第130話 治癒

「ガチャ」

扉を開けるとローナが聞き耳を立てていた。

「ひゅう~」

いや、口笛吹けてねえし。そもそも淑女がすることではないな。

「ローナ…。はぁ、大変申し訳ありません。」

「構わない。防音はしていたからな。」

パールが俺の代わりにしっかりと受け答えしていく。将来は腹話術師になるのもありかもな。給料は少なそうだけど楽しそうだ。

ローナがボソッと呟く。

「だから聞こえなかったんだ。」

聞こえてるぞ、ローナ。そういうのは心の中でとどめておけ。

「それでどこに行けばいいんだ?」

「こちらです。」

ガルドに案内されて、ある部屋の前にやってきた。

「この中に妻は居ます。」

「コンコン」

「はい。」

中に入ると、ローナと同じ髪の色をした美女がベッドで座っており、メイドが傍に控えていた。

「悪いが君たちは退室してくれ。」

ガルドがそう言うとメイドたちは部屋から退出していく。

「あなた、その方たちは?」

また一から説明かよ。だりぃな、まじで。

(パール任せたぞ。)

(了解です。今の私は名俳優ですから。)

シンプルにうざい。


ようやく説明が全部終わった。

「そうなんですね。じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「ああ。その前にローナ嬢とガルド殿はこの部屋から退出していただきたい。秘法を使うんでね。」

「…分かりました。終わりましたら呼んでください。退出するぞ、ローナ。」

「えっ、でも…」

「ローナ!!、退出するぞ。」

「はい…」

うんうん、やっぱりガルドは優秀だな。すぐに決断するのは素晴らしい。少しは丁重に扱ってやろう。

「ガチャ」

「君はジン君っていうのね。あの子とは友達なの?」

「まぁ、そうですね。」

「そう、よかったわ。あの子にも友達と呼べる存在がいるなら安心だわ。」

なんか、遺言みたいだな。治せないとでも思っているのかな。

「ゴホッ、ゴホッ。ごめんなさいね。咳がたまに出るの。」

「いいえ。でも大丈夫ですよ、ゼロが治してくれるので。そうだろ?」

「勿論だ。ではそろそろ治癒を開始したいと思う。目を瞑ってほしい。」

よし、俺の出番だな。目を瞑っているから大丈夫だと思うが、一応幻術でゼロがやっているように見せかけてと。

銀の魔力で治癒魔法をかけていく。イメージだ、イメージ。

(パール、終わったぞ。)

(了解です。)

「どうだろうか?、もう治ったはずなのだが?」

「…うそ、身体が軽い。本当に治ったの?、神官でも無理だったのに。」

「ではこれでいいな。」

「本当にありがどうございますぅぅー-。」

げぇ、泣き始めやがった。大人が泣いてたらどう反応していいか困るんだよ。しかもなんかローナに似てるんだよ、顔とか泣き方とか。

「じゃあ、ゼロ。二人を呼んできてもいいか?」

「ああ。構わない。」

「ガチャ」

「二人とも無事に成功しましたよ。」

「ほ、本当か?」

「お母様ー--」

ローナが真っ先に母親のそばに駆け寄り、続いてガルドも近寄る。

うんうん、一件落着だな。よかった、よかった。

フォルナ家の面々が落ち着いたのを見て話す。

「ではそろそろ俺たちは帰ります。ガルド様くれぐれも約束を守ってくださいね。」

「無論だとも。どこまでも付き合おう。」

「よし、じゃあゼロ。学園まで戻ってくれ。それで貸しはチャラにするから。」

「はぁ、人使いが荒いな。これで最後だからな。」

「ああ。」

「ジン、本当にありがとう。ねえねえ、その…ジンって婚約者とかいるの?」

不味い流れのような気がする、だがここは正直に答えるしかない。調べればすぐわかることだからな。

「…いや、いないが…。」

「なら、私と婚約しない?、私はジンの事が好き、えへへ。」

言ってから照れるなよ、顔も赤いし。

「あらあら。」

やめてくれ、ローナの母さん。

「ああ…、なんというかだな、そもそも好きになった理由はなんだ?」

「泣いてるときに慰めに来てくれたでしょ?、あれすっごく嬉しかったんだよ。それからも私のためにいろいろやってくれたし、そんなの好きになるしかないじゃん。」

そんなんで惚れるか、普通?。少なくとも俺は惚れんぞ。

(マスターにもとうとう春がやってきましたね。おめでとうございます。)

