第77話 散策2
「ふあ~」
(おはようございます。マスター。)
(ああ、おはよう。)
(今日は散策日和のいい天気ですよ。)
(そうか、楽しみだな。)
服を着替えていると、朝食に呼ばれたので食べに行く。
「おはよう、ジン。今日は帝都を散策するのかい?」
「はい、そうですね。」
「ちゃんとミリアと一緒に行くのよ。まあ、今回は二回目だから大丈夫だと思うけど。」
「はい、分かってますよ。それにおれはもう11歳ですからね、迷子になる年じゃありませんよ。」
「それにしても早いもんだね。君たちの成長した姿を見ていると年を取ったなと思うよ。」
「そうね、もうジンも学園に行く年齢だものね。」
その後も適当に会話を交わしていく。
部屋に戻り、散策へ行く準備をする。
(今日はどこを回っていくんですか?)
(そうだな、本屋と魔道具店かな。まぁ、前と同じところだな。ほかに回った方がいいところはあるか?)
(そうですね、仮面を買いに行くのはどうですか?、前と違う仮面ならまた冒険者活動ができるんじゃないですか?)
(それは考えたこともあったけどな、却下だ。)
幻術でギルドに行くという手もあったが、高位の冒険者にバレるんじゃないかと恐れて行けなかった。
そしてさらに、しばらく冒険者活動をしていないことで、銀仮面死亡説が市井にまことしやかに流れ始めた。
そしてSS級冒険者のうち一人が探しているという噂も。
おそらく、あいつだろうな。白髪の女。
(どうしてです?)
(銀仮面と連想されたらめんどいことになるだろ。)
(あくまでも想像にすぎません。)
(かもな、でもそれであの白髪女がやってきたら面倒なことになる。)
(やってきますかね?)
(あの性格じゃ、間違いなくやってくるだろうな。そのうち絶対絡まれる。)
(そうですか、では武器屋とかどうです?)
(それはいいな。すばらしい武器を見てみたい。)
武器屋も回ることを決意し、外で待っているミリアと合流する。
「お待たせ、ミリア。」
「いいえ、それでジン様、どこに行かれますか?」
「前と同じの本屋と魔道具店と武器屋に行ってみたい。」
「…武器屋ですか。」
「うん、だめかな。」
断らないでくれ、頼む。
「わかりました。では、まずは本屋からということで。」
「うん。」
しばらく歩いて帝都の街並みを眺める。
「あんまり、この辺は変わってないね。」
「そうですね。まだ3年ぐらいしかたってませんからね。」
おおう、アレクたちとは反対の意見の人がいましたよ。
しばらく歩いていると、本屋に着いた。
中に入って本を探す。
「どのような本をお探しですか?」
綺麗というよりかわいい系の店員さんが話しかけてきた。
「え~と、作者不明の昔話的な英雄譚ですかね。」
「すごいマニアックですね。それでしたら、えーと。」
(探してくれるなんて優しいですね。)
(前にも言ったと思うが、これが彼女の仕事だ。勘違いするな。)
(そうですか?、別にやらなくてもいいことなんじゃないですか?)
(馬鹿だな、あらかじめマニュアルで決まってんだよ。こういう時はこう、みたいなさ。)
(はあ~、素直に感謝すればいいじゃないですか。)
(気持ちのこもってない感謝なら楽勝でできるぞ。)
(まったく、改善の余地なしですね。)
(なるほどな、つまり俺は完成された存在ということだ。)
(もうそれでいいです。)
よっしゃ、今回は俺の勝ちだ。
最近、負けっぱなしだからな。ここらへんでいっぱい食わしとかないと。
そんなことを思っていると店員さんが本を渡して来てくれた。
「この1冊だけですね。」
「そうですか、ありがとうございます。」
ゲェー、あんのか。
全然なくてよかったのに。最悪じゃねぇか。
「ええと、タイトルは、失われた秘宝。」
(マスター、ありましたね。)
(ああそうだな、まだこれはマシだな、タイトルが。別になくてもよかったんだけどな、俺にとったら悲報だよ。)
(……………)
(頼むからなんか反応してくれ、無視が一番つらい。)
その後、この本を銀貨2枚で買った。
「では次は魔道具店ですね。」
「うん。」
しばらく歩いて到着した。
中に入っていくと、目新しいものはなかった。
あたりを見渡すと一人の茶髪の少女がいた。
おぉ、可愛いな。年齢は俺と同じくらいか?、ん?、あの周りにいるのは護衛かな。
もしかして貴族とか?
さりげなく距離を取ろうとするが、女の子に見つかってしまった。
「あれ、君はエルバドス家の子?」
うわー、バレてる。有名人はつらい。
「そうですね。」
腫物の家の子に普通しゃべりかけるか!?
マジでやめよう。その方がウィンウィンだろ。
「私の名前は、マリーナ・フォン・アスベル。マリーでいいよ。」
フランクすぎんだろ。本当に貴族の子なのか?
(パール、アスベル家の階級はなんだ?)
(侯爵家ですね。)
お、終わった。何か無礼があれば一家の首が飛ぶぞ、宙に。
ああもう、なんでこんなところにいるかな。
バカじゃねぇの。
「そうですか、私の名前はジン・フォン・エルバドスと申します。以後お見知りおきを。」
俺はそこで華麗に一礼してみせる。
「ここは公式の場じゃないからね、そんなかしこまらなくていいよ。」
無理に決まってんだろ、馬鹿かこいつは?
