第44話 だまし討ち

くそう、どうしてこう厄介事に巻き込まれるんだ。

「おい、俺に何か用か?」

[おぬしの近くから懐かしい匂いがして気になってな。どうして我が友の匂いがするのだ?]

友?俺は他に龍なんて会ったことないぞ。

「何の話をしているのかわからないんだが?」

[竜に会ったことはないか?儂のような姿ではない方だ。]

……最悪だ。あいつのことだろ。でもどうして匂いがするんだ。

ちゃんと風呂に入ってるぞ。ま、まさか、

(パールゥゥゥ、お前のせいか。どうしてくれるんだ。)

(し、仕方ないじゃないですか。私はお風呂とか入らないんですから。)

(開き直んな、ポンコツ。もうこいつと良好な関係は構築できないぞ。こいつの友を殺して食べちゃったんだからな。)

(マスターが意地汚いのが悪いんじゃないですか。)

(なんだと、だいたい)

[なんか答えたらどうだ、人間よ。]

すっかりこいつの存在忘れてたぜ。

「ああ〜、思い出した。たしかに会ったことがある。」

[そうか、それでまさか我が友を殺したとは言わぬだろうな。]

龍の圧力が高まる。

ああもう、人生最大のピンチだ。なんて答えるのが正解なんだ。

「いや、少し話したんだ、約定のことについてな。」

[…ほう、まだ覚えてる人間がいたのか。]

「そうだ、俺としては何とか約定を守ろうとしてるんだが、如何せん、人間の間じゃ力がなくてな。そのことを相談しに行ったんだ。そうだ、ついでにあんたとも意見交換したいな。あんたは約定の内容についてどう思う。」

(…よくそこまで、出まかせ言えますね。)

(黙れ、遅延型地雷。)

(なっ。)

[あれは人間の大国の王が人間の代表として約束したものだ。守るのは当然だ。]

「そうだな。なぁ、もしかしたら俺が勘違いしていることもあるかもしれないからさ、当時のことについて話してくれないか?」

[ああ、いいだろう。]

よし、とりあえず橋は渡り切った。あとは内容を聞いてどうにかするしかないか。

[およそ、500年前、変異型のスライムが現れ、大陸は火の海に包まれた。そこで、人間の王が様々な種族に協力して対処することを提案した。だが、当時人間は大陸で勢力を拡大しており、素直に応じるわけにはいかなかった。人間は狡猾だ、使い捨てられる危険がある。そこで、人間の王は我々に対してお互いの住む領域を決め、侵入しないことを提案し、我々は合意したのだ。そして、我ら、竜と龍、そしてエルフはありったけの精神力を全生物から集め、これが良くなかったのだが、我々自身も可能な限り精神力を振り絞り聖剣を作り上げた。無事、スライムを倒し終わったあとは弱まった我々に人間は攻撃を加えて住処を奪い去ったのだ。人間の王はやめさせようとしたがすでにそんな力はもう持ってなかった。スライムのせいで国が荒廃していたからな。エルフのように我々も最小限の力を残しておくべきだったのだ。だから今でもエルフの国がある。しかし、我々もただ黙っているわけにはいかず、最も危険な聖剣を隠すことにした。聖剣は使い手を選ぶが、念には念を入れたのだ。そして、我々は各地に安全な場所求めて飛び去り、そこで精神力を振り絞った反動で眠りにつき、今、続々と目を覚まし始めているのだ。あと数年もすれば全ての龍と竜が目覚めるだろう。そうなればおそらく大陸の覇権をかけた争いになるかもしれん。我としては人間と戦いたくない。SS冒険者が相手となればこちらもかなりの被害が出るからな。どうにか約定を守ってほしい。]

……………悪夢なら覚めてくれ。処理できない。

……………それにしてもあの英雄譚は本当だったのか。そんな気はしてたけども。

……………さあ、どうするか。まず、約定を守るのは現実的に考えて不可能だ。俺には権力がないし、たとえあったところでどうにかできるとも思えない。

そして、いろいろ無視できないけれども最後にとんでもない情報があった。

龍・竜が目覚め始めているだと、これがすべて敵に回ったら人間は間違いなく滅ぶだろうな。下手すると他の大陸の人間も滅ぼされるかもしれない。そうなれば楽しい人生を送れなくなるし、時間が経てば経つほど人類に不利だ。叩くなら今だ。

…退路はなし。目覚めて力が足りてないところを攻めるしかないな。

下手するとエルフやドワーフも敵に回るかもしれない。

もうちょっと眠っててくれればよかったのにな。

[どうした?]

「わかったよ。貴重な情報を教えてくれてありがとう。」

俺は水龍に笑顔を向け、戦うことを決意する。

(どうするんですか、マスター?)

(殲滅戦の始まりだ。滅ぼすか、滅びるか、決着がつくまでは終わらない。)

(戦うんですか!!)

(ああ、これはもう種族間の争いだ。これに勝ったものが次の時代の覇権を握る。)

(どう考えても人間が悪いと思うんですが?)

(俺もそう思う、それでももう話し合う期間はすぎた。なぜなら、人間で約定のことを覚えている奴はおそらくいないだろうからな。そして、リュウたちも俺たち人間を許さない。それなら、力の弱まっている寝起きを狙うべきだ。とりあえず、こいつは排除する。あたりに人気もないしな。)

(…そうですか。)

[なぜ黙っておるのだ?]

「いや、悪い。どうやって約定を守ろうか考えててな。そうだ、誠意の証として俺の顔を見せよう。」

そういって、自然に仮面を外し、幻術も解く。

[おぬし、まだ子供だったのか。]

「ああ」

俺は予備動作なしに奴の後ろに転移し、巨大な氷剣を2本作り出し、ぶっ放す。




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