第4話
レンドは、前に見た時より背が高くなっていた。リルちゃんを抱き上げて私の頭を撫でる様は、13歳とは思えないほど大人びていて、私の兄アベル11歳とは雲泥の差があるように思えた。
「リル、お出迎えありがとう。リアちゃんも」
そう言って微笑む顔は、隣のリルちゃんの笑顔とそっくりでうっかり見入ってしまったほどで、兄妹並べて額縁に入れたいくらいに輝いていた。
「お兄ちゃん、お土産は?忘れたりしてたら、お家に入れてあげないんだからっ。ね、早くお家に帰ろ?」
お子様らしい自己中な矛盾発言も笑顔でスルーして、ただ「妹かわいい」だけのレンドと並んで村長宅にお邪魔した。
村長宅は、他の家と造りは変わらない。ただいくつか部屋が多くて、執務室・客間2つ・使用人部屋2つ・裁縫室があった。厨房も来客をもてなせる様に大きく作られていて、お腹のすく匂いが漂っていた。
「リアちゃん、後でお母さんのボルカパイ、おやつに食べようね!お兄ちゃんも」
「久々だから嬉しいな。領都では、甘味はあんまり食べれなかったからね」
2人に微笑まれては、素直に頷くしかない。うん、楽しみにしておこうっと。
「さて、リルのお待ちかね。お土産の披露だよ。先ずは、父さんと母さんに。蜜花のお茶と、封印用の蜜蠟。蜜蝋はね、魔法が付与されている重要書類用だよ。そして、エレナとマリク用のいい香りの石鹸と包丁の砥石。エレナの手荒れのために、肌に優しい石鹸を探してきたよ、使ってね。砥石は、マリクのおすすめ工房アガレンザの物だよ。さて…最後は…」
それぞれから感激の涙付きのお礼を受けとりながら、お預けを食らっていたリルちゃんの顔を見てレンドはにっこりと微笑むと、大げさな動作で膝をついて小さなお姫様に布一反を捧げて見せた。
綺麗な布に、まるでどこかの騎士のような振る舞いとお姫様扱い。そりゃ、お兄ちゃん大好きっ子が育つ訳だ。
小さなお姫様は、布ごとレンドに抱き着いて、喜びを体中で表現していた。
レンドはリルちゃんを抱き締めて頭を撫でて、しばらく微笑ましい光景が繰り広げられていた。
私は、場違い感しかないのだけど…しかし、中々に豪快なお金の使い方をしてきたなぁ…武芸の修練のために冒険者登録もしてるって聞いたけど、冒険者は儲かるのかしら?将来、冒険者もアリかな?
でも、武器なんて使ったことないや…魔法は、滅多に使い手が居ないレアな物みたいだし…私には無理かなぁ。父さんにも母さんにも楽させてあげたいけど、なんかないかなぁ。
それぞれみんなが落ち着くと、奥様のボルカパイとお土産の蜜花のお茶を一緒に頂いた。それはそれは、この世界で初めて食べる甘くておいしいパイだった。砂糖は超高級品、そしてそれを日本で作るほどには使わずとも多く使うパイは超超高級品。
開拓村の貧しい村人の私には、脳みそを揺さぶられるほどの衝撃的甘さだった。
お菓子作りの好きだったエリが作るのを見ていた時には、砂糖の量にうんざりしたけど…今となっては、甘いは幸せだわ…
村長宅でも滅多に出ないみたいだけど、作れるのは特権階級って感じね。
「ねぇ、リアちゃん。お母さんの裁縫室で、布を見ない?いいでしょ?お母さん」
「いいわよ。私もリアちゃんのお裁縫、興味あるもの。一緒に行くわ」
と、言うことで甘味を堪能した後は、男達はそっちのけで女の世界にどっぷりハマり込むのだ。
お土産の布は、この世界でよくある草木染の薄紅色に染められた布だった。よくあると言っても、染め布は高級品の部類だけれども…
桜を思い出すような色の無地の布で、私はサコッシュ風ポシェットとサッシュベルトにリボン・ハンカチを作ろうと思う。一反もあれば、子供用の大きさならそこそこ出来るし少々の余りもできるだろう。
作品の相談をして、縫い糸用に奥さんの持っていた糸を少し貰って、刺繍用の糸も何色か貰った。
奥さんは、可愛い娘のためならばとこの村では貴重だろう糸を惜しげもなく選ばせてくれた。
お揃いの刺繍でサッシュベルトとリボンを作ればいつもの服も様変わりして目新しくなるだろうし、普段使いできる模様にすればポシェットとハンカチはヘビーローテンションだ。
ミシンがあれば、この場で一気に仕上げられるけどこの世界にそんなものは無いし、せっかくならゆっくりじっくり納得できる出来の物を作りたい。
しばらく時間を貰うね。と、前置きして奥さんに布を作りたいものに合わせて切ってもらった。流石に裁ちばさみは7歳児には危ないと、取り上げられたからだ。
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