第2話 アン先生

 お話があって半月後、私は「アン先生」として最初の授業を行った。


 場所は王都の下町の会所。町内自治組織の寄り合いなどに使う大きな部屋だ。まぁ、私の昔のお部屋よりも狭いんだけどね。そこにテーブルと椅子を並べる。初日のその日は二十二人の人が集まっていた。全員男性だ。ただし、歳はバラバラだった。


 私は当初、学校というくらいだから子供が多いのかと思っていたのだが、子供も確かに十人いるが他は大人だった。十代後半から四十代まで幅広い。後で聞いたところによると、子供は大き目の商家の跡継ぎ達。大人は大体商店の店主が多かった。


 修行して独立した途端、仕入れの交渉契約や在庫の管理などで文字の読み書きの必要性を思い知ったのだそうで、そういう大人の方の方が状況が切実なので非常にまじめに取り組んでくれた。子供は。ダメだね。どうしても集中出来無くて遊び始めてしまう。私は子供には何か工夫をしないとダメだなと思い知った。


 教えるのは基本文字を大文字小文字で二種類。それを見本に私が木の板に書いたものを渡して、砂を入れたお盆に木の枝で書いてもらう。それが出来るようになったら簡単な単語から覚えてもらおうと思っていた。さっきも言った通り、大人の人は真剣に砂に文字を書き続けていたが、子供は直ぐに飽きて砂にお絵描きしたり砂で山を造ったり、果ては隣の子供に砂を投げ付けて泣かせたりした。私は唖然としたが、直ぐに近くの大人の方が子供に拳骨をくれて大人しくさせてくれた。・・・凄い世界だ。貴族のお嬢様育ちの私には何もかもが凄まじい。


 大人の方は意欲はあるのだが、やはりなかなか覚えられないらしく、ある程度練習してから見本を回収してテストしてみたのだが、一人として書けるようになっている人はいなかった。これは時間が掛かりそうだ。


 初日を終えて大人たちは疲れ果て、子供たちは泣き喚くという状況に、呆然としながらも私は次回からの改善を誓ったのだった。


 私がまずやったのは大人たちへの対策だった。私は考え、すぐに結論を出した。


 はっきり言うがあの調子では、大人たちは仕事も忙しいだろうし、頻繁に来ることが出来ないだろう学校で習うだけでは、基本文字さえとてもでは無いが覚えられないだろう。しかも基本文字だけ覚えても仕事の役には立たないのだ。単語を覚えるまでに何年掛かるか分からない。


 私は基本文字の見本と、簡単な単語の見本を木の板に書いた。それを複数枚。余裕をもって二十枚書いた。それを三日後に開かれた第二回学校に持って行ったのだ。今回は子供三人。大人が十人だった。かなり減ってしまった。一回で難しくて諦めてしまった人がいたのだろう。ただ、全員前回も出席した人ばかりだ。私は見本を大人の人に配った。


「基本文字はおいおい覚えれば良いですよ。大事なのは単語ですし、仕事に使える事でしょう?」


 そして私は書いてある単語が何を意味するのかを教えた。


「良いですか?上から『こんにちわ』『いい天気』『街』『人』『道路』です。この見本は差し上げますからその文字列がそういう意味だという事を意識しながら見て覚えて下さいね」


 大人たちは驚いたようだ。更に私は言った。


「希望があれば仕事で良く使う単語を書いて差し上げますので、言って下さい」


 つまり私は彼らに短期間で覚えてもらう事を諦めたのだ。彼らは別に読み書きを完璧に覚える必要など無い。必要分だけ見本に書き、必要に応じてそれを写せば事が足りる。読む時も見本と比較すれば良い。そうやって何度も書いたり読んだりすれば自然に覚えるだろうという寸法だ。


 大人たちは私に仕事で使う単語を次々と上げてくれたので、私はそれを見本の木の板に書いて上げた。真っ先に書いて欲しがったのは自分の名前。サインするには絶対に必要だからだ。後は数字。そうか、在庫管理のためなら基本文字なんかよりも必要だったね。後は『契約書』『女神の恩寵により』『以下の通り定める』『嘘偽りなく』などの契約書の定型文に使う単語。商品の名前、街の通りの名前、つまり住所などが多かった。


