第100話 巻き込み
百話ですね。まだまだ続きます。
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あれからしばらく温泉や景勝地を巡ったりしていると月日が過ぎ、学園まで残り2週間となった。
「…朝か。」
(はい。マスター、朗報ですよ。)
(なんだ?)
(声を出さないで意思疎通する機械を改良し終えました。少量の魔力でも可能になりましたから、自然に見えると思います。」
(そうか、それは助かるな、お前の存在がバレるのは困るからな。はぁ~、それにしてもそろそろ学園か。)
(そうですね。お疲れ様です。)
(それな。)
朝ご飯を食べに行く。
「おはようございます。」
「おはよう、ジン。ついにあと2週間で学園だね。5日後に帝都に向けて出発することに決めたよ。サラやマルスのときのようにミリアと二人で頼む。この時期はどうしてもいろいろやることが多くて。」
わかる、わかる、年末だもんな。追い込まれるよ、そりゃ。
それでもミリアと二人っきりって貧乏貴族の典型例じゃねぇか。金と人材の両方が不足してるんだろうな。うちの領ってしょぼいし。
「大丈夫です。ミリアがいてくれたら心強いです。」
これは本当にそうだ。十分俺の盾になってくれるだろう。頼もしいことだ。
だが、護衛もいないため、おそらくミリアと同室になってしまうだろう。だが、ちゃんと手は考えている。
「そう。あんまりミリアに迷惑かけちゃだめよ。」
それはてめぇだろ。アレナ、少しは自分のことを振り返ってみろよ。
「わかってます。」
その後もつまらない会話が続いていく。その間にパールと話す。
(ほんと、うざい奴らだよな。)
(マスター、あなたの親ですよ。)
(生みのな、育ての親とは一度も思ったことはねぇよ。まだミリアの方がそう思える。)
そもそもミリアの方が一緒にいる時間が長いと思う。
(そうですか。愛情を感じたことはないんですか?)
(ないな。煩わしいだけだ。)
(それが愛なんじゃないですか?)
仮にそうだったとしよう。だが俺が大人になっても、うざかったとしか思わないと思う。
…アレクたちには申し訳なく感じることもある。ただ血が繋がってるだけだと俺の方は思ってるわけだから。
それでも俺は俺、頑張って子供を演じてるだけ褒めてもらってもいいと思う。
というかそもそも子供の事情に気づけない方が悪いよな。うん、俺は悪くないわ。
(それより、あの入場リストに女商人サナ・シュミーというやつをいい感じに追加しておいてくれ。あと奪った招待状を参考にして、そいつの招待状も偽造しておいてくれ。)
(分かりました。)
(闇オークションっていつから開催されるんだったっけ?)
(招待状には夜の10時から深夜2時の間と記載されてます。始まるのは今日から6日後で、終わるのは年明けのようです。あと、場所は領館の地下ですね。)
(なるほどな。捜査が入ったら一発アウトのやつだな。)
(バレない自信があるんでしょう。財務大臣ですからね、かなりの権力を持ってると思われます。)
(権力かぁ、有事には役立たないやつだな。最後にものをいうのはやっぱり武力だからな。)
(それはそうですね。武力の保証があってこその権力ですから。)
(まぁ、そのお陰で闇オークションに参加できるからありがたいけどな。)
(はぁ~、やらかさないでくださいよ。)
(わあってるよ。)
でも真夜中だからな、深夜テンションになるかもしれない。
気をつけようがないよな。
そんなことを思いながら、朝ご飯を終える。
パールと戦場チェスをしたり、本を読んだり、温泉に行ったりしながらのんびりと時を過ごし、とうとう出発の日となった。
「大丈夫だと思うけど、気を付けてね。楽しんでくるのよ。」
楽しめるわけねぇだろ。
「はい、母上。ぼちぼち頑張ります。」
「はぁ~、この子ったら。ミリア、ジンを頼むわね。」
「はい。目を離しませんので安心してください。」
きっと文字通りの意味なんだろうな。
「ジン、マルスによろしく頼むよ。」
絶対嫌だね。地雷を自分で踏みに行くやつは居ないだろ?
