第17話
翌日、食べ終わって何十年かぶりに大泣きして放心状態から寝落ちた私を叩き起こしたのは、エーデル様だった。
「…あ。リア!起きて。もう、お昼よ?起きて頂戴」
んあ?と寝ぼけ眼で起き上がると、エーデル様の綺麗な顔が呆れて私を見ていた。
「…エーデルさ、まっ!?え?あ?あっ!やっぱり私やらかしたんですね?ごめんなさい。すぐ出て行きますから!打ち首ですか?獄門ですか?本当に、ごめんなさい!」
「何をいっているの?悪い事なんてしてないのに、打ち首?とか無いから。とりあえず、ちゃんと起きて着替えてからいらっしゃい?昼食が始まっちゃうわ」
エーデル様は、心底「何言っとるんじゃ、こいつは」って顔をしてから、にっこりと笑って言うだけ言って母屋に帰って行った。
ガレさんに扉を開けて貰って母屋の食堂に入ると、すっかり定位置になったエーデル様の隣に座った。
その瞬間にお昼ごはんが、侍女さんによって運ばれてくる。食べ終わても、自分で食器を片づけることは無くって、ただ席を立つだけなのは未だに慣れないけど。
運ばれてきた食事を、挨拶もそこそこに口に運ぶ。この家の料理は、どれもが本当に美味しくて困る。村に帰ったら、きっと口が寂しくなってしまう。あぁ、ここの料理人に肉じゃが作って貰ったらどんな味だろう…
「ねぇ、リア。昨日ね、あなたが出て行ってしまってから、大変だったのよ?あなたの話に感銘を受けたと、たくさんの女性が私にあなたを紹介して欲しいと言ってきたの。昨日はね、貴族の方々だけじゃなくて、有力な商家の方や組合長さん達も来てたのよ。いの一番に、私の元に来てくれたのは冒険者組合の組合長の奥様だったわ。ご本人も冒険者として名を馳せたお方でね。ぜひっ!お会いしたいんですって。どうする?」
エーデル様は咽てしまった私をいたずらっ子みたいな瞳で見ると、楽しそうに笑っていた。
「リア、他にも新興貴族のご令嬢たちも君の作った物に興味があるそうだよ。君が田舎に帰ってしまう前に、エーデルと一緒にお茶に招待したいと何通か手紙を貰っている。行ってみるかい?」
領主様の言葉に今度は青ざめた私に、弟君が堪えきれずに腹を抱えて笑い出した。
「笑わないでよ…お茶会なんて、行ったことないんだから…私には笑い事じゃ無いのよ?もう…」
「だって、もうすぐ成人する女性が百面相なんて……ダメ…おもしろ…その顔は、外で見せたらダメだと思うよ?」
笑いを堪えながら説教くさい彼に、「しないわっ!」とツッコミを入れて領主様の方を向いた。
「エーデル様が付いてきてくださるなら、お受けします。でも、作法は教えてください…」
涙目の決死の覚悟を伴った私の言葉に、領主様まで肩を震わせる。何たる失礼な…でも、昨日失礼をしたのは私の方だと思うから、我慢我慢。
「じゃあ、もう少しは一緒に居られるわね。良かった。すぐに帰っちゃったら寂しいもの。必死でお仕事をしなくてもいいなら、少しは遊んで行って?私とも」
エーデル様がそんなことを綺麗な顔で照れたように言うから、私の推し尊い現象が脳内で大規模爆発するところだった。信也…こんなに頻繁にこの現象が起きていいのかい?教えておくれ…
「呆けてないで、どのお茶会に行くか相談しましょう?折角だから、のんびり庭でやりましょうか。リアは、ずっと工房に籠りきりだったんだし、日の光を浴びた方が良いわ」
との提案で、丁寧に手入れされた百花繚乱の庭の東屋でのんびり日向ぼっこしながらの作戦会議となった。うっかり、玉露とせんべいが欲しいと言いそうになった。
「とりあえず、私はね、新興貴族の成人前後のご息女たちが開く定期的なお茶会と各組合長の奥方が中心なって開かれるお茶会がいいんじゃないかと思うわ。個別に会ってたら、何年もかかりそうだもの。一気に終わる方が、あなたも気が楽でしょう?」
エーデル様の言葉に、コクコクと頷いてさっさとお茶会選考が終わる。一通りの注意点やどんな人が来るのかを聞いたり、流行りのお茶やお菓子の話をしたりと、昨日までと打って変わって穏やかな時間の流れる一日を過ごした…はずだった。
夜になってゲルゲンさんが訪ねてくると領主様の応接間に呼ばれて、商人につきものの大商談&清算会が開かれた。私の今回の収益は、前回のリルちゃんの花嫁衣装とその後の依頼の小物200個や服約50枚合わせた銅貨2500枚(金貨にして25枚)を遥かに超えて金貨35枚と言うものだった。衣食住のうち食と住をそろえて貰ってコレは流石に貰い過ぎだというと、安すぎれば領主と言う立場に泥を塗ると言われて引くしかなかった。結果、私の一日は、最後に爆弾を投下されることで締めくくられた。
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