第139話 打ち明け
「実は私、命を狙われているのです。この前も馬車に乗っていたら何者かに襲われてしまったのです。」
うん、知ってる。
「そうなのか…。」
「はい。それ自体は仕方のない事だと受け入れています。しかし、私が死ねばセントクレア教は大混乱に陥るでしょう。それはなんとしても避けなければなりません、私が聖女である以上。」
シュレインの真摯な瞳に気圧される。
覚悟が凄いな、俺には到底無理だ。できれば老衰で死にたい。
「…辛くはないのか?、すべてを投げだしたいとは思ったことはないのか?」
「ない…そう言い切ることは出来ません。何度も普通の生活を想像したことがあります。ですが私がセントクレア教の象徴である以上、教徒を見捨てることは出来ません。」
(誰かさんに見習ってほしいほど立派じゃないですか。)
(誰の事だろうなぁ。)
「大変だな、聖女っていうのも。それで困っているのは暗殺されるかもしれないってことか?」
「いいえ、いえ、それも確かに困るのですが、…実は、おそらくセントクレア教の内部に裏切者がいるのです。そのことが辛いのです。」
やっぱり違和感を覚えていたんだろうなぁ。たぶんあれが初めての暗殺ってわけでもなさそうだし。
「内部から崩すのは王道だからな、聖女の暗殺ともなれば協力者は確かに必要だろう。」
「はい…。」
そうシュレインが返事をすると俯いてしまった。
(パール、そろそろセントクレア教の裏切者の目星はついたか?)
(はい。あれから調査をしていましたが、あの時に聖女の警備隊長が外されていたのはドン・ゲイラー枢機卿が手を回したからのようです。そこからドンを調べてみると怪しい商会が絡んでいるのが分かりました。どうやらその商会は経営実態がないようなのです。)
ペーパーカンパニーみたいなものかな?
(それは怪しいな。組織とのつながりはどうだ?)
(まだ組織とのつながりは判明していません。ですが、その商会を調べたら驚くべき情報が見つかりました。どうやらその商会長はヒキガエルことゴーラ・ヴァイスのようです。)
(そこで繋がってくるのか。もしかしてヒキガエルは組織の一員か?)
ただ者ではないと思ってたが、思ったより大物なのかもな。
(それも現在調査中です。ですがドンが組織と関わりがあるのは間違いないでしょう。)
消すか、そのぐらいはお礼としてやってもいいんじゃないか?
「君はどうしたいんだ?」
「…できれば裏切っている人には改心してほしいと思います。」
良い人すぎだろ、絶対傀儡として祭り上げられたんじゃね?
「君の思いが届くことを祈っているよ。」
「はい。話を聞いてくださりありがとうございました。」
「それはそうとこの結界を解除してくれないかな?」
「分かりました。」
シュレインが結界を解除してくれる。てっきり俺を逃がさないためかと思っていたが。
「この結界は何のためにしてたんだ?」
「あなたと話したくて…。私は聖女ですからいろいろな人から敬意を表されるのです。聖女である以上仕方がないことだとは思うのですが、たまには普通に話してみたくなったのです。」
「で、俺が普通に話してくれそうだと思ったと。」
「はい。」
(やっぱり身体から不遜なオーラが滲み出ているんでしょうね。)
(余計なことを言わんでいい。)
「俺が言うのもなんだがもう少し気を付けた方がいいと思うぞ。」
「そうですね。」
「ではまたな。」
「あなたにいい出会いがあることを。」
そう言って祈ってくる。
そして上空に向かって転移する。
「ヒュン」
「マスター、シュレインに肩入れをする気ですか?」
「ああ。」
「どうしてです。いつもならスルーするじゃないですか。」
「宝石をもらっただろ。盗んだならともかく、くれたならその分返したいのが人間ってもんよ。」
「よく分かりません。」
「いずれわかる。それでドンの場所は分かるか?」
「早急に調べます。」
「ああ、頼んだ。」
ー-??ー-
「旦那様、報告です。どうやらマルシア王国で騒動があった模様です。具体的には公にされてませんが、かなり近衛兵が慌てているとのことです。」
「ギュフッ、詳細な情報を集めなさい。」
「かしこまりました。すぐに諜報員を向かわせます。」
〈グフッ、あの情報を流してからすぐにこの騒動が起きたということは、あなたが絡んでいるのは間違いないでしょう。ギュフフ、いずれ正体を掴んでみせますよ。〉
人々は生きる、数多の未来の可能性の中から一つの未来へ向かって。
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