第120話 リスタート

とりあえず目下の懸念事項は片付いたな。やっぱり思い付きで助けるとか言うんじゃなかった、次からは気を付けよう。で新たな問題はジルギアス王国だよな、帝国まで果たして届くだろうか?、たぶん無理だな。

(パール、第2皇子はエナメルとトランテに攻撃を仕掛けると思うか?)

(おそらく仕掛けないでしょうね。しかしフォーミリア王国の首都を目指して一気に進軍するでしょう。首都を落とせば主導権を握ることができますし、帝位争いでも有利になるでしょうから。)

そうだよな。なら第2オペレーションZも必要かもな。フォーミリア王国の出身のS級冒険者は行動を制限されているとはいえ、まだ過去を視る探偵とやらが残ってるからな。

(パール、過去を視る探偵の件はどうなっている?)

(予約が殺到していますからすぐには動けないようです。しかし依頼の受理はされてます。おそらく鑑定が行われるのは今から2か月後ぐらいだと思われます。)

それだけあればフォーミリア王国で戦争を起こせるな、その前に起こる可能性もあるが。

(分かった。とりあえずクレセリア皇国、フォーミリア王国、ジルギアス王国、過去を視る探偵の監視は怠るな。)

(了解です。)

(マルシア王国にも行きたいんだけどな。)

(次の週末には行けるかもしれませんね。)

(そうだな。戦乱に巻き込まれて行方不明とかシャレになってないからな。)

しばらく飛び続けていると帝都が見えてきた。その後、無事に学園へ戻り、授業を受けるのだった。


その日の夜、

「おい、てめぇ、ちょっと面貸せ。」

ひえっ、今同室のヤンキー君に絡まれてます。どうすればいいんだ、助けて。

「どうしてだ?、なんかしたか、俺?」

一切動揺した素振りは出さず、冷静に答える。

「いいからついて来い。」

「…分かった。」

「待て、俺も行くぞ。」

フレイ君、信じてたよ。持つべきは話の分かる友だ。

「好きにしろ。」

(どうしてこのタイミングで絡んできたんだろうな?)

(夜中に抜け出したのがバレたんじゃないですか?)

(それはないと思う。まぁ、バレたところで証拠はないけどな。)

しばらく歩くと訓練室に着いた。

「こんなところに連れてきて何をするつもりだ。」

「…」

いきがったガキが。あんまり調子に乗るなよ、と思うだけで態度には一切出さない。

これだから中途半端に権力を持った奴は困る。

中に入り、木剣を俺に投げてくる。

「おい、俺と戦え。」

適当に手抜いて負けよう。

「言っとくが舐めた真似したら、お前の家潰すから。」

陰険だ、いやある意味派手なのか?。しかし最低だな。まぁ、最悪家は潰されてもいいけど仕えている使用人を巻き込むのはちょっとなぁ。

「おい、待て、聞き捨てならないぞ。そうなったら俺がお前を潰す。」

いったれ、フレイ。コテンパンにしてまえ。

「ふん、要はそいつが手を抜かなければいいだけだ。気づいているか?、こいつは剣や魔法の授業でわざと負けてやがるんだぞ。」

気づいてたのか。結構注意を払ってたんだけどな。

(連れてこられた原因が分かりましたね。)

(最悪だな。どっちにしろ俺の望む結末にはならなさそうだ。)

