第3話

針と糸を持った私は、最強なんじゃないだろうか?

7歳になった私は、学校では成績優秀(だって、年をとっても算数ならわかるし、文字を覚えるのも頭が若返ってるから楽しいもの)だし、可愛くてこの世界では斬新な持ち物のおかげで大人から子供まで女の子たちの注目の的だし、ちょっと天狗になっちゃいそう。

「リアちゃん!今度ね、お兄ちゃんが返ってくるときに綺麗な布買ってきてってお願いしたの。だからね、ハンカチと髪飾り作って欲しいの。あのね、お礼はね、余った布とお母さんのボルカパイよ。ダメかな?」

私をリアちゃんと可愛い声で呼んで、かわいい事を言うのは、村長の娘8歳、リルちゃん。明るい金髪の波打つ豊かな髪をハーフアップにして、いつもお洋服とお揃いのリボンを着けているおしゃれさんだ。

兄のレンド13歳は村長になるための勉強を、領都の寄宿舎学校でしているという。同じ明るい金髪の子だけど、前に一度会った時には少し大人しく優しい印象だった。王都の学校で、いじめられたりしてないと良いけど…と、おばあちゃんの私なら心配になるタイプの子だ。

そして、リアちゃんは、その兄に種まき期の長い休みに入る帰省の時にお土産をねだった、と…綺麗な布に触れて作れて余りが貰えて、尚且つ村長婦人の手作りのリンゴに似た果物のパイが食べれるならば!やりますとも、やりますとも。

小さな拓かれたばかりの開拓村では、塩も砂糖も超がつく高級品だもの。密かに聞こえてくる、「奥様は浪費家」との噂にも耳を塞ぐわ。

因みに、奥様は大きな街の元お嬢様で、村長に一目ぼれしての駆け落ち婚で、裁縫が得意で、リルちゃんの服は全て奥様が用意しているらしい。その部分では、ちょっと色々聞きたくてお知り合いになりたい私である。

ま、とりあえず、パイを