セラといい勝負だぞ。
「そういうふうには「ほら、私も素で喋ってるんだからジンも素で話してよ。」」
ちらりとミリアの顔を見ると頷いたので、素で話すことにする。
「それで、マリー、どうして俺の事を知ってるんだ?」
俺がそういうと、マリーは驚いた顔でこっちを見てきた。
何にも変なことは言ってないよな?
「ええと、ほらジンは覚えてないかもしれないけどさ、8歳の時にパーティで会ってるんだよねぇ。」
「へ~。」
「えっ、それだけ?、ほかに感想はないの?」
「ない。」
俺はばっさり切り捨てる。
「はぁ~。今回は帝都のパーティに出席するつもりで来たんだけどそっちはどうなの?」
「同じくだな。」
余計なことは話さないでおこう。
(マスター、友達を作るチャンスですよ。ほら、話しかけて。)
(男じゃないぞ。)
(それでもセラ様以外に友達を作るチャンスです。ガンガン行ってください。)
(お前、この状況を楽しんでるだろ。)
(まっさかー、そんなわけありませんよ。すべてはマスターの学園生活のために応援しているだけです。)
このやろう、俺をいたぶって楽しんでやがる。
絶対、痛い目を見せてやる。
「そっか、ならよろしく。ジンって結構面白そうだし。」
この子、めちゃくちゃぶちまけるな。
「そんなことはないだろ。」
「いや~、そんなことはあるね。普通、素で話してっていっても話さないよ。それにジン、マリーの家の階級も大体察しはつくでしょ?」
「…ああ、上級階級だろ。」
「やっぱり分かった? それでも素で話せるなんて凄いな~、マリーは絶対無理だよ。」
…もしかして不味かった?、いや問題ないはずだ、本人がいいよって言ったんだから。
「…そうか、まぁ、学園ではよろしくな。」
「こちらこそよろしく。それでジンはここに来てどうしたの?」
「いや、目新しいものがないか探しに来たんだ。」
「そうなんだ。ねぇ、昼ごはんまだなら一緒に食べない?」
「まぁ、別にいいけど。」
「ふふ。」
「どうしかしたか?」
「いや、敬語を使われないのがなれなくて。」
「なるほどな。マリーナ嬢、お昼を共にしたいのですが、よろしいでしょうか。」
「うっわー、寒気がする。普通がいいかなぁ。」
「それは残念だな。」
こいつ、なかなかいいな。あまり気を遣わないで済む。
セラの場合はアレナのせいで、気を遣うからな。
そしてしばらくマリーと魔道具を見ていくが目ぼしいものはない。
すると前に接客してくれた強面の店員がいたので話しかける。
「ひさしぶりだね、なんかおすすめない?」
「そ、その、こちらなんかどうでございましょう。」
うん?、あぁ、さっきのやり取りで貴族だと分かったのか。
「悪いな、いつもの話し方で頼む。不敬罪とかで俺は罰したりしないから。いいよね、ミリア。」
「そうですね、今はお忍び中ですから逆に普段通りの接客が好ましいです。」
ミリアは俺の意図を汲んでくれた。いや、本音かもしれないが。
どちらにせよ、ナイスだ。
「マリーにも、ふつうでお願い。あんまりバレたくないから。」
「本当によろしいので?」
俺たちが頷くと、肩の力を抜いて話し出す。
「坊ちゃん、貴族だったんだな。」
「黙っててごめんね、お忍びで回りたかったから。」
「いや、別に構わん。」
「それでおすすめのやつはどれ?」
「これだ、最近入荷したんだがな、また使い道が分からないんだ。」
「これは腕輪か?」
「ああ、おそらくそうなんだが、効果がわからなくてな。」
「じゃあ、これ買うよ、いくら。」
「えっ、買うの?」
「ああ、面白そうじゃないか。」
「ほんとに変わってるんだね~。」
失礼な。大人びてるだけだ。
「金貨3枚でどうだ。」
「高いな、銀貨9枚だ。」
「おいおい、そりゃあ、ないぜ。そいつは金貨一枚で購入したんだからな。銀貨9枚じゃ、銀貨1枚損じゃないか。」
「なら、金貨一枚と銀貨5枚でどうだ?」
「金貨2枚以上じゃないと無理だ。」
「なら。金貨1枚と銀貨8枚ならどうだ?」
{駄目だ。」
「なら、金貨1枚と銀貨9枚と銅貨5枚だ。これ以上は出せん。こちらにも予算の都合というものがあってな。それにどうせ効果も分からないんじゃ、誰も買わねぇよ、俺以外。」
「くっ、わかった。交渉成立だ。」
まあまあ、値切れたな。
金貨1枚はお小遣いが増えたとはいえ、俺にとっては無視できない金額だ。
冒険者時代の金はあるが、あれはまだ使えないからな。
「ジン、やるね~。マリーもやってみたい。」
「お嬢ちゃん勘弁してくれ。」
その後マリーも値切り交渉をして、見事おっさんは搾り取られていた。
俺よりえぐいな。
「まだいけるよ。まだいけるよ。」で粘るもんな。
質が悪すぎんだろ。
「よし、昼ごはんに行くか。」
「そうだね。」
俺たちは昼食を食べる店を探すのだった。
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