第76話 到着2

うーん、これは英雄譚というよりは誰かの日記ぽっいな。なんでこんなのが売られてたんだろ?

しかも、内容が信じたくないものだ。

それにこの本はとても分厚いため、読み切るのに時間がかかりそうだ。

帝都に行ったら本屋で作者不明の英雄譚を買うのもいいかもな。

その後も大して面白くない本を暇つぶしのために読む。

(帝都、やっぱり遠いよな。そりゃ、サラとマルスは一人で帰ってこれねぇよな。)

(そうですね、せめて成人するまでは、というところですね。)

(まぁ、学園に行っても家に帰らなくていいというのはありがたいな。)

(そう思っているのは今のうちだけかもしれませんけどね。家の方がましだと嘆いているマスターの様子が容易に想像できますよ。)

不吉なこと言うな、ポンコツ。

(勝手に想像すんのやめてくれない。明るい未来が待ってるかもしれないじゃないか。)

(本当にそう思ってるなら謝罪しましょう。それで、どう思ってるんですか?)

(…私が悪うございました。許してください。面倒くさい未来しか見えません。)

(まぁ、社会の荒波にもまれて生き抜いたら、一皮むけるんじゃないですか?)

(もういいよ、そういうのは。俺はありのままの自分が好きなんだよ。)

本の合間合間にパールと話す。

特に賊に遭遇することもなく、順調に進む。

時たま、モンスターに遭遇するが我が領の騎士に討伐されている。

そしてとうとう帝都に到着した。

(ああ~、無駄に長かった。魔法を使えばすぐなのにな。)

(この時代の魔法の基準が分からないので何とも言えませんね。)

(昔はどうだったんだ?)

(わかりません。ずっと引きこもってたので。)

(そうか、まぁ、大体予想はつくけどな。)

(本当ですか?)

(ああ、昔は魔法陣が発展してたんだろう?、それなら個人の魔法の力はあまり重視されてなかったはずだから、おそらくレベルは低いだろうな。それに特に魔法の才能がない奴なんかは魔法陣に力を入れる方が効率的だからな。)

(言われてみればそうですね。)

(たしか、学園でも魔法陣を学ぶ授業があるらしいな。俺は使ったことがないが。でも、来年には習うからな、そんなに気にするほどのものでもないか。)

(そうですよ。学園で学べばいいんです。勉強が生徒の本分ですから。)

この世界でもそういう考え方あるんだ。

忌々しい。

(それより、明日は本屋で作者不明の英雄譚を買いに行きたいな。何かほかに重要な情報があるかもしれない。)

(いいんですか、知ってしまって巻き込まれるという可能性もありますよ?)

(何も知らず、いつのまにか巻き込まれているよりはマシだ。少しでも知ってたら心の準備もできるだろ。)

(それはそうですね。忘れてるかもしれませんから思い出させて差し上げます。魔王はまだ生きてますからね。あの話が本当なら。)

(…すっかり忘れてたぜ。そういや居たな、そんなやつ。)

やばいな。銀の魔力があるってことは金の魔力があってもおかしくない。

いや、あると考えるのが無難だな。

…ということは、あの話も本当ということになる。

せめて俺が生きている間は復活しないでいただきたい。

(こればっかりは祈るしかないな、復活しないように。)

(大変ですね、マスター。)

(全くだ、俺はただダラダラ生きたいだけなのに。)

そんな会話をしていると宿に着いた。

「よしっ、到着だ。宿は前と同じだからね。これならジンも迷子になることはないだろ。」

「そうですね。それにしても予約してるんですか?」

「してないよ。今からするんだよ。」

それを聞いて思わず脱力してしまう。

「…大丈夫なんですか、それで?」

「大丈夫なんだよ、これが。サラも生まれていない昔に帝都のパーティに誘われたことがあってね、慌てて向かったもんだから宿の予約が取れてなかったんだ。だから、もしかしたら宿に泊まれないかもしれないと思っていたんだが、意外にも泊まることができてね。あとで分かったんだけど、宿には貴族が来るかもしれないと領主から連絡が届いてたみたいで、パーティがあるときには部屋が空いているんだよ。」

なるほどな、すばらしい権力の使い方だな。

「へ~、でも宿の予約はしておいた方がいいと思いますけど?」

「そうよね、私もアレクに言ってるけどすっかり忘れちゃうの。」

「いや~、ほかの業務が忙しくて忘れちゃうんだよね。」

両親は楽しく会話している。

(さすがに宿の予約をしないのは不味いだろ、一人旅ならまだしも仮にも貴族だぞ。)

(大胆なご両親ですね。)

(大胆すぎるわ。)

宿から使用人が戻ってきて宿が取れたとアレクに報告する。

「じゃあ、宿も取れたから中に入ろうか。」

俺たちは宿の中に入っていく。

そして夜ご飯を食べて明日に備えて眠るのであった。

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