第18話

もうしばらくの滞在が決まってからの私は、お茶会の服作りをエーデル様分と自分の分をこなしながら、織物屋のエルフばぁさんに妹さんと染色屋のドワーフのおっさんと食事をしながら布談義をしたり、手慰みに作った商品をゲルゲンさんと商談したり、エーデル様に乗馬を教えて貰ったり、中々に忙しくも楽しい日々を過ごしていた。

アベルが村に頻繁に帰っては両親に私の近況を伝えてくれているらしく、成人の儀までに帰ればいいとのお墨付きも貰った。それを考えると、後2ヶ月ほどはこちらに居てもいいことになる。着々とお金も稼いでいるし、お土産を沢山持って帰るのだ。

第一の推しであるリルちゃんにも会いに行きたいし、ここ数年でだいぶ改善したとは言えどまだまだ質素な村のみんなの服の仕立てもしたい。領都に来た時に、生活も服も雑貨も、こんなにも違うものかと本当に驚いて悲しくなったのだ。

まるで、戦後と令和程の違い。同じ領内で100年近い差が生まれているのかと泣きたくなって、ゲルゲンさんと領主様に格差改善を隅々まで行ってほしいと切実に訴えたほどの違い。

私はそれを、服飾関係から改善していきたいと思っている。それには、先ず布の話からだ。エルフの機織りばぁさん事「エレナリア」さんと軽装備職人の妹「レイアリア」さん、染め職人のドワーフ「ドレザーク」さんに、第一次産業の担い手を聞いたところ…魔物だった。魔物と言うよりは、ハーフ?魔人族なる方々が産業として行っているらしい。

自我を持つ魔物の進化系である魔人族は、この世界での大戦を経て人族やその他の種族との共存を目指し、織物の元となる羊の様なものや蚕の様なものなど多種多様な糸を世界に届けているとの事。滅多に合うことは無いが、別に鎖国している訳では無いから会いに行けば会えるらしい。一回行ってみたい…魔人族の国。頭の片隅に、書き留めておくと決めた。


そして、遂にやってきました。お嬢様たちのお茶会。私のはレモンイエロー、エーデル様のはエメラルドグリーンで、形をシンプルなカクテルドレス風の五分袖ワンピースで揃いにした。もちろん、エーデル様のドレスには、胸元から上半身を覆う様に花の刺繍をしてある。

どうしても元の素材の違いから、出来上がりには雲泥の差が出てしまう。私も少しは、農作業で日焼けした顔にも手入れをした方が良いのかもしれない。はぁ、ビタミン豊富な果物でもお茶請けに出ると言いな…

ご令嬢の招待状を屋敷の門で見せて案内される通りに庭に出ると、色とりどりのお嬢様たちが3つほどのテーブルの周りで小鳥の様におしゃべりしていた。

可愛らしくて賑やかで華やかで、やっぱり女の子たちが集まるとこうなるよねぇと思ってしまった。

「初めまして、皆さま。フローリアと申します。本日は、お招きに預かり、誠にありがとうございます。以後、お見知りおき下さいませ」

カテーシーと共に挨拶をして顔を上げると、餌に群がる小鳥たちの勢いと同じ様にワッとお嬢様たちが集まってきて、私は少し恐ろしくなった。

今日の衣装を褒めて頂き、出身地から生い立ちや家族構成に結婚の話まで、要不要の精査もできないほどの矢継ぎ早さだった。

何とかほぼ漏れなく答えて落ち着くと、エーデル様が笑顔で一気飲みできる温度まで覚ましたお茶を渡してくれる。エーデル様の優しさを身に染みるほど感じながら、はしたなくもゴクゴクと飲み干した私だった。

その後は、主催者のご令嬢とエーデル様の計らいのお陰で、娘時代の女学校を思い出させるような賑やかで楽しい時間を過ごさせてもらった。

何人かのお嬢様たちから衣装や小物の依頼を頂戴して、それぞれ後日打ち合わせに伺うことを約束してお茶会を後にした。

昌洙様邸までの帰りの馬車の中で居眠りをしたことは、エーデル様と私だけの秘密になった。お茶会の間中、終始笑顔を崩さなかったエーデル様も実は結構疲れているのだと耳打ちで教えてくれたときは思わず玄関先で笑ってしまったけど、それも二人の秘密にすることにした。


お次は組合長たちの奥方たちによる定例会と言うことで、詰襟のシャツの襟に立体刺繍で首が隠れるほどの高さまで縁取りをしてデコルテ部分に細いタックの2本入ったお揃いの白いシャツを作った。それに合わせて、バーバリーチェックのロングジャンバースカートをハイウエスト切り替えでベージュベースとカーキベースの2枚作成した。スカート部分の両脇のプリーツさえ上手くいけば後はお手の物なジャンバースカートだが、バーバリーチェックをエレナリアさんい説明するのが大変だった…おぼろげな記憶を頼りにリエがお気に入りだった柄を思い出して絵にするのは心底疲れた。

でも、流石熟練の織り手で織ったことがない柄でもサササっと織り上げてしまう。ほくほく顔で生地を持ち帰ってからは、テンションが下がり切らずに徹夜して完成させてしまった。

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