第39話 約定
ちっ、前の時より威力が上がっている。だいぶ仕上げてんな。
「ゴゴゴゴゴゴゴー」
地面が揺れている。
なんて威力だ、まさに天災だな。
俺はシールドが削られていくたびに補強する。
(大丈夫ですか、マスター。)
(ああ、問題ない。しかし長いな。一気にこのブレスで決めるつもりか?)
(それはわかりませんが、おそらく前回の傷は治ってると考えた方がいいでしょうね。)
(はぁ、どうするかな。転移で逃げるってのもありだな。)
(逃げるんですか。)
(魅力的な選択肢ではある。あのブレスでおそらく俺以外の冒険者は死んだはずだ。それに、かろうじて助かった風を装えば大丈夫なはずだ。)
(それもそうですけどね。忘れてませんか、ここはマスターの住んでいる所の隣の領地です。このままいけば、おそらくあの古竜はやってきますよ。)
(…ちくしょう、なんでこんな厄介ごとが舞い込んでくるんだ。)
(日頃の行いのせいじゃないですか?)
(んなわけないだろ。ちょっとお痛してるだけだろ。)
(普通の感性だったら、ちょっとではないですよ。)
(そうかい、見解の相違というやつだな。)
(はあ〜)
(知ってるか、ため息をつくと幸せが逃げていくんだ。)
(非科学的ですね。)
そんな会話をしていると、ブレスが止んだ。
あたりを見渡すと、周りのモンスターや冒険者の姿が消え、土が溶けていた。
「ひゅう〜、きれいになったな。まあ、やれるだけやってみるか。」
「武運を祈ってますよ。」
「なんだ、お前も戦わないのか?主人が戦うんだぞ。」
「マスターなら大丈夫ですよ。だって勝てないなら今頃全力で逃げだしてるでしょ。」
いや、そうなんだけどさ。そうじゃないんだよな。
主人と戦うことに意味があるっていうか。やっぱり、ぽんこつだな。
俺は宙に浮きあがり、予備動作なしで古竜の背後に転移する。
まずは小手調べだ。
「氷矢」
俺は一発一発にかなりの魔力を込め、10本の氷矢を展開して風魔法で打ち出す。
「おいおい、まじかよ、少し傷がついただけだと。ふざけた体してんな。」
援軍が来る前に片づける必要があるが、こいつは結構手ごわいかもしれない。
[主は不思議な魔法を使うな。]
「ッッッ、お前言葉がわかるのか。」
[然り]
「どうしてこんなことをしたんだ。前に人間に傷つけられたのが許せなかったのか?」
[それもある。卑小な人間程度に傷をつけられるとはあってはならんことだ。だが一番気に入らんのは、弱い人間が世界の覇権を握っていることだ。約定を破りおって忌々しい。]
「約定とはなんだ?」
[クッ、ハハハハハ、もはや約定すら伝わっていないか。やはり人間を信じるべきではなかった。]
古竜は突然笑い出したかと思ったら、急に低い声で反省し始めた。
おいおい、昔の人、後世に火種残したらダメだろ。
おかげで俺がこんな目にあっている。
「何のことを言っているがわからないが、人間の代表として竜の復権を許すわけにはいかないな。俺のために死ね。」
そういって俺は再び攻撃を仕掛けるのだった。
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