第112話 次の週末
無事に今週も終わった。だいぶ授業やクラスにも慣れてきたが、同じ部屋のフレイ以外はまだ打ち解けていない。
まぁ仕方ないな。一人はそもそもこちらと仲良くする意志がないし、もう一人はおどおどしすぎていて相手にしたくない。はぁ~、フレイがいるだけましか。
部屋の中でパールと今日の事について話し合う。
(マスター、今日は何をされるんですか?)
(マルシア王国に宝石を盗みに行こうと思う。)
(なるほど。例の宝石かもしれないからですか?)
(ああ。価値の分からない奴らが持っててもしょうがないだろ。価値がわかるやつが有効に使わないとな。)
(ものすごい暴論ですね。それを認める人は少ないと思いますよ。)
(俺もそう思う。俺がやられたら嫌だからな。)
(人にやられたら嫌なことはしてはいけないと習わなかったんですか?)
(習ってないな、放任主義だったんで。それにバレなきゃ問題ない。)
(さすがに一国の宝物庫はハードルが高いと思いますよ。ヴァルクス商会のときとはわけが違います。)
(ああそれは理解している。それでも俺は欲しい。)
(仮に本物だったとしたら使われますか?)
(分からないな。少なくとも20歳ぐらいまでは使わないだろうからな。後回しだな。)
(…そうですか。)
(ああ。)
永遠の命があればいつか違う惑星に行けるかもしれないな。なんなら地球を目指しちゃう?、うーん、まぁ無しだな。地球には魔力がないし、魔法が使えるかもわからないからな。
するとフレイが
「ジン、帝都へ遊びに行かないか?」
と話しかけてきた。
「悪い、フレイ。ちょっと家に手紙を書いて送らないといけなくてさ。」
(平然と嘘をつきますね。)
(マルシア王国へ宝石を盗みに行ってきますとは言えないだろ。)
(それはそうですけどね。)
「へ~、親孝行なんだな。なら、俺も書くか。それから遊びに行こう。」
なんでこうなる。思ってたのと違う。
(嘘が裏目に出ましたね。)
(嘘が悪いんじゃなくて内容をミスったな。仕方がない、甘んじて受け入れよう。)
フレイと一緒に手紙を書こうとするが内容が全く思いつかない。
(パール、助けてくれ!!、何を書けばいいか思いつかん。)
(まさに自業自得ですよ。家族への愛でも書いてみたらいかがです。)
このやろ~、人工知能が愛とか言うな。こうなったらこれまで起こった事実を羅列するしかないな。あとは楽しいですとか書いとけば完璧だろ。
そう思った瞬間、手がスラスラ動く。
(マスター、急に筆が進み始めましたね。)
(ああ、とりあえず事実をひたすら書けばいいかと思って。)
(会えなくて寂しい、と書けばいいんじゃないですか?)
(死んでもごめんだね。そんなん書くぐらいなら行方をくらますわ。)
(はぁ。ただのリップサービスじゃないですか。)
(…お前もなかなか最低になってきたな。)
(…そんなことはないですよ。)
その後、手紙を書きあげて外出届を出し、帝都へ繰り出す。
「それでどこへ向かおうか?」
帝都って意外と娯楽が少ないんだよな。
「そうだな、乗馬なんかどうだ?、帝都の外で走り回るんだ。」
へ~、そういうのもあるんだ。というか何気に馬に乗るのは初めてだな、普通は教養とかで習いそうなもんなんだけどな。
「いいな。それにしよう。どこで借りるんだ。」
「門の近くにあるんだ。」
「へ~、そうなのか。もしかして入口のすぐのところか?」
「そうだな。」
しばらく帝都を会話しながら進んでいく。
(マスター、速報です。トランテ王国とエナメル王国がフォーミリア王国に侵攻を始めました。フォーミリア王国軍は抵抗していますが、完全に劣勢です。)
(まじで?、全然思ってたのと違うな。でもフォーミリア王国は経済が混乱して治安も悪化しているからな、持ちこたえれんのかな?)
(おそらく厳しいでしょう。下手すれば滅亡という線も見えてきます。)
(そうか、ユーミリア公国はどうなってる?)
