第138話 ゲット

アルティーヤ大聖堂に到着した。

(大きいな。光魔法による結界も展開されているな。)

(そうですね。どうされますか?)

この結界が何のために展開されているか分からないため、対応策が浮かばない。そもそも結界の破り方なんて知らない。

(どうするか…。こうなったら直接転移だな。)

シンプルイズベスト。

(はぁ、少しは頭を使ったらどうですか?)

(使った結果がこれだ。)

(そうですか…、もう好きにしてください。)

銀の魔力で視力を強化し、透視をする。

うーん、どこにいるかな?、おっ、きっとあの子がそうだろ、前回見た女の子だ。それに机も置かれてある。というわけでお邪魔しますか。

幻術と白い仮面を身に纏う。そして

転移!!

「ヒュン」

侵入成功、さぁ盗ませてもらうぜ。おお、寝てる寝てる。

眠っている聖女を起こさないようにこっそりと机に近づく。

「あなたはだれですか?」

背後から声をかけられ、固まってしまう。

バレちまった!!、落ち着け俺、幻術もかけてるし、何より白い仮面を装着しているから何も問題はない。

シュレインの声を無視して机の中を探す。

「ガタッ」

開かない、鍵が掛かってるのか!!。くそったれ。

(パール、鍵を開けてくれ。)

(無理ですね。どうやら古代の魔道具が使われてます。こんな短時間で解錠するのは不可能です。)

参ったな、お手上げじゃないか。やっぱり最初から空間魔法で大人しく盗めばよかったんだ。

「あなた、高度な幻術魔法を使っているのですね。狙いは何でしょう?、どうやら私じゃないみたいですが。」

そう言いながらシュレインは強固な結界を築きあげていく。

おいおい、効果が分からなさすぎでマジで怖い。逃げようかな…、でもここで退いたら次はないような気がする。やっぱりここは会話をすべきか。

そう思い、質問に答えようとするが、致命的なことに気づく。

やべぇ、声までは完全には変えられねぇ。喋ったらバレるかもしれない。

不味いな、ヒキガエルとか闇オークションでも声を完全に変えるのを忘れてたぞ。詰めが甘かった。

(パール、俺の声を完全に変えられるか?)

(はい、できますよ。銀仮面の仕組みは暇だったので完全に理解していますから。)

そりゃ1500年も放置されてたらな。いや、それは今どうでもいい。

(なら声を変えてくれ。)

(了解です。少し待ってください、白い仮面に魔法陣を付与しますから。)

パールが作業をしている間、しばらく沈黙が続く。

「「…」」

「どうして何も答えないのですか?」

こっちも答えたいけど答えれねぇんだよ。

「無視ということでよろしいですね?」

その後もしばらくシュレインの質問が続く。

気まずいな、こいつも虚しくないのか、一人でしゃべって。

(マスター完了しました。)

(ご苦労。)

「すまない。少し考え事をしていた。」

よし、銀仮面を着けてる時と変わりないな。

「!!、私と話す気があるのですか?」

シュレインが驚いて目を見開いている。

流石聖女、その顔も絵になるな。

「ある。それよりも疑問に思ってたんだが、どうして警備の者を呼ばないんだ?、俺は明らかな不審者だろ?」

そう、こいつは怯えてもおらず、逃げようともしなかった。それが逆に怖い。

「そうしたらあなたは逃げてしまうでしょう?」

「勿論。」

誰が好んで捕まるんだ。

「だからですよ。」

「ほーう、よく分からんな。まぁ、どうでもいいが。それよりもお願いがある。この机の鍵を解錠してほしい。」

「…どうしてですか?」

「この中にある宝石がほしいんだ。」

(ストレートに行きますね。)

(回りくどいのは嫌いだ。)

(面倒くさいからですよね?)

(俺の事が大分わかってきたじゃないか。)

「どうしてそのことを知っているのですか?」

聖女の頭が傾くことでサラサラな髪も動く様子をつい目で追いかけてしまう。

「いろいろ情報網があるからだ。」

嘘は言ってない。

「そうですか。気になるところではありますが、別に構いませんよ。私にとって何の価値もありませんから。」

そう言うシュレインの顔は少し悲しそうに見えた。

(マスター、シュレインの顔が変ですよ。少し話しかけたらどうですか?)

変って失礼すぎるだろ。でもこいつもそういうのが分かってきたんだな。

(藪をつついて蛇が出てきたらどうする?)

(でも知らなくて後悔することもあるかもしれませんよ?)

(確かにそれはそうなんだけどなぁ…。)

ローナの時は手駒が増えたから、メリットがデメリットを上回ったしなぁ。でもこいつは組織に命を狙われるから関わったら面倒くさそうなんだよなぁ、なるべく怠いことは先送りにしたい。

そんなことを思っているとシュレインが机の鍵を解錠し、中にある宝石を取り出す。

「これがあなたの欲しい宝石ですよね?」

「ああ。これがそうなのか。」

「この宝石は珍しいんです。光が当たったら白色から赤色に変わるんですよ。」

「へぇ、それはすばらしいな。」

「はい。それではこちらを差し上げます。」

「いいのか?」

「はい。私が持ってても意味ないですから。それよりは欲しい人が持っているのがいいと思います。」

なんか釈然としないな。盗むのならともかく、貰うのならその分何かお返ししたい。

…はぁ、仕方がない。少し話を聞いてみるか。

「…君は何か抱えているのか?」

「えっ、そんなことはないですよ。」

無理して笑顔を作っているのが丸分かりだ。

「嘘をつくな。俺にはわかる。話してみろ、この宝石分ぐらいは助けてやる。」

本物かは分からないが、少し助けるくらいならいいだろ。

「えっ、そういうつもりで渡したわけじゃないです。気にしないでください。」

人格者だなぁ。こういう人が馬鹿を見ているのを俺は見たくない。

「まぁ、話すだけ話してみろ。少しは気も楽になるだろ。」

「…分かりました。」




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