。」

「そうですね。スキャンしても異常はありません。」

「なら侵入だ。」

いつも通り幻術をかける。そして銀の魔力で透視をする。

「あそこの部屋か?」

「はい。あの太った男性が寝ている部屋です。」

「よし、転移。」

「ヒュン」

こっそり部屋の中に転移するが、おっさんが起きる気配はない。そして防音のシールドを何重にも張る。

「バッシャー」

おっさんの顔面に水をぶっかけて起こす。

「アババババ」

はは、変な声だな。でも寝耳に水っていうし、よっぽど驚いたんだろうな。

「こんばんは、ドン・ゲイラー卿。」

「だ、誰だ。誰か来い、侵入者だ!!」

大きい声で助けを求めているが無駄だ。防音は完璧だ。

「無駄ですよ。防音のシールドを張ってますから。」

「くっ、私に何の用だ?」

「一つお伺いしたいことがあって参上した次第です。あなたは…怪しげな組織と関りがありますね?」

俺がそういった瞬間、ドンは顔を真っ青にする。

「な、何のことだ!?、何を言っているか分からないな。」

(パール、自白剤をぶち込んでやれ。)

(了解。)

パールがこっそり近づき注射器で自白剤を流し込む。

「いっ、なんだ腕がちくりとしたぞ。」

「それでどうなんです?」

「知らん。」

薬の効き目が出るまで適当に会話を続ける。

しばらくすると

「し、知らんぞ…わ、わたし、は何、も。」

呂律が怪しくなってきた。さて、どうやって崩そうか。まぁ、適当にやってみるか。

「ドン・ゲイラー、組織の事について話したな。」

「わ、わたし、は、な、何も、話して、おりませ、ん。」

ふふ、やっぱりこいつの上に誰かいるか。賭けに勝ったぞ。

「嘘をつくな。組織の情報が流れているぞ。流れてはいけない情報がな。」

「そ、そんな。」

「組織の目的を帝国の暗部がつかんだそうだ。すぐに揉み消したが情報の出どころはお前だと我々は目星をつけている。」

「わ、わたし、ではありま、せん。わ、わたしは、組織の、具体的な、目的につ、いて知りません。た、ただ、人類、のためであ、ると。」

人類のため?、どういうことだ。

「本当か?、ならお前の知っている組織の情報について話せ。漏れた情報とのすり合わせを行う。」

(よくそんな出鱈目が思い付きますね。)

(だらだらするには必須の能力だ。)

(騙すためですね。)

…否定できない。

「わ、分かりました。そ、組織の構成員は、各国に、存在し、じ、人類のために、こ、古代の魔道具、を集めて、いる。そ、そしてじ、人類が強く、な、なりすぎ、ないように、し、している。」

わからないことだらけだ、人類のために強くなりすぎないようにしているだと。

「それで全部か?」

「はい。」

「そうか。」

風の刃で首をはねる。

魔法だと殺した感覚が希薄でいい。俺はサイコパスではないんでね。

「ブシャー」

転移!!

一瞬で上空へ転移する。

「わからないことだらけですね。」

「全くだ。だが、正直眠くて頭が働いていない。分析は後だ。とろあえず、戻るぞ。」

「了解。」

〈私がこんなに調査しても組織のことが分からないのは、もしかしたら古代の魔道具で防いでいる可能性があります。少し、新しい魔法陣の開発をしましょうか。〉

その後、俺は寮に戻り惰眠を貪るのだった。


ー-??ー-

翌朝、

「よし、新兵器を投入しろ。」

「御意。」

シュバルツの指示で大砲のようなもの5基がトランテ・エナメル王国軍に向けられる。

「放て。」

「ドーン、ドーン、……………」

あたりに大きな音が響き渡り、火魔法がものすごいスピードで飛んで行く。

「素晴らしい威力だ。」

「そうですね。」

「全発打ち終わったら突撃だ。」

「御意」



ー-??ー-

「くっそ、これは新たな兵器か。」

門に兵を集中させていたことが仇となり、被害は拡大している。

「魔導士部隊を即座に向かわせろ。」

「無理です!!。この混乱状況では。」

「ちくしょう。」

ー-??ー-

「王都に被害が出ていますが、よろしいのですか?」

「何、仕方がないことだ。それに今のところ父上はフォーミリア王国を併合する気はないからな。」

「どうしてそのことを?」

「かなり帝国西部が復興してきたとはいえ、まだ完全に復興してきたわけではない。父上は内治を優先するだろう、戦は金がかかる。」

〈それでも戦争は起きるがな、この大陸情勢では。〉

「なるほど。」

シュバルツもバカではない。そうでなくては中央軍の総司令になどなれない。

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