第6話
「リア、誕生日おめでとう。何がいいか思いつかなくて、森でたくさん果物を取ってきた。こんなんで、ごめんな?」
アベルから、籠に入った沢山の果物を受け取ってお礼を言う。
「大丈夫、ありがとう。嬉しいよ!私の好きなのばっかりだもん」
8歳の誕生日は、母さんから裁ちばさみ、父さんから小刀、兄から果物を貰った。
母さんは私の裁縫の腕をリルちゃんの一件から村中で褒められたらしく、上機嫌でねだった裁ちばさみを通ってくる商人に頼んでくれた。この年末からは、みんなの服の仕立て直しは手伝わせてくれるそうだ。
父さんは、獣の革も仕立ててみたいと言ったら、それなら解体を学べと解体用の小刀をくれた。嬉しいやら、嬉しくないやら、どうしたものか…多分一番素直に喜べたのはアベルのくれた果物だ。
年末の前に来るアベルの誕生日には、しっかりお返しをしなくっちゃ。
あれから、ちょこちょことアベルに何になりたいのか、何が欲しいのかのリサーチを掛けている。今のところ村で父さんの畑仕事を手伝うつもりみたいだけど、多分本当は何か違う夢がある。
今のアベルは、昔リエが進路に迷っていた時と似た顔をしている。あの時あの子は、頭が良かったのにうちが田舎の貧乏だったから、都会で新聞記者になりたい夢を諦めた。
諦めた娘の顔を見た時の私は、何とも言えない苦みで胸が苦しかった。だから、母さんのためにもアベルのためにも、諦めなくていいものは諦めないで欲しいと思っている。何とかアベルの本心を聞き出せないものか…
そうこうしているうちに、来てしまったアベルの誕生日。私は、アベルがどんな道を歩んでもいい様に、丈夫な革でウエストポーチを作った。
革製品の制作には太い針と丈夫な糸が必要で、私は初めて自分の技術を武器に村で営業をして回った。子供服の繕い物、奥様方の服の刺繍、泥汚れ落としと働いて、稼いだお金はほぼ、革と針と糸に消えた。
後悔は、していない!おかげで、自他ともに認める、かっこいいものが出来たから。ケチらなくて良かったぁ…
「お誕生日おめでとう!アベル」
「ありがとう、リア。お…おぉ!すっげー!かっこいい!!ありがとう」
喜んでもらえて、よかった…でも、そんなに抱き締めたら痛い…アベル、バカなの?
「父さん、俺さ、剣が習いたい。父さん、冒険者だったんだろ?教えて欲しい。俺も冒険者になりたいんだ。もちろん、ちゃんと手伝いもする。だけど、成人したら村を出て領都に行く」
アベルは、真剣だった。父さんも母さんも、うすうす気づいていたみたいで顔を見合わせて、「ほら、やっぱりね」の顔をしている。
「わかった。だが、冒険者としてやっていくなら、剣だけじゃだめだ。全部教える代わりに、畑仕事の手は抜くな」
父さんは、諦め顔でそう言ってアベルの頭を軽く小突いた。母さんも苦笑いだけど、リエの時の私とは違う顔だった。
私も、ちゃんと考えておかなくちゃ。あと4年で修業期間に入るし、成人まではあと7年。長いようで短いってわかってる分、計画的にやらなきゃね。
それから4年は、あっという間に過ぎて行った。アベルは去年15歳になって、あっさりと村を出て行った。
あの時は、母さんが夜通し泣き続けて大変だった…私がリエとリカを送り出した時ですら、あんなに泣いてない。
でも、うっかり子供の分までご飯を作ったりお皿を出し間違えりして、旦那に苦笑いされたっけ…
私はと言えば、読み書き計算はトップレベルで教えることが無いからと、先生の代わりもさせられる始末。果ては、村に来る商人からも計算を任されるほどだった。商人はこの村が出来てからずっと村に足を運んできてくれている人で、この村の22年を見守ってきた人だ。
結構、村人からの信頼も厚く、私も本や布・糸と流行りの情報をやり取りしてもらっている。
「ゲルゲンさん、こんにちわ。今日は、いつもより遅かったね。どうしたの?」
「やぁ、リア。途中で、大熊が出てね、討伐のために足止めを食らったのさ」
商人ゲルゲンさんは、困り顔で話してくれた。
「聞いておくれよ、そのせいで仕入れが出来ない上に食料を買いたたかれて商売あがったりだったんだ。ここに持ってくる食品も少なくなってしまったよ。村長、怒るかな?」
「ふふふ…怒られないって知ってるくせに。でも、災難だったね。ゲルゲンさんには怪我とかないの?元気そうだけど…」
「ありがとう。大丈夫さ。では、今回もよろしく頼むよ?リア」
「わかってますとも。商談しましょ。そうしましょ」
私とゲルゲンさんは、村長の家で商談。その場に立ち会って書記と会計をゲルゲンさんの助手として行うのが、私の日雇いアルバイト。報酬は、私との個人的な商談にイロを付けて貰う事。この後の個人的な商談が、楽しみです。
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