第136話 初代聖女

建物に大きな穴を開け、そこから侵入する。

(頼むぞ、パール。)

あとはもう時間との勝負だ。見つかるか、見つけるか、仁義なき戦いの始まりだ。

(数が多くて少し時間がかかりますね。幻術で身を隠しておいてくださいね。)

(ああ。ガチでやってる。)

宝物庫にはたくさんの宝物が置かれていた。絵画、宝石、よく分からない魔道具など。暇つぶしで絵画を見てみる。

んー、これは龍と人が戦っているのか。こっちは…白銀の狼か、フェンリルだな。これは…黒一色の絵か。俺でも書けるぞ、こんなの。

そうこうしているうちに入口が衛兵に見つかってしまった。

「おい、穴が開いてるぞ。」

「すぐに騎士団長に知らせろ。」

「はっ、了解いたしました。」

(おい、バレたぞ。まだ見つからないのか?)

ここで失敗してしまったらさらにハードルが上がる。それだけはごめんだ。

(マスター、…見つかりません。)

(バカな!!、ヒキガエルはここにあるって言ってたぞ。)

(でも確かに確認できません。)

「タッタッタッタ…」

足音が近づいてくる。

(くっそ、一時離脱だ。)

(了解。)

転移!!

一気に上空へ転移する。

「はぁ、失敗したか。本当になかったのか?」

「はい、何度も確認しましたが、それらしきものは発見できませんでした。今も撮影した記録を念のために確認していますが、やはり存在しません。」

でもあのヒキガエルが俺に嘘をつくとは思えない。俺と良好な関係を維持したいはずなのに喧嘩を売るはずがない。

「…ならどこにいったんだろうな、まさかすでに盗まれていたとか?」

「不明です。どうしましょうか?」

ここまで来て手ぶらで帰るなんてありえない。

「すべての探査機を投入して行方を追え。」

「…了解しました。」

一時的に各国とギルドの監視ができなくなるが仕方がない。今は宝石が最優先だ。

「はぁ、結果が分かるまでどうしようかな?」

「王都を見て回られてはどうですか?」

「そうするか。本屋にでも行ってみるわ。」

一般人に見えるように幻術をかけて本屋に向かう。

さて、作者不詳の本はあるだろうか?、まだ買った小説も読めていないけど。

「らっしゃい、らっしゃい、今日は野菜が安いよー-。」

「奥さん、これなんかどうだい。」

活気があるな、でもそういうコミュニケーションは苦手だ。

(本屋さんまで案内してくれ。)

(了解です。)

しばらくすると帝都より小さい本屋に着いた。

さぁ、入ろう。

「いらっしゃいませー-。」

初めてで分からないので年老いた店員に聞いてみる。

「すいません、作者不詳の英雄譚ってありますか?」

「悪いねぇ、うちには置いてないねぇ。」

「…そうですか。」

無くてよかったけど、少しがっかりしたな。

「お客さんは旅の人かい?」

「ああ。そうだ。」

「ならこんな本はどうだい?」

その本のタイトルは、【初代聖女の封印】というタイトルで、作者名が書かれていた。

「これは有名なんですか?」

「有名も有名、なんたってマルシア王国はセントクレア教発祥の地だからねぇ。」

そうなんだ、知らなかった。

「へー、この本は実話なんですか?」

「どうだろうねぇ、今となっては分からないよ。」

きな臭いな、嫌な予感がする。

「ではこれを買います。」

「おっ、ありがとねぇ。」

それから店を出て噴水のベンチで本を読むことにする。

(どうだ、パール、宝石の行方は突き止められたか?)

(まだです。)

(そうか。ならこの本でも読むか。噴水前まで案内してくれ。)

(了解しました。)

パールの案内で噴水前のベンチまでたどり着く。

さて、では読もうか。

「パラパラ…」


ようやく読み終わった。話を要約すると、昔、現在のマルシア王国の地域を闇に包む魔物、ティラノスが現れたときに一人の女性が立ち上がった。その名はレアノラ、彼女は闇落ちした人々を愛で正気に戻すことを呼びかけたらしい。そのおかげで人々は正気を取り戻した。そして最後には白い魔力を発現し、命をかけてティラノスを封印したという。それから愛を信仰するセントクレア教が誕生した。

参ったな、金の魔力、白い魔力、そして俺の銀の魔力。これまでの流れからして、俺も命をかけて死ぬんじゃね?、しかも魔王とティラノスは封印されただけで倒されてはいない。

(パール、この話をどう思う?)

(悲惨ですね。まさしく人柱ですから。)

(俺もこうなると思うか?)

(なる未来が見えませんね、そうなる前に逃げる様子が容易く想像できますよ。)

(だよな。)

だが、この流れは嫌だ。気にしすぎならいいが。

(それはそうとして宝石の行方が判明しました。)

切り替え、切り替え。

(ほーう、どこにあるんだ?)

(どうやら聖女に贈られたようです。)

(はあ!?、聖女だと。あの女か。一気にハードルが上がったな。)

(どうされますか?)

(とりあえず聖女の位置を特定しろ。行動するのは夜だ。もしかしたら警備も厳しくなってるかもしれないからな。)

(確実に厳しくなってますよ、あれだけ暴れれば。)

(いや、あれが手っ取り早いと思ったんだ。)

(急がば回れですよ。)

反論できねぇ。

(…とりあえず、学園に戻るぞ。)

(了解です。)


ー--??ー---

「大変です。シュバルツ様。」

「どうした、そんなに慌てて?」

「弟君であるジュラ様が暗殺されました。}

「なんだと!!、それは本当か?」

「はい。毒のナイフで刺されたようです。発見されたときにはもう…。」

「……………、犯人の目星はついているのか?」

「……………」

部下の逡巡した様子を見てシュバルツは詰め寄る。

「言え!!、命が惜しいなら!!。」

「は、はい。おそらくリーバー殿下、ゼルドア殿下の仕業だと思われます。」

「あの二人は参加してなかったはずだが…、面白い。この俺様に喧嘩を売るとは。身の程を分からせてやる。父上の動きは?」

「暗部に動きが見られますが、詳しくは分かりません。」

〈父上はできるとこまで辿る気か。こちらも暗殺者を放ちたいが、こうなるとは思ってなかったからな。とりあえずはこの戦に勝たって中央に戻らなければ。〉

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