第113話 狩り
「よし、入るか。」
「ああ。」
正直、俺は過去を視ることができる人物の事が気になりすぎてそれどころではない。
過去視か、あのとき俺は幻術をかけていたからな。素顔はバレないだろうが後を追われたら居場所がわかる。
おそらく帝国は俺が犯人だとわかったらフォーミリア王国に渡すだろう。そして俺の家族まで連座で処刑、SS級冒険者が恐ろしいからな。そうなっても家族を見捨てれば何とでもなるが、さすがにそれは目覚めが悪い。となると何とか軟着陸させる必要がある。人というマットを敷いて。
なんか前世より最低になってるよな。元からの気質か、それとも魔法や封建制度がある環境だからか。まぁ、どっちでもいいか。俺が良かったらそれでいいんだ。それにどの世界でも他人を蹴落とすことは多々ある。こちらでは露骨すぎるだけで。
「おおー、たくさんの馬がいるな。どれもいい品質だ。俺はこの馬にしようかな。ジンも早く選べよ。」
「ああ。」
馬の良しあしが分からないため、見た目で決めることにする。
うーん、やっぱり馬と言えば綺麗な栗毛だよな。
「決まったか?」
「…ああ、こいつにする。」
店員に金を払い、馬をレンタルする。
「馬を失くしてしまった場合、追加料金がかかりますのでご了承ください。それと武器のレンタルも可能ですが、いかがされますか?」
「ああ、頼もう。外は何があるかわからないからな、ジンもそれでいいよな?」
「おう。」
確かに帝都の外にはモンスターや賊がおり、治安が良いとは言えない。
「俺はこれかな。」
「へー、フレイは槍にするのか?」
「ああ、馬上ではリーチの長い武器のほうが有利だからな。ジンも槍にするか?」
槍か、魔法なら作り出して打ち出したりしているが、振り回して使ったことはないな。
(マスター、やめておいた方がいいです。慣れない武器が命取りとなることもあります。)
(そうだよな。こんなつまんねぇ事で命落としたらあほらしいもんな。)
(はい、本来なら別にやらなくてもよい事ですから。)
それだけ、この世界は危険ってことだ。力がないとほんと不便だ。
(そもそもマスター、馬に乗ったことはありませんよね。)
(ああ、たぶん忘れてた説が濃厚だな。家庭教師が親だとやっぱだめだな。専門の人じゃないと。)
(マスターのご両親はどこか抜けてますからね。)
(ほんと勘弁してほしいよ。)
(お忘れなく。二人の血を受け継いでいることを。)
大した問題じゃない。結局は心のつながりだからな、それがないかぎりよくて友達だ、親友ではない。
「じゃあ、俺は剣にするよ。やっぱり使い慣れた武器の方がいいと思うから。」
「そうか、じゃあ後は弓を受け取ったら行こうか。」
「弓も借りるのか?」
そういや弓も初めてだな。結構、ガバガバな教育だったのか。
「ああ。馬上からウサギや鳥を撃つんだ。面白いぞ。」
「へー、やってみたいな。」
こっちの世界には鷹狩とかはないのかな?、一回ぐらいしてみたい。貴族や戦国大名みたいに。だって俺貴族だし。
武器と馬を借りて、帝都の外に向けて出発する。
馬に乗るのは初めてだったが、とりあえず身体強化をかけて振り落とされないように気を付ける。そしてフレイの動作を見様見真似でトレースする。
「おおー、速い速い、ジン、凄い景色じゃないか?」
「ああ、これは凄いな。どこまでも平原が広がってる。初めて見たかもしれない。」
帝都へ行くときはいつも馬車の中だったので気づかなかったが、どうやら帝都は広大な平原の中にあったらしい。
凄いな、まるでゲームの中にいるようだ。まさかこんな景色を見れるとは。上空からの景色とはまた違った美しさがある。
「じゃあ、そろそろ慣れてきたし森の方に行って狩りでもしよう。モンスターがいるかもしれないから気を付けてな。」
「了解。」
森の中に入り、狭い道をスピードを緩めて走る。
やばいやばい、木が多すぎるって。こんなとこ走りたくねぇよ。もっと道が広いとこにしようぜ。
俺の願い虚しく、どんどん奥に入っていく。
すると、フレイが弓を背中からおろし、構えて鋭い矢を連続で放った。
「何かいたのか?」
「ああ、イノシシだな。たぶん仕留めきれたと思うんだけどなぁ。」
ゆっくり、近づいていくと血を流して倒れているイノシシがいた。
「見事なもんだな。俺にはぜんぜん獲物を探す余裕なんてなかったよ。」
「慣れてるんだよ。領地が田舎だったからよく狩りをしてたんだ。」
「へ~」
公爵家なのに田舎っておかしくないか?、謙遜しているのか?
その後、フレイは下処理をしていた。
凄いな、この年で血抜きとかできるんだ。俺にはできねぇな、やる気もないけど。
「ガサガサ」
「うん?、おっフレイ、コブリンの群れだ。いったんストップだ。」
「血の匂いにつられてやってきたのか、厄介だな。数が増える前に倒すぞ。」
「ああ。」
さすが上級貴族な子だけあって、共闘すると数分で片付いた。
「とりあえず、早くイノシシの処理をするか。ジンも手伝ってくれ。」
「残念ながら分からないんだ、やり方が。」
「俺が教えるから大丈夫だ。」
最悪だ、グロいからやりたくないのに。でも覚えて損はないよな、手は水魔法で洗えばいいし。…はぁ~、やりますか。
ようやく後処理を終えると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「キャーーーーー」
なんて日だ。こんなの絶対フレイが反応するに決まってるじゃねぇか。
「今、女性の悲鳴声がしなかったか?」
「…したな。」
「向かってみよう。」
「ああ。」
(やっぱり、マスターはもってますね。普通は起きないと思います。)
(最悪だな。俺一人なら無視したっていうのに。)
(まぁ、諦めて向かいましょう。嘘をついたときからこうなる運命だったんですよ。)
(そんなことはない!!・・・はずだ。)
フレイを先頭とする形で悲鳴がした方向へ向かう。
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