第38話 モンスタースタンピード
俺は街の西側へ急いで向かう。
視力を強化すると、街から5キロメートルほど離れた見晴らしの良いところで200人くらいの冒険者たちが集まっていた。
急いで駆けつけると、
「おっ、あんたが噂の銀仮面かい?」
そういって一人の女冒険者が近づいてきた。
「さあな、俺の名前はゼロだからな。銀仮面ではない。」
「ふん、そんなのはどうでもいいんだよ。それで今は作戦を決めているところなんだ。」
どうでもいいだと、そっちが聞いてきたんだろうが。
腹の立つやつだ。
「それでどういう作戦なんだ?」
「モンスターが来たらまずは、遠距離攻撃を仕掛け、近づいてきたらそれぞれが倒すってかんじだね。」
それは作戦と呼べるのか?
子供でも思いつくぞ。まぁ、俺からは提案しないんだが。
変に目立つのはごめんだ。
「了解した。俺も遠距離の方に加わろう。」
そういって遠距離組に混ざり、笏も用意する。
(マスター、この人数で防げるんですかね。)
(無理に決まってんだろ。古竜がいる時点で負けは確定。どうやって被害を減らすかを考えた方がいい。)
(マスターが本気を出しても倒せるかわかりませんからね。)
(ああ、特にブレスがやばい。だからこんなに街から離れてんだろ。今頃、領民は避難しているだろうよ。)
パールとそんな会話を交わしていると、遠くから地響きがしてきた。
「見えたぞ。魔法の準備を始めろ。もう少し引き付けてから放つぞ。」
俺たちはリーダーの指示に従い、魔法を撃つ用意を始める。
「今だ、撃て」
その言葉とともに様々な魔法が放たれていく。
次々にモンスターに着弾しているが、止まる気配はない。むしろ、速度が速まっている気すらする。
俺たちは、モンスターに飲み込まれ、乱戦状態になった。
俺は身体強化を発動させ、笏に魔力を流して剣とすることで戦うことにしたが、本物の剣を買っておけばよかったと後悔する。
俺は次から次へやってくるモンスターを一撃で倒すが、多くてきりがない。
(パール、戦況はどうだ?)
(芳しくありませんね。負傷者が出てき始めてますし、冒険者を突破するモンスターもいます。)
(そればっかりはしょうがない、まあ街にも領主の騎士がいるだろうからな。大丈夫だろう。それで古竜の姿は見えるか?)
(確認できました。一キロメートル前方でこちらの様子をうかがってますね。)
(ならこのスタンピードを引き起こしたのはあいつなのか?)
(その可能性は極めて高いです。モンスターは力のあるものに従う傾向が高いですから。)
古竜、そこまで俺たち人間が気にいらないのか。
困ったもんだ。
そんなことを思っていると戦況が変わり始めた。魔導士の魔力が切れ始めたのだ。
くっ、三十分は経つからな。全力で魔力を使い続ければ当然枯渇する。
(パール、どうすればいいと思う?)
(マスターが魔法を使えばすぐに戦況はひっくり返るでしょう。)
やはりそれしかないか、でも俺は使う気はない。
自分の命が危険にさらされない限り。
戦っているうちに次々と魔導士の冒険者たちが倒れ始め、しだいに剣士の冒険者もやられていく。
(…マスター、魔法は使わないんですか?)
(使う気はない。)
(でもこのままじゃ負けますよ、それも悲惨な形で。)
(悲しいことだ。だがそれだけだ、この大陸じゃ珍しくもない。)
実際この大陸では年に2回ほどスタンピードは起きており、珍しくない。
(でも、マスターが本気を出せば助かる人も増えるかもしれませんよ。)
(ああ、間違いなく増えるだろうな。でもそれで俺が不幸になったら本末転倒だ。それにこうやって戦ってるだけましだろ。実際、逃げたやつもいるだろうし。)
俺だってこんな力を持っていなかったらすぐに逃げ出している。それは当然だ。
命は惜しい。
(…それがマスターの選択ですか。)
(そうだ、いっそ俺以外の奴らが死んだら使うかもしれないがなかなか強そうなやつもいたからな。そんな展開にはならんだろ。)
(…!!マスター、古竜が動き始めました。ブレスを放とうとしています。すぐに防御を。)
俺はとっさに球状のシールドを重ね掛けして身を守る。
次の瞬間、視界が紅く染まった。
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