第95話 変な依頼
次の日、
(今日はどうされるんです?)
(もちろん冒険者活動だ。もうできる期間は限られているからな、できるだけ楽しみたい。とりあえず、昼ご飯を食ってユーミリア公国に向かうぞ。)
(了解。)
(それにしてもまだBランクだからな。結局SS級にはなれなかったな。)
(成りたかったんですか?)
(まぁ、そうだな。ずっとSS級冒険者であり続けるのはごめんだが、一瞬くらい成ってみたい気持ちもあった。)
やっぱり、異世界で冒険者になったら、成りあがってみたい気持ちもある。
その後が超絶めんどくさいだけで。
(そうなんですね。今はSS級冒険者が実質5人ですから、新たなSS級冒険者の誕生は歓迎されるでしょう。)
(それで平穏な生活を失うと。馬鹿らしい。偶像として生きるつもりは毛頭ねぇよ。ほぼ、民の奴隷みたいなもんじゃないか。)
(ジェドも言ってましたが、大きな力には大きな責任が伴うと私も思います。)
(正直、俺も弱者の立場だったらそう思う。そんな危ない奴らは監視しとかないと何をしでかすかわからないからな。だが、今の俺は強者の立場、なら強者にとって都合の良い環境を選ぶのは当然。立場によって考え方も変わるもんだ。SS級冒険者の中には違う生き方をしてみたいと思っている奴もいるかもしれねぇし。残念だが世界はそれを許さないが。)
(…確かにそれはそうかもしれませんね。)
(それに結局、ジェドは俺に偉そうなことを言ってたが、負けて死んだからな。負け犬の言葉に価値はねぇよ。)
(そうでしょうか?)
(ああ、自分の信念を貫けず、砕け散ったってことだからな。しょせんそれまでだったってことだ。)
(私はそうは思えません…。)
(いつも言ってるだろ。これはただの俺の意見だし、正解なんてない、この手の問答は。価値観の問題だからな。)
(そうですか。)
(ああ、お前はまだ学習中なんだろ。なら世界にある考えに触れて自分の価値観を形作っていけばいいんだ。)
(はい、そうします。あと報告があります。)
(なんだ?)
(エナメル王国とフォーミリア王国が各国に圧力をかけ、ユーミリア公国への農作物の輸出を止めようとしています。その結果、各国が二国を敵に回すのを恐れ、輸出を停止しています。)
(かなり、ユーミリア公国は不味いんじゃないか?)
(不味いですね。しかも、今は季節が冬ですから餓死者も出るかもしれませんね。)
(ほんとに同情しかないわ。春になったら、ボロボロだろうな。その前に属国となるかもしれないな。)
(そうなれば、エネメル王国は南を気にしなくていいようになりますからね。国境を接するトランテ王国とも同盟を結んでますし、あとはクレセリア皇国とは外交を安定させれば内側に注力できますからね。)
(クレセリア皇国か、あそこは厄介だな。今はリュウに滅ぼされた土地を治めるのに力を入れてるんだろうが、それが終わればまた動き出すだろう。)
(難儀ですね。おそらくマーテル公国に攻め入るでしょうね。まだ復興は終わってませんから。)
(きちんと監視はしておいてくれ。)
(了解です。)
(そういや、エネメル王国とフォーミリア王国が手を組んで攻めてくるという噂はどうなったんだ。)
(ユーミリア公国の上層部は噂が広まっているのを知って、一応念のために国境付近の兵力を増強しています。あとは、諜報員も総動員して真偽を確かめているようです。)
(そうか、どちらにせよユーミリアは厳しいな、国力の差が大きいうえに食料も十分じゃない、破滅だな。)
(どんな結末にしろ、敗北は確定ですからね。)
(可哀相に。せめて粘ってほしいよな。帝国西部が復興するまでの時間は。)
(ドライですね、たぶんそれより早くに決着が着くでしょう。)
(そうか。でもそれならユーミリアに行くのはやめとくか、どこにしようかな?)
(そうですね。トランテ王国はどうです?、フォーミリア王国はマスターのせい経済混乱の可能性が高いですから。)
(そうだな、そうするか。)
トランテ王国の首都へ転移して向かう。
久しぶりに銀の仮面と、幻術で黒のコートを着ているように見せる。
(ではいくぞ。)
(了解。)
中に入っていくと、やはり初見だからかジロジロみられる。
(見られてますね。)
(ああ、珍しいんだろ。)
気にしている素振りを見せず、依頼が貼ってあるボードに向かう。
護衛、オーク狩り、ホワイトウルフ狩り、…。
色々見ていくが、特にしたいものがない。
(どれもしたことがあるやつだな。おもんねぇな。)
(では、やめますか?)
(う~ん、…ん?、何だこの依頼は?、剣で戦ってくれる人を求む。報酬、金貨2枚。不思議な依頼だな。パール、この依頼どう思う。)
(見たことがないですね。受けてみてはいかがですか?、報酬もいいですし。)
正直、受けるべきではないと思うが、他に面白い依頼がないため、受けることにする。
(そうだな、これにするわ。)
依頼をはがした瞬間、ざわめきが起こる。
「おい、マジか、あいつ、あの依頼を受けやがった。」
「嘘だろ、命知らずだな。」
やっぱり、不味いのか、この依頼は?
「あれって確かSランクに設定されてたけど、誰も来ないからだんだんランクが下げられてBランクになったやつだろ。」
そして俺が貧乏くじを引いてしまったと。最悪じゃねぇか。
でも今更戻せねぇし、くそっ、行くしかない。
(マスター、もしかして大変な依頼を選んじゃいました?)
(かもな、でも今更。変えられないからな。前進あるのみ。)
堂々と胸を張って受付へ持っていき、カードも渡す。
「こちらの依頼を受けたいのだが。」
「…はい、分かりました。では明日の午後3時にまたこちらへお越し下さい。依頼人の方に報告するので。」
なんか間があったぞ、そんなに意外だったのか?
「了解した。」
そのまま、ギルドの外に出る。
(マスター、変な依頼でしたね。)
(そうだな、まぁ、明日になればわかる。)
そんな会話をしながら帰るのだった。
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