(勝手に決めつけんな。俺は誰とも結婚なんかせんぞ。)

(何が不満なんです?)

(いや、だって俺、ローナの事好きじゃねぇし。やっぱり好きな人と結婚したいじゃないか。)

(マスターからそのような発言が飛び出すとは驚きです。)

(うっせーよ。)

好きでもない相手と結婚するのはごめんだ。この理論でいくと、誰とも結婚できないかもしれないが。

「その、…」

俺が話そうとした瞬間、ローナが割り込んできた。

「言わなくていいよ。その顔を見ればわかるから。でも絶対にいつか好きって言わせて見せるからね。」

「…そうかい。なら楽しみに待ってるよ。」

「うん。」

ローナは満面の笑顔を浮かべる。ローナの母さんはすごく嬉しそうな顔をしており、対照的にガルドは嫌そうな顔をしていた。

へー、やっぱり娘の父親だなぁ。単に俺が嫌なだけかもしれないけど。

「それでは帰ろうか、二人とも。」

「うん。」

「おお。」

ローナの両親に別れの挨拶を告げ、学園へ戻る。

その途中、

(マスター、第5皇子の事は知ってますか?)

(ああ、生まれてすぐ死んだんだろ?)

(はい。その事にある噂があるのはご存じですか?)

(どんな噂だ?)

(実は第5皇子は生まれてすぐ暗殺されたという噂です。)

物騒ですな。ちゃんと家のドアは鍵を掛けないといけませんぞ。

(…誰がやったんだ?)

(不明です。そもそも本当に暗殺だったのかも分かりませんからね。でも第3、第4皇子の母親の実家が動いたと言われています。)

(…どうして今そんな話をしたんだ?)

(さっき第3,第4皇子が母方の祖父のもとを訪れました。それも秘密裏にです。怪しくないですか?)

(…もしかして帝位争いに参加するのか?)

(かもしれませんね。)

はぁ、もう好きにしてくれ。自分から首を突っ込むのはやめよう。ただでさえやることは多いからな。



ーー-??ー--

「そういうわけでちょいと暗殺者を借りたいんですよね。いいですか、ロンド御爺様?」

「お主らは本気で皇帝の座を目指すのか?」

「だからさっきからそう言ってんだろ。つべこべ言わずに貸せ、可愛い孫のお願いだぞ、ええ!?」

〈ふむ。こいつらは今まで遊び惚けておったから諦めて放置していたが、使えるかもしれんのう。〉

「よかろう。だが失敗は許さんぞ。」

「分かってますよ。」


帝城に帰る途中、

「兄さん、まだあの爺さんは殺しちゃだめだよ。利用価値があるからね。」

「わあってる。でもいつかは消すぞ。」

「勿論。老害は足を引っ張るだけだからね。それで決行は明日でいい?」

「ああ。早ければ早いほどいい。暗部に嗅ぎつかれたら面倒だからな。」

「だよね。」

暗部、それは帝国の腐敗を刈り取るもの。つまり、非合法に活動する皇帝の直轄部隊である。帝位争いには関与しないし出来ないが、もちろん皇族の暗殺計画を察知すればすぐさま皇帝に報告し、警備も厚くするよう進言する。したがって暗殺の計画がバレればかなりまずいことになるのだ、なぜならば敵が皇帝の加護を受けることになるのだから。



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