(現在も国境付近の警備を強化していますね。)
(そうか。)
おそらく経済が混乱しすぎているせいでフォーミリア王国はもたない。こうなるとトランテ王国とエナメル王国の同盟はますます強化されるだろう。クレセリア皇国もマーテル公国に進軍しているから帝国は周りからの圧迫感を感じざるを得ない。
これは普通にどんぱちもあり得るな。逃亡しようにも違う大陸じゃ、絶対言葉が通じないからな。どうすべきか。
(ほかにも興味深い情報が入ってきましたよ。)
(なんだ?)
(フォーミリア王国出身のSS級冒険者がヴァルクス商会の金庫を盗んだ者を探しているそうです。祖国が脅かされて激怒してるんでしょうね。)
(…参ったな。まぁ、俺までにはたどりつかないだろうが。)
(それはどうでしょうか、これはまだ未確定情報ですが過去を視る探偵にも依頼が出されたようですよ。)
(過去を視る探偵?、ローナの逆バージョンか。しかしそれは不味いな。どうするか。)
(どうされるんですか?)
不味い不味い、もしバレたら本格的に大陸から逃亡しないといけねぇぞ。さすがに殺すのは大義名分がないしなぁ。うーん、参った。…誰か他のやつを犯人にするか?ラウドとか、…ちょっと無理があるよな。仕方ない、俺の平穏な生活のためだ。
(オペレーションZを発動する。)
(…なんですか、それは?)
(秘密工作だ。今夜に決行する、非常に緊急性が高いからな。なんなら今からやりたいくらいだ。)
(嫌な予感しかしないですね。)
(どうせまだ帝国には伝わってないんだろ?)
(そうですね。早馬が向かってるところです。)
(そうか。)
正直、フォーミリア王国民には申し訳ないと思う。だが仕方ない、大物が絡んでるからな。
(パール、SS級冒険者は戦争に参加すると思うか?)
(しないというよりはできないでしょう。他のSS級冒険者が敵に回りますから。)
(だよな。でももしSS級冒険者が国に仕えて貴族になったらどうなるんだ?)
(それは参戦可能でしょう。)
もし万が一、SS級冒険者が貴族になって戦争に参戦したとしよう。そうなれば一気に戦況はひっくり返る。だが、その後が大変だ。おそらく残りの国全部が包囲網を敷く。そうなれば待っているのは衰退だ。それにフォーミリア王国がSS級冒険者を前面に出して他国に侵攻することはできないだろう。SS級冒険者が貴族になって他国に侵攻するということが前例となれば各国はSS級冒険者を取り込もうと躍起になってしまう。それは大陸のパワーバランスが崩れてしまうことを意味する。それを冒険者ギルドは認めない。絶対にほかのSS級冒険者を派遣して討伐するだろう。つまり最善は自力で跳ね返すことで、次善は他国に救援を頼むことだ。そして今回の場合は前者が不可能だから後者になる。そのときの第一候補はきっとギラニア帝国だ。
だが、その策は俺にとって不都合だ。潰させてもらおう、俺のために。
「ジン、どうした、急に黙って?」
「いや、帝都の外はあんまり回ったことがないなって思ってさ。フレイはあるのか?」
「ないな。そもそもどこにいくにしても家の者が付いてくるからさ。すごい楽しみなんだ。」
「俺もだ。あんまり屋敷の外とかに出たことがなかったからな。」
「ああ、やっぱりそうだよな。俺だけじゃなかったんだ。」
フレイの場合は特に公爵家だからな、余計なしがらみもあるんだろう。ほんとハブられた男爵家でよかった。
「フレイは長男なのか?」
「ああ。姉はいるんだけどな。ジンはどうなんだ?」
「俺は次男だな。兄と姉がいる。」
「ジンの姉って確かサラ嬢だよな?」
嬢か、違和感が凄いな。どちらかというと文明人ではなく野蛮人だからな。
「知ってるのか?」
「勿論。学園にいたとき無敗だったんだろ。魔法も斬ってたらしいし。」
確かにあれは凄い。戦場だったら戦わずに逃げるだろうな。それぐらいめんどくさい相手だ。
その後もいろいろ会話していると店に着いた。
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