 流石に物凄い数の単語を書いたので大変だったが、大人の人たちは大変喜んでいた。これを見ながら各自練習するなり辞書みたいに使うなりして、もっと単語が知りたければまた来てくれれば書いてあげると言っておいた。実際この後も、学校の日の度に単語を書いて欲しいという人たちが押し寄せて来てしばらくは大変だったものである。ただ、単語を書いてあげるのは有料だ。お仕事だ。無料で書いてあげても良かったのだが、お金を取らないと代書屋から苦情がきてしまうらしい。


 これをやった結果、大人は学校に殆ど来なくなった。何人かは何とか覚えたいと頑張ったが、やはり難しかったようで最終的には学校から大人は居なくなったのである。


 さて、後は子供だ。子供たちは勉強させようとしたってしない事は私にも良く分かっている。私だって好きで勉強をしていたのではなく、おっかない家庭教師に見張られていたから仕方なくしたのだ。この子たちを鞭で叩いたりこの間のように拳骨で殴りつけるなど私にはとても無理だ。ならば方法を何とか考えるしかない。


 私は小さめの木の板を複数用意し、表に絵を描き、裏にその絵の単語を書いた。最初は二十種類揃えた。次の授業で私はそれを持って行った。この日の子供は三人。まず絵の描いてある面を表にして並べる。子供たちは興味を持ってくれた。


「なんだいこれ!」


「ふふふ、何でしょう。これ、何が描いてあるか分かる?私が描いたんだけど」


「え?これ先生が描いたの?上手いじゃん!」


「ありがとう。じゃあ、何が描いてあるか分かるわね?みんなこれは何?」


「犬!」


「じゃあ、これは?」


「豚!」


 という様にして二十種類全ての絵の内容を答えさせる。


「良く出来ました。じゃあ、この豚は、文字にするとこうなります」


 板をひっくり返して『豚』という単語を書いた面を見せる。


「いい、これを読みますよ『豚』」


「豚・・・?」


 私はまた絵の面にひっくり返した。


「豚ね」


 それを何度か繰り返し、他の絵でもやって見せる。子供たちは腑に落ちないというか、なんだこれ?という顔をしている。私はそこで言った。


「これはね、みんなにゲームをしてもらうために造ったのよ」


「ゲーム?」


 私の言葉に子供たちの顔が輝いた。ゲームなら遊びだ。遊びなら任せとけ!という表情だ。しめしめ。狙い通り、後は楽しんでくれるかどうか。


「まず、自分の板を五枚選びます。そして二人で向かい合います。それから文字が描いてある面を見せ合うの。そして、その単語を見て裏の絵を当てるのよ。それで当てた方が多い方が勝ち。一番勝てた人にはご褒美を上げましょう」


 私がポケットからさっき買ってきたリンゴを出すと子供たちは歓声を上げた。


「じゃあ、最初の一時間は準備タイム。みんなで絵と文字を見て覚えてね。それから勝負タイムにします。板に傷を付けたりのずるはダメよ」


 そういうと子供たちは板を睨むように見たり、何度もひっくり返してみたりして、真剣に取り組み始めた。子供の遊びに対する真剣さは大人には想像も出来ないレベルである。とりあえず私はずるをしないように見ているだけだ。


 そして勝負タイムを始めると、驚くことにかなりの回数の正答が出た。びっくりだ。そして学校の時間が終わるまで繰り返し対決を行った結果、なんと三人全員が二十個の単語を覚えてしまった。子供って凄いわね。勿論、明日には忘れているかも知れないし、読むだけで書けはしないけど。それでも私はこのやり方に自信を持った。これはいける。


