第106話 学園へ

「起きてください、ジン様。」

「……………」

「ジン様!!」

「ん~、何だミリア?」

「起きてください。そろそろ起きないと入学式に間に合いませんよ。」

「う~ん、じゃああと少しだけ…」

「駄目です。」

そういって布団を引き剝がしてくる。

「ほら、シャワーを浴びてきてください。学園に来ていく服は後で置きに行きますから。」

「わかったよ。」

シャワーを浴びに行く。

(マスター、眠そうなところ申し訳ないですが報告があります。)

(なんだ?)

(フォーミリア王国の経済が崩壊し始めました。)

(具体的には?)

(物価の異常な上昇、品薄、失業率の上昇などが始まっています。)

(それは大変だな。)

(他人事のように言ってますがマスターが引き起こしたんですからね。)

(今、頭回ってなくてさ、あんまり考えれないんだ。)

(はぁ~、そんな調子で入学式は大丈夫ですか?)

(余裕だろ、寝てたらいつのまにか終わってる。)

(初日から悪目立ちするやつですね。)

(仕方がない。眠いんだからな。)

(自業自得ですね。)

そんな会話をして、浴室から出ると服が置かれていた。

(これ着んの?)

(そうでしょうね。)

(めっちゃフォーマルなやつじゃん。)

(それはそうでしょう、貴族の子供の入学式なんですから。)

(平民は居ないのか?)

(いますけど学舎が違いますからね。関わることはないでしょう。)

(そうか。ああー疲れる日々の幕開けか。)

(そういう運命だと思って諦めてください。)

(俺は運命にあらがってみせるぞ。)

(それはつまり楽しい学園生活を送りたいということですね?)

(ああ、もうそれでいいや。)

服を着替えて部屋に戻ると、ミリアがいつもの使用人の服を着て待機していた。

「さぁ、朝ご飯を食べたら出発しますよ。」

「分かったよ。」

朝ご飯を食べ終えて諸々の準備も終わらせる。

「さぁ、行きましょうか。」

着替えや日用品が入ったリュックを背負う。そして街から出て人目につかなくなったところで風魔法で飛び上がる。

俺たちが黙って空を飛んでいるとパールが慌てて話しかけてくる。

(マスター、大変です。クレセリア皇国がマーテル公国に侵攻を始めました。これはついさっきのことです。)

(…フォーミリア王国が混乱し始めているから、横やりが入らないと踏んだのかな?)

(おそらくそうでしょう。)

(それで帝国の動きは?)

(まだ気づいていませんね。)

のろまが。情報をどれだけ早く握れるかが生き残るコツなんだぞ。

(そうか、でもどうしようもないな。マーテル公国はできるだけ粘ってほしいな。)

(だいぶ復興しましたから、かなり長期戦になるかもしれませんね。)

(トランテ王国はどうしてる?)

(現在はフォーミリア王国の情勢を注視していますね。)

(そうか、引き続き監視はしておけ。)

(了解です。)

クレセリア皇国が動いたか。おそらく帝国はマーテル公国の軍事支援に動くだろう、兵までは動かさないだろうが。問題はフォーミリア王国だな。俺のせいでいろいろ狂い始めたからな。

しばらく考えるがやはり、頭が働かない。

まぁ、今はいいか。一日でどうこうならないだろうし。

思考停止していると、メデラウよりも大きな都市が見えてきた。

「今回はちゃんと門から入りますから高度を落としますよ。」

門から離れたところに着地し、帝都へ向かって歩く。


門に到着し、衛兵に家紋の入った短剣と貴族証を見せる。

「歩いてこられたのですか?」

うっわ、突っ込まれてんじゃん。しかもちゃんとした質問だし。

ミリアを見ると固まっているので俺が答えることにする。

これは貸し一つだぞ。

「父上と喧嘩したんで放り出されたんですよ。ですが母上が見かねて腕が立つ使用人をつけてくれたんです。俺一人じゃ帝都に入れないだろうと言って。」

(すごいですね。マスター、将来は商人にでもなったらどうです?、絶対成功すると思いますよ。)

(ちょっと黙ってろ。)

「そ、そうだったのですか。」

するとミリアも再起動する。

「こちらがジン様の学生証です。」

「入ってもいいですか?」

一気に畳みかける。

「はい、それではどうぞ。楽しい学園生活を。」

帝都へ入っていく。

それにしても言葉遣いが丁寧な衛兵にしか会ってない気がするな。ちゃんと教育が行き届いてんのか?

「ジン様、助けていただきありがとうございました。」

「気にするなよ。馬車で来なかったのは俺にも責任があるし。」

「それにしても随分すらすら嘘をついていましたね。普段からつき慣れているのでしょうか?」

「いや?、単なる必死でごまかした結果だ。」

「そういうことにしておきましょう。」

しばらく歩くと、たくさんの貴族の子供が馬車から降りて大きな建物に入っていくのが見えた。

「ジン様、あそこです。」

「そうか、もう来なくていいぞ。迷子にもならないだろうし。」

「そうですか。ではこちらを。」

そういって学生証と剣を渡してくる。

「ありがとう。」

「いえ。ジン様、長い間ありがとうございました。どうか学園生活を楽しんできてください。」

「こちらこそありがとう。また卒業したら会おう。」

「はい。」

「その学生証をなくしたら駄目ですよ。お小遣いも振り込まれますから。」

「どこで引き出せばいいんだ?」

「サード商会で引き出せます。」

「分かった。」

「それではお元気で。」

「ああ、またな。」

なんかちょっと心にくるな。

おれは門をくぐる直前でちらっとミリアの方を見ると、ミリアが手を振ってきたので振り返す。

(とうとう来たか、この日が。)

(そうですね。)

(どうせなら楽しんでやるさ、この狭い箱庭で。)

(ご自由に。)

そういって、新たな一歩を踏み出すのだった。

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