第15話

この三か月は怒涛のように流れて行った。

マーメイドドレスの生地織り工程視察、染め工程視察、採寸、型紙作り、縫製、調整、刺繍、調整、最終チェック、着付け確認、ドレスだけでもてんてこ舞い状態。

結局、私はエーデル様と領主様のご厚意で離れを工房にさせてもらって、荷物を取って来るだけの帰省になった。

食と住をそろえて貰えて、仕事としてお金も貰える、仕事量以外はクリーンなホワイト企業だ。

時折アベルにも会えるし、困りごとはゲルゲンさんのお店に相談に行けるのが有難い。

ゲルゲンさんのお店は、思ったよりも大規模だった。領主様のお屋敷の1/4程の大きさでも扱う品数は豊富で、人脈もあって顔が利く。私の先生は、思った以上の大商人だった。

そして、私が欲しがっていたオーガンジーは存在した。正確には違うもので、高級な装備に使われる物の様だ。

蜘蛛の魔物から採取できる糸を使って織られるもので、軽くて柔らかく高い魔法防御力を持つことから魔導士系の人たちに人気の素材だとのこと。

「それをあろうことかドレスに使うなど、お前はアホか?」とは、機織り職人のエルフ族のばぁさんのお言葉である。

初めて会った人間に何とも辛辣なお言葉だ。しかも私はエルフ族やドワーフ族獣人族などに会うのも初めてだったしね!会うまでは妙なワクワク感があったのに、話したら現実に引き戻されてガックリ来た。

だが、イメージラフを見せたら軽装備を専門に作っている妹に見せてやりたいと引っ手繰られそうになった。

何やら最近はスランプに陥っていて、新たな風を吹かせてやりたいとの美しい姉妹愛だったので、作り終わったら必ず挨拶に行くからと宥めて何とか生地をゲットしたのは、私頑張ったと思う。

何はともあれ生地ゲットで、染め職人のドワーフのおっさんの元に足を運んでからもひと悶着。ドレス本体の生地について私の希望は良く晴れた空の下で輝く海の色なのだが、「そんなもん作れるか」と、最初に一蹴された。まず、ラメ的な加工をする考えがなかったみたいだ。

協議を重ねた結果、水色から青色・紫を経て白に近い薄紫とグラデーションを付けて染めあがった布に、糊となる魔物からとれる液を吹きかけ細かく砕いて粉状にしたガラスを吹き付けて貰うことにした。重さも考えると一喜一憂しながらの試行錯誤で、何だかんだ3日労した。

生地と染めをクリアして、採寸は協力的に終わり、いざ!と意気込んで取り組む。

マーメイドラインのグラデーションのオフショルドレスは、上半身を背面腰から前にオーガンジーをぴったり沿わせて持ち上げ、胸の谷間あたりで捻りを入れてから胸を覆う様に左右に開いてオフショル部分を作った。背中中央で大きなリボンを作れるように隠せるくらいの大きさでベルトループを取り付けてリボンを結ぶ。ふんわりと下に垂れるリボンの端は床に擦るほど長くして、トレーンとして人魚姫の尾びれの様に広がってくれるだろうと期待する。

下半身は、ぴったりと太ももに沿った布を膝上で正面をたくる様に持ち上げて切り替えを作った。切り替えから下はガッツリとゆとりを持たせて裾を広げたら、正面にはすらりと長いエーデル様の脚線美がチラリと見える様にスリットを入れて動きやすさと両立し、オーガンジーで作る胸のヒダとリボンの端とのボリュームのバランスに四苦八苦しながら本体の完成。刺繍も胸元から裾までのバランスを見ながら、生地に合わせて薄紫の切り替えた裾の下の部分に波が寄せて返すのをイメージしながら白い糸で細かく、刺繍を立体的に仕上げた。

揃いの布での髪飾りまで含めて成人祝いのパーティの3日前に完成させた私の状況を、信也風に言うなら「HPはゼロ」だ。

ドレスを実際に着てもらい、領主様・ゲルゲンさんと弟君にお披露目してもらう。本番さながらに髪を結い化粧をして宝石を身に着け、ゆっくりと扉から領主様の前に進み出るエーデル様は正に美しい以外の賛辞を受け付けないほどだった。

領主様は先走って大泣きするし、ゲルゲンさんは絵を描き出すし、弟君はグルグルとエーデル様の周りを歩き出すし、なんとも「カオス」な状態だ。

まぁ、当の本人は随分気に入ってくれたみたいだし、私的にも達成感が凄かったし、満足できる出来に仕上がった。後は、私が本番で失敗しなければそれでいぃ…?出席する自分の服を考えてなかった…どうしよう…

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