 私はこういう遊びを幾つか考案した。文字と絵を分離して絵を見せて字の板を見つける遊び。大きな板を壁に貼り、そこに炭で絵を段々と書いて行き、分かった段階でそれを示す単語が描いてある板を取る遊び。基本文字を書いた小さな板を渡し、それを並べ替えて単語にする遊びなどなど。


 考えるのは大変だったが、子供たちは楽しんでくれて、その結果驚くほどのスピードで文字も単語も覚えてしまった。子供の吸収力って恐ろしいわ。最終的には私が描いた絵を見せれば単語が書けるようになり、単語を並べて文章が作れるようになっていた。そこまで直ぐに行った子供は最初から来ていた三人だったが、その様子を見て驚愕した親御さんが他の家にも連絡したらしく、他の家の子供達が我も我もとやって来て、私の学校は毎回二十人くらいの子供で溢れるようになったのだった。


 その頃には私はすっかり王都の下町では「アン先生」で通る様になっていた。街を歩けば「アン先生」と声が掛かる。「アン先生持ってきな!」と色んな人がおすそ分けをくれる。そして子供たちは私を見つければ飛んで来て「アン先生!」と抱き着いて来るようになった。それというのは元々は学校に来るのは商家の跡継ぎなど少しお金のある家の子供が多かったのだが、少しでも多くの子供達に教えたかった私は授業料を下げて、お金の無い家の子供でも学び易くしたのだ。それで下町のかなりの範囲の子供が学校に来るようになったので、下町の子供はあらかた私の生徒になったのだった。


 私は大満足だ。すっかり自分が下町に受け入れられた事が嬉しかったし、学校で稼いだお金をセレスとボックルに渡して家計に役立てるようになったし、子供たちはたまに大変だが概ね可愛いし、何より子供たちの成長を感じられるのは物凄くやりがいを感じられたのだ。貴族時代には感じた事のない種類の充足感だ。他人の役に立てる喜び。自分がそんな存在になれるなんて貴族時代は考えた事も無かった。私は何しろ王太子様の婚約者で、王太子様のためだけに学び育てと言われ、生涯王太子様のためだけにお仕えする事を期待された存在だったのだ。私もあの頃はそれが当然だと思っていたけど。違う生き方もここにちゃんとあったのだ。


 そんな風に刺繍と学校で毎日忙しく暮らして、ドレスもお風呂も無い庶民生活にもすっかり慣れ、お作法も言葉遣いもあらかた忘れて、あの婚約破棄の日から二年が経過した。私は十八歳になった。



 学校も二年もやると、子供達も大きくなり同時に進歩もし、単語だけではなく文法や文章表現にまで範囲が及んで来た。計算も教え始めていてこれも掛け算まで問題無く問題無く出来るようになっている。ここまで来ると遊びではなく完全にお勉強で、木の板に炭で一生懸命に書いたり計算したりする事になるので、子供にはどうだかな?と思っていたのだが、流石に全員では無いが勉強に興味を持った子供たちは頑張って付いて来てくれた。「アン先生にもっと教えてもらいたいから頑張る!」と嬉しい事を言ってくれる。


 ただ、ここまで範囲が広がると流石に教材が欲しくなってきた。本が欲しい。子供たちに本を読ませてあげたい。本を読めば文法が具体的にどう使われるかが分かるし、単語の語彙もあっという間に増えるだろう。


 しかし、本などとても手に入らない。本は紙に専門の方が何日も掛けて書き写すもので物凄く高価だ。昔の私の家には沢山あったが、今考えればあれは凄い事だった。その割にはお父様もお母様も碌に読んでいるのを見た事は無く、もっぱら私が読んでいたのだけど。試しに聞いて回ったのだが、相当な富裕層でもほとんど持っていなくて、あっても商売上必要なので無理して買った法律書か地理書くらい。勿論貸し出せないと言われた。無理も無い。


