第75話 出発

今日はとうとう帝都に出発する日となった。

「よし、忘れ物はないかな。」

「はい、大丈夫です、旦那様。昨日の時点で確認を済ませておりますから。」

「そうかい、ありがとう、ミリア。」

「さぁ、行きましょう。」

両親が浮かれているが、俺はそういう気分になれない。

「もうそんな顔しないの、ジン。そんなんじゃ友達ができないわよ。」

まだ言うか。もう俺の負けでいいや。

「いや~、少し緊張してしまって。」

「大丈夫だよ。まだ成人してないんだし、多少失敗しても多めに見てもらえるよ。」

本当だな?、なら失敗しても何も言うなよ。

「そうそう、だから積極的に話しかけないと。」

もう嫌だ、どんだけ友達作ってほしんだ?

自分が友達いないから代わりに子供たちが作ってるのを見て自己満足したいのか?、こいつは。

(マスター、昨日は楽しみすぎてなかなか寝付けてませんでしたね。)

(素晴らしい皮肉だな。んなわけねぇだろ。嫌で嫌でパーティの事を考えてたら眠れなかったんだよ。)

「ジン、それにしても目の下に隈ができてるわよ。緊張しすぎて眠れなかったの?」

「まぁ。そうですね。」

「大丈夫かい、馬車の中で少し眠るといい。ほら、揺れが気持ちいいだろ?」

「そうですね、そうします。」

両親と喋るのは苦痛だったのでありがたく目を瞑らせてもらう。

(帝都までどのくらいかかるかな?)

(そうですね、5日ぐらいで着くと思います。)

(そんなにかかるのか、地獄だな。)

(親子の絆を深めたらいいじゃないですか)

(お前、ほんといい性格してるよ。世界で一番性格の悪い人工知能確定だな。)

(それを言ったらマスターも世界で最も性格の悪い11歳ですよ。)

(お前よりはましだ。)

(それはどうでしょう?、おそらく人工知能は私だけなのでどの分野でも世界1位です。その点、11歳の子供はたくさんいます。その中の一番と私、どちらの性格の方が悪いでしょう?)

(そんなのお前に決まってる。比べるまでもない。)

(根拠を示してください。)

(俺がそう思った。それだけで十分だ。)

(そんなの全然証拠じゃありません。)

パールとの水かけ論が始まり、眠るどころではなかった。

「よし、じゃあ、今日はここで泊まろうか。」

「そうね、もうこの先には当分街がないものね。」

えっ、まさかまさかの計画を立ててないってことですか?

どこで泊まるかぐらいは決めとけよ。

(マスターに計画性がないのは遺伝だったんですね、納得です。)

(…確かにそうだな。)

もともとの性分なのだが、ここは乗っかろう。


そこから順調に進んでいくが、退屈だったのでマルスの部屋から持ってきた英雄譚でも読むことにする。

たぶんこれが前にマルスが帝都で買ってた英雄譚だと思うんだよな。

そのなかでも一冊だけ作者不明だったようだし。

読みたくないが一応読んでおこう。

(なぁ、パール、実は英雄譚って実話じゃないのか?)

(どうなんでしょうね、たしかにあのスライムの話は本当でしたからね。)

(実は誰かが真実を曲げていたりして?)

(誰かって誰です?)

(それは…)

ここで俺は思いつきたくもない答えが浮かんでしまった。

(影のモノとか?)

(…あり得ますね。)

(…あり得るな。)

(ですが、だとしたら何のためにしているのでしょう?)

(それは分からないが、たぶん人類が力をつけるのを嫌がってるんじゃないか?)

(厄介なことになりそうですね。)

(もう、人類対ほかの種族なんて戦いは嫌だぞ。ジェドが死んでSS級冒険者も5人になったし、俺も参加せざるを得ないかもしれないし。)

(ジェドはマスターが殺したんですけどね。まぁ、頑張ってくださいとしか言えませんね。私には攻撃手段がありませんから。)

(使えないな。)

俺はパールに悪態をつきながら、英雄譚を読んでいく。

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