第96話 依頼の中身

(はぁ~、もう一回トランテ王国に行かないといけないのか。だるいな。…ドタキャンしようかな?)

(さすがにそれをすれば、もう活動出来なくなりますよ。)

(わあってるよ。冗談だ、冗談。)

(マスターが言うと本気にしか聞こえないですからね。冗談になってないんですよ。)

それは心外だ。なんやかんや依頼をさぼったことはないぞ。

(でもどんなやつと戦うのかな?、あんな依頼を出しても誰も引き受けないってことは内容を知ってるんじゃないか?)

(そうかもしれませんね。誰かが受けてその内容が広がったのかもしれません。)

(もうこれを受けたら冒険者活動はやめようかな。他に面白い依頼はなさそうだし、金はもう十分持ってるし。)

(そうですか、それじゃあ、何をされるんですか。)

(温泉とかに行くのもいいかもな。もう季節は冬だし、絶対気持ちいいだろ。)

(モンスターがいるかもしれませんよ。)

(もうそればっかりは仕方ない。遭遇したらその時はその時だ。)

(そうですか。)

その後、朝の稽古をこなし、昼食も済ませる。

(まだ時間はあるからな、戦場チェスでもやろうぜ。)

(そんなに負けたいんですか?)

(はぁ、お前に勝ったことあるわ。)

(たったの一回だけじゃないですか。)

(勝ちは勝ちだろ。もう一回負かしてやるよ。)

(望むところです。)

…ズタボロに負けました。やっぱり人工知能に勝てるわけねぇよ。

しかもまだ学習中だろ。手に負えねぇ。

良い時間になったのでトランテ王国へ向かう。

(よし、行くか。)

(了解。)

無事に到着し、いつもの格好でギルドに入っていく。

「失礼、あのBランクの依頼を受けてここに来るように言われたものだが。」

「あっ、はい、冒険者カードをお願いします。」

「了解した。」

「…はい、確認ができました。ではこちらに依頼人の方をお呼びしますのでしばらくおまちください。」

(どんな人が来ると思う?)

(そうですね、武芸者の方じゃないですか?。磨き上げた技を人にぶつけてみたいのだと思います。)

命が賭かってないなら、確かに自分の力を試してみるというのはいいよな。

どこまでいけるのか気になるところではある。

そして待つこと数分、

「お待たせしました。こちらが依頼人の方です。」

「あなたが依頼を受けていただいた方ですか?」

…初めてこの世界でブスを見たかもしれない。なんか感動する。

「そうだ。」

「そうですか、申し訳ないのですが付いてきていただいてもよろしいですか。」

そりゃ、ギルド内では戦えないからな。

「もちろんだ。」

女性の後に続いていく。

(なんか、武芸者らしくないですね。)

(人は見た目じゃわからねぇからな。実はとても強いかもしれない。)

(本当にそう思ってます?)

(思ってるわけないだろ。絶対弱いだろ、こいつ。)

(ですよね。)

しばらく歩いていると、大きい屋敷に到着した。

女性が衛兵に、俺が門をくぐる許可を得て付いてくるように促す。

…なんで、こんなところに来るんだ?

もっと開けたところで戦わないか?、普通。

(おかしいですね。どうしてこんなところに来たんでしょう?)

(俺が知りてぇよ。やっぱり、面倒くさい依頼だったな。)

「では、屋敷に入りますので付いてくるようお願いします。」

「了解した。」

…おかしい、絶対おかしい。

しばらく、歩いているとある部屋の前で止まった。

「コンコン」

「旦那様、冒険者の方をお連れしました。」

「分かった、お通ししてくれ。」

「では、お入りください。」

行くしかない。一応逃げる準備だけはしておこう。

「ガチャ」

「よく来てくれた。」

そこにはスマートな体型で、青色の髪をした30代くらいの男性がいた。

「まぁ、ソファに座ってくれ。私の名前はゾル・フォン・ナーベル。君のことは調べてあるから自己紹介はいいよ。」

勝手に調べてんのか、ギルドから情報が流れたんだろうな。ふん、まあいい。

とりあえず座るか、まずは何が起きてるのか把握しないと。

「どうして、俺はここに連れてこられたんだ?」

「依頼の事だ。実は戦ってほしいのは私の次男の息子なんだ。あいつは才能がありすぎるせいで慢心している。だが、戦場に出ればそれは大きな欠点だ。いずれ足をすくわれ、取り返しがつかなくなるだろう。それを教えようと思ってBランク冒険者を以前雇ったのだが、逆にやられる始末。そして、息子はさらに調子に乗ってしまった。そこで、今度は負けることがないようにSランク以上にしたんだが、誰も集まらなくて仕方なくBランク以上にしたんだ。」

そもそもSランク以上に負けるのは当然だから慢心を諫めるのは難しいと思うんだが。

「以前にBランクの冒険者は負けたんだろ。俺でいいのか?」

「ハハ、むしろ望むところだよ。君はBランクまで早く上り詰めたが、ここしばらくは活動をしていないせいで死亡説まで流れ始めていた。だが、生きていたということは何らかの事情があったんだろ。詮索する気はないが、どうだ、息子を負かすことはできるか?」

「可能だ。だが俺の事をよく調べているな。」

「何、他国の事を調べていたらたまたま君の情報を入手しただけだよ。」

他国か、帝国の事だろどうせ。やっぱりトランテ王国は帝国を狙っているのか?

面倒だな、まぁ、今は依頼を先に片づけよう。

「そうか、それでいつ戦えばいい?」

「息子には今日の夕方に帰るように伝えている。君は大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。」

早く帰れば夜ご飯には間に合うだろ。

「そうか、では息子が帰ってきたら知らせるから、ゆっくりしててくれ。」

そういうと男は立ち上がり、扉の外へ出ていく。

(パール、ナーベル家の階級はなんだ?)

(公爵家です。高い方ですね。)

(なるほどな、そこの調子に乗ったお坊ちゃんか。それを負かせと、結構いい依頼だな。)

(性格が悪いですね。調子に乗って負けないでくださいよ。)

(それはもちろん。でもBランク冒険者を倒すのはすごいな。)

(まぁ、年齢によりますけどね。)

(あの感じじゃ、そんなに成長してなさそうだな。どちらにせよ、俺も自分の剣を確かめるいい機会だ。それに最後の依頼だからな、気合い入れてやるよ。)

(そうですか。)

その後も、パールと話していると

「コンコン」

「失礼いたします。グレン様がお帰りになられたので中庭の方までお越しください。」

「了解した。」

使用人に続いて中庭へと向かうのだった。




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