 困った。昔の友人だった令嬢なら少しは持っているかも知れないが、あれからもう二年も経ち、私の事など忘れているかもしれないから頼み辛い。買うのは論外だ。破産してしまう。簡単なものなら私が書いて書けない事も無い(現に今は板に簡単な短い文章を書いて教材にしている)のだが、板には書き辛いし重いため、数枚に渡って書くことは出来ない。やはり紙が欲しいのだが、紙はこれまた途方も無く高価だ。昔は友人と簡単に手紙のやり取りをしたものだが、あの紙切れ一枚が今の私の半月分の食費なのだと聞けば当時の私はどう思っただろうか。手紙を出すというのは銀貨を投げていたようなものだったのだ。


 私は色々考えたが、無い者は無いのだ。庶民生活も長くなり、不便には耐えるのが庶民生活の基本だと弁えているので、無い物ねだりはしても仕方が無いと分かっている。私は諦めて、せめて子供たちの役に立てるようにと、板にガリガリと、思い出せる範囲の昔読んだ物語や詩の一節を毎日毎日書いていた。


 その人が現れたのはそんな頃だった。



 その日、学校の授業を始めようとすると見覚えのない人がいた。男性だ。大人だ。


 大人が学校に来る事は最近でもたまにあった。単語を書いてくれ(この作戦も上手く行って、定型文なら問題無く書けるようになった大人は多かった)という人もいれば、やはりちゃんと読み書きが出来るようになりたい。ガキにも出来るんだから、と奮起してやって来る(そして挫折する)人もいた。だから大人がいる事には不思議は無いのだが、その男性は少し変わっていた。いや、凄く変わっていた。・・・ていうか、貴族でしょ、この人。


 何しろ衣服が上等だ。しっかりとした生地の上着にはびっしりと刺繍が施されているし、裾は腰辺りまで伸びているし、袖口は拡がり明らかに労働には不向きだ。何やら紋様の透ける薄絹のケープを羽織っているし、靴はやはり絹で出来ているだろう。


 明らかに庶民の着られるような服ではない。それはもう明らかだ。私の学校には相当な大商人の子供も来ている。その親御さんとは何度もお会いしたし、なんなら家にも招かれた事がある。しかし、その大富豪ですら伯爵以上の上位貴族と比べると生活レベルは大分劣るもんなんだな、というのが私の感想だった。しかし、この男性の衣服はラフではあるが、生地といい出来といい私の目からみてもケチの付けようがなかった。


 そして所作がいちいち優雅だ。立ち方、座り方。竹ペンを持つ手の動き。ああいう所作は教育されなければ絶対に身に付かない。そして私の知る限り、その様な教育を受けた庶民の男性はいない。ならば貴族に決まっている。


 その男性は私を見るとフッと微笑んだ。なかなかの美男子だ。赤茶色の長い髪を長く伸ばし、首のところで銀の髪飾りで結えている。男性がこんなに髪を伸ばしているなど、労働をしない階級だと言っているようなものだ。端正な顔立ちは少し色黒で、そこに緑色の瞳が妖しく輝いている。ふむ。元婚約者のアステリウス殿下は銀髪碧眼の絵に描いたような美男子だったけど、違うタイプの甲乙つけ難い美男子だわ。


 私は少なくとも上位貴族の当主と歳の近いご子息は全員知っているが、こんな美男子がいるとは知らなかった。というか私が知らないのはおかしいので、もしかしたら外国の貴族かも知れない。それがどうしてこんな下町の庶民向け学校にいるのやら。


 彼は私が書いた見本を読んで感心したような顔をし(つまり文字が読めている)、小さい子が遊んでいるゲームを見て驚き、私の授業風景を楽しげに眺めていた。・・・やり辛い。一体何しに来たのか。私は授業が一段落付いた段階で、その男性に声を掛けてみた。


