第7話

「ではでは、ゲルゲンさん、やりましょうか」

場所を私の家に移動して、商談する居間には私と母さんが並んでいた。

「お手柔らかにお願いしますよ?リア」

ゲルゲンさんが笑いながらも抜かりのない男だと、私は知っている。

「先ずは、前回の分の支払いから。預かったのは、髪留め25個とリボン25本。全て完売です。私の手数料1割を引いて、銅貨112枚と半銅貨5枚。お確かめください」

じゃらりと銅貨の入った袋を差し出してくれる。私は、ちゃんと枚数を数えて母さんに差し出した。

流石に成人してない以上、大人に管理してもらうという体裁は大事だ。母さんも未成年者の商談は心配だろうから、いつも付き合ってもらっている。

因みに、銅貨10枚で銀貨1枚に換算できるけど、この村では大きい価値の硬貨は滅多に使わない。それをわかっていて、ゲルゲンさんはいつも銅貨で支払ってくれる。

「確かに。さて次は、こちらから。いつも通り髪留め25個、リボン25本、それからコレは新作!その名も、サッシュベルト~!」

某お子様に人気の青い動物型ロボットのキャラクターの様に、掲げて見せた私を哀れみの目で見る大人が2人…切ない…

「で、サッシュベルトとは?大きなリボンの様な形ですが、ベルトと言うからには装身具ですか?」

「コレは、腰に巻いて使うのもですね。スカートの切り替え部分に巻いて装いを変えたりするオシャレ装身具です。これだけで、いつもの服も随分趣きや印象が変わるんですよ?」

私は、実際に自分の腰に巻いて実演してみた。

今日は、シンプルな生成りのワンピースを来ているから、効果が丸わかりなはず!

「ほほぅ…随分と変わりますね。腰も細く見えて、サッシュベルトの柄も引き立つ。売れそうですね。おいくらで?」

「生地も多く使うし、刺繍も多いく手間もかかって、量産は出来ません。できる限り利益を出したいので、売り先を最初は限定して貰えませんか?」

「ほう…どこにです?街や村の娘さんや奥方では無いとしたら…娼館ですか?」

「さすがです。腰が細く見えるということは、女性らしさが際立つと言うこと。つまり、より妖艶にも貞淑にも魅せられる。そこで、男性の目に止まれば、伴侶や恋人を取られたくない女性も気になる。今お見せしているのは、お店のお姉様方用のもの。今後折を見て、奥方や娘さん方用にもっと清楚な物を作れば、2段構えになりませんか?」

「なるほど…分かりました。今回は、商売女性用に値段も高く設定しましょう。ご希望は?」

「1本、銀貨2枚。ふっかけすぎですか?」

「いえ、売れるでしょう。私の手間賃は、1割ですか?」

「その顔は、セコいですね。そんな素敵笑顔でも、まかりませんよ?でも、売り場が売り場なので、1割2分。これ以上は、無理です。素材の仕入れもゲルゲンさんからなんだから、利益は十二分に出るはずですよ?」

私もゲルゲンさんに負けじと、ニッコリと素敵笑顔で応戦した。

「それは、横暴です。私は、暴利を貪る極悪人じゃありませんよ?それに、あそこは、簡単に信用を取れる場所じゃない。それなりの根回しも必要です。必要経費分も考えて貰えませんか?1割5分!」

「それこそ、横暴です。ゲルゲンさんの手腕は、知ってますよ?最初に私の刺繍に目をつけて、商品化し毎回売りきってくる。それに、ゲルゲンさんは男前で有名な商人です。あちらから、何かないかと流行に敏感な女性は寄ってくるはず。1割3分!」

「ふぅ…わかりました!1割3分、承りました。売ってください」

勝利!!ガッツポーズの私に、ゲルゲンさんと母さんの苦笑いを向けられても、私は勝ったのだ。

昔、自分で男前で有名だと自慢したことを悔やむがいい。ふふふ…アラフォーになってもモテる男は辛いですね。

本当は、1割5分まで釣り上げられると思っていた。でも、ゲルゲンさんは優しい。有難く、1割3分でお願いする。

「リアくらいですよ?私に、ここまで値引きさせるのは…私は、どうやらあなたの刺繍に弱いらしい…本当に美しいですね」

渡したのは、精魂込めて作った5本。どれもこれも、宣伝用のかなりの力作だ。生地もなるべく高級で手触りのいいものを、糸も魔法生物から取れる素材で染めた艶のあるものをゲルゲンさんに頼んだものだ。

少量でも、かなりの材料費を払っている。売れなきゃ困る。

「では、次はこちらですね?今回もいいものを厳選して来ましたから、覚悟して下さいよ?」

そして、ゲルゲンさんの反撃が、始まった。

広げられた商品を前に、私とゲルゲンさんの戦いはまだまだ終わらない。

結局今回稼いだお金の7割以上をゲルゲンさんに支払い、精算と仕入れの戦いは終わった。

それでも、銅貨30枚を手元に残した私を、母さんは歓喜の抱擁で褒めてくれた。

30枚の銅貨のうち25枚を母さんに渡して、私は5枚の銅貨と半銅貨5枚を自分の貯蓄にする。

自分の夢のために、今からコツコツ貯めなくちゃ。

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