「はい。」
そして馬車に乗り込む。ミリアが御者の役をこなすので室内は俺だけとなる。
(まさかの本当に二人きりなんですね。)
(貴族の見栄とか気にしなさすぎだよな。俺の方がなんか恥ずいわ。)
(でも気楽でいいじゃないですか。)
(それはそうなんだけどな。)
(ところでミリアはどうするんです?、たぶん同じ部屋ですよね?)
(問題ない。ミリアにも来てもらうから。)
(えっ、まさかあの女商人としてですか?、大丈夫でしょうか?)
(頑張って説得する。たぶん大丈夫だろ。)
(勝算が薄いような気がするのですが。)
(かもな。でもどうせバレる。それなら内側に引き込んだ方がいいだろ。)
(もうマスターに任せます。私の領分じゃないですから。)
(そうだな。戦場チェスでもやろうぜ。)
(いいですね。)
戦場チェスや読書で時間を潰していく。
「コンコン」
「ガチャ」
「失礼します。本日の宿に到着しました。」
「わかった。」
宿で食事をとり、部屋に戻る。
「ジン様、いつも通り部屋のお風呂でお願いします。」
「分かってるよ。」
我が家はあらかじめ予約を取らないので、護衛の関係でいつも部屋のお風呂に入るから何の問題もない。
お風呂に入り、寝る。
「おやすみ~」
「おやすみなさい。」
そして朝になり、諸々の準備を済ませてから出発する。
そろそろ日が暮れてきた。
(はぁ~、相変わらず、することないよな。サラやマルスは何してたんだろうな。)
(マルスは本でも読んでいたんでしょうけど、サラの場合は想像がつきませんよね。)
(ああ。大人しくできてたのかな?)
(できてないと思います。座って木剣でも振ってたんじゃないですか?)
(ありうるのが怖いな。)
そんな会話をしていると宿に到着し、諸々の事を済ませて部屋に籠る。
(正念場だな。)
(そうですね。頑張ってください。)
(指輪をくれ。頼んでたやつは仕込んであるんだろ?)
(はい。ですがそこまでバラすんですか?)
(ああ。)
でないと納得させられない。
「ミリア、話があるんだ。聞いてくれ。」
「なんですか?」
「ちょっと出かけたいところがあるんだ。」
「こんな時間にですか?」
「ああ。実は、俺はこっそり冒険者活動をしてたんだ。そのときに闇オークションの招待状を入手してさ、行ってみたいんだ。でもたぶん一人じゃ許してくれないだろ?、だから一緒に付いてきてほしいんだ。」
「…ちょっと待ってください。いろいろと突っ込みどころがあるのですけれど…。冒険者なんてやってたんですね。おかしいと思いました、長い時間中庭で遊んでいると思っていたので。」
だよな。さすがに5時間も外で遊ぶのはおかしいよな。
「そうか。で、来てくれるのか?」
「…闇オークションってなんですか?、まさか危ないことに首を突っ込んでるのではないですか。」
「違う。面白そうなイベントに首を突っ込んでるんだ。」
「はぁ~。…私が行かなくても行くんですよね?」
「勿論。こんな楽しそうな機会逃したら何のために生きてるのか分からなくなる。」
「分かりました。私も行きます。ですが準備は出来てるんですか?」
「ああ。」
そういってポケットから指輪を取り出す。魔力を流し込んで、中の物を外に出す。
「ドサドサッ」
「…なんですか?、これは。」
「それは仮面だ。入場するときに必要となる。あとこれはなくすなよ、招待状だからな。ミリアにはサナ・シュミーという女に扮してもらう。」
「手が込んでますね。それで、その指輪はなんですか?」
「遺跡で見つけたんだ。ところでミリアは空を飛べるか?」
「まったくサラっと流さないでほしいですね。遺跡にも行ったことがあるのですか、はぁ~。…空は飛べますよ、風魔法を使えますので。」
「ならいい。いくぞ、ついて来い。」
取り出したものをもう一度指輪にしまう。
そして部屋の窓から飛び出し、ミリアも出たところで、無属性のサイキックで窓を閉めて鍵を掛ける。
「まずはパーティ用の服を買いに行くぞ。安心しろ、始まるのは一時間半後だからな。余裕で間に合う。」
「はぁ~、思ってたよりとんでもないことに巻き込まれたのかもしれません。」
「ミリアが選択したことだ。受け入れろ。」
「それは分かってますけど。」
そんな会話をしながら、メデラウへと向かう。
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