「あの、貴方、貴族の方ですよね?」


 男性は驚いたような顔をした。


「よく分かったな」


 分からいでか。


「その、ここは庶民向けの学校です。貴方には学ぶ事は無いでしょう。申し訳ありませんが、お帰り下さいませんか?授業の妨げになりますから」


 男性は不満そうに鼻を鳴らした。


「金は払ったぞ?」


「授業料は見物料ではありません。お返し致しますからお帰り下さい」


 男性は少し不機嫌な顔をし、そして意地悪そうに顔を歪めた。


「そなた、私が貴族と分かってその態度なのか?貴族に楯突いてただで済むと思うのか?」


 私はムッとした。


「誇りある貴族にとって、庶民は護り慈しむものではありませんか。それを自分の横暴で罰しようとは何事ですか!恥を知りなさい!」


 言ってしまってから、流石にしまったと思った。ついうっかり貴族気分で口を開いてしまった。実際、庶民を虐げる貴族は少なくないと聞いているし、この男性がそういう貴族だった場合、私はともかく、セレスやハボック、下手をすると学校の子供達まで罰せられるかも知れない。これはまずい。私は慌てて謝ろうとした。


 ところが、案に相違して男性は呆然としたように目を見開いた後、恥ずかしそうに頬を染めた。


「そうだな。誇りある貴族にあるまじき態度であった。謝罪しよう。すまなかった」


「い、いえ、私こそ言い過ぎました」


「・・・流石というべきなのかも知れんな」


 彼は私にはよく聞き取れないような小声で呟くと改めて私の事を正面から見た。美男子の真剣な表情に私の胸は無意識に高鳴った。


「改めて名乗ろう。私はオルセイヤー・クロウド伯爵だ。女神のご加護による出会いに感謝を」


 彼は優雅に胸に手を当てて、綺麗なお辞儀をする。私は反射的にスカートをすっと広げて返礼をしてしまった。


「ご丁寧にありがとうございます。女神のご加護による出会いに感謝を。私はリュ・・・、あ、違う。私の名前はアンです」


 男性、オルセイヤーは面白そうに笑った。


「アン、ね。アン。ではこれからよろしく」


「これから?」


 私はギョッとした。まだ来るつもりなのだろうか。


「ふむ。其方の授業の邪魔はしないと誓おう。しかしながら私は其方が気に入った。また会ってもらいたい」


 ・・・貴族令息が女性に軽々に気に入ったなどと言ってはいけません!とまた言ってしまう所だった。私は何とか抑えてニッコリと微笑んだ。


「このような卑賎の身を気に入って頂けて恐縮ですが、私があなた様のお役に立てる事など無いと思いますけれど」


「ふむ、だが、私は其方の役に立てると思うぞ?」


 オルセイヤーはそう言って意味ありげに笑うと、その日はそのまま大人しく帰って行った。・・・何だったんだあれは。というか、クロウド伯爵なんて王国にはいないからやっぱり外国の貴族なんだわあの人。でも、近隣の貴族もかなり知っている筈なのに覚えが無い。かなり遠く国の貴族なのかも知れない。


 また来たらどうしようか。外国の貴族とは言え伯爵は高位の貴族だ。うかつな扱いは命取りになる。困ったなぁ。


 そう思いつつ迎えた次の学校開催日。案の定オルセイヤーはやって来た。意外なものを抱えて。


「本・・・」


 驚いた。しっかりした装丁の本が五冊も。オルセイヤーが持って来たのだ。オルセイヤーは重い本を持って歩いて凝ったのだろう肩を回しながら言った。


「貸してやるので教材に使うが良い。子供が読むのに適当なくらいの分量の本を選んである」


「よ、良いのですか?このような高価なもの」


「この間の詫びだ。それとこれで私はこの学校の出資者にもなったのだから、ここにいても良いだろう?勿論其方の邪魔はせぬ」


 ぬ、そういう狙いですか。正直オルセイヤーに居座られるのは困るのだが・・・。


「おー、これが本⁉」


「字が一杯!」


 既に子供たちが嬉しそうに本を開いている。私が熱望していた光景だ。それを見ればもうその本を取り上げてオルセイヤーを追い出すなど出来る筈も無い。私は諦めた。


「・・・分かりました。いても良いですよ。その代り、本当に私の邪魔はしないでくださいね」


 私が言うと、オルセイヤーはその精悍な顔をほころばせて嬉しそうに笑ったのだった。

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