「…そうなのか?、ジン。」

「まぁ、そうだな。下手に目立ったらめんどいし。」

「はん、なら今回は本気で戦え。」

「条件がある。他のやつにはバラすな。あと。本気は出せないぞ、お前が弱すぎるからな。」

はっはっは、言ってやったぞ。大人げないとか言うなよ、今の俺は子供だ。

「ふざけたやつだ。血祭りにあげてやる。」

おお、キレてるキレてる。おもしろ。

互いに木剣を構え、相手の出方を探る。すると身体強化をかけてバルアが仕掛けてきた。

「ブン」

俺も身体強化を施し、余裕を持って躱す。

へー、結構しっかりした剣術なんだな。サボってると思ってた。

「てめぇ、どうして仕掛けてこない?」

「…」

質問に答える必要性を感じなかったため、無視をする。

「ちっ、舐めるな。」

「カンカンカンカン」

へー、結構強い。気を抜けば一気に流れを持っていかれそうだ。少なくとも前の依頼で戦ったグレンよりは数段強い。

「くっそ、やっぱりてめぇ手抜いてやがったな。」

「甘い。」

突きを戻そうとするのに合わせて急接近し、鳩尾に膝蹴りを目にもとまらぬ速さで何発もぶち込み、最後に普通の蹴りをお見舞いする。

「ドゴッ、ドゴッ、ドゴッ・・・・」

「ぐっ」

バルアは吹き飛び、お腹を抑えてうずくまっている。

手加減してるとはいえ、身体強化の蹴りだからな、結構効いただろ。

「もう終わりでいいか?」

「まだだ。はぁ、俺は…今まで全てを剣に捧げてきたんだ。はぁはぁ、こんなところで負けられるか。」

そう言ってバルアは立ち上がる。

俺はバルアの言葉を聞いて苦々しく思った。

世の中には三種類の人間がいる。壁にぶつかったときに挫折する者、乗り越えようとする者、そしてそもそも挑まない者だ。俺はもちろん三番目の人間だ。そして現状を見ればバルアは前の二つのどちらかであることは明らかである。

俺が壁に挑まないのは自分のすべてを賭けても届かなかったときが怖いからだ。もし届かなかったらこれまでの自分を否定されたように感じてもう一度立ち上がることが出来ないだろう。そうなれば日常生活を送れるかも怪しい、いや無理だろうな。

そして今回の場合、バルアは天地がひっくり返っても俺には勝てない。しかも俺は剣にすべてをささげたわけでもない。生まれついてのスペック差がもろに出てしまうのだ。努力をした人間が才能のある人間に勝てない、ここに俺が歪んだ原因があると思う。なぜなら俺はこういう現実が好きではないから。持ってる側の俺が言うと嫌味に聞こえるかもしれないが。

バルアが何度も俺にかかってくるが俺は全部捌き切る。そして体力が切れたのかバルアは膝をついてしまう。

「もういいだろ。お前は俺には勝てない。」

「くそっ、ふざけるなよ!!。はぁはぁ、俺は、俺はすべてをかけてきたんだ。なのに、どうしてこんな奴に勝てないんだ!!」

思わず顔が歪みそうになる。

はぁー、相も変わらず現実は残酷だ。だがその現実で利益を得ているのは俺、だから好きではないが嫌いでもない。

そしてこの戦いを終わらせるためにバルアが立ち上がったところで急接近する。

「終わりだ。」

「ドゴッ」

鳩尾に結構強いパンチを食らわせ、完全に終わらせる。

「ぐっ、…………くっそ、くそぉ、………」

バルアを無視して部屋へ戻る。その途中でフレイが話しかけてくる。

「どうして授業で手を抜いてたんだ?」

「さっきも言った通り目立ちたくなかったんだ。教師に目を付けられたくもないし。」

「…そうだったのか。」

「内緒で頼むよ。バレたらラギーナとか怒りそうだからな。」

「ああ、分かった。明日は俺とも戦ってくれないか?、どこまで通じるか試してみたいんだ。」

「…内緒にしてくれるならな。」

「それは勿論。」

「なら構わんぞ。」

「ありがとう、助かる。」

ちっ、最悪な展開だな。まさに芋づるじゃないか。

部屋へ戻ってしばらくフレイと戦場チェスをして、いい時間になったところでベッドで眠る。

(マスター、夜中に抜け出していたことがバレたわけではなくてよかったですね。)

(…まあな。)

(どうされたんです?、あんまり元気がありませんね。)

(現実は残酷だと思っただけだ。)

(バルアの件ですか。意外ですね、ざまあみろとでも思ってるのかと思ってましたよ。)

(そう思えたら気も楽だったんだけどな。そう思うのには重すぎる。自分の人生を賭けても届かないって相当辛いぞ。)

現にまだバルアは部屋に戻って来ていない。どっかで泣いてんのかな、プライドの高そうなやつだからな。

(そうですね。人の一生は短いですから。)

やっぱりなんかずれてんだよな、こいつは、人のことは言えないけど。あっ人じゃないから大丈夫か。

(まぁ、考えても仕方ない。明日に備えて寝るわ。おやすみ。)

(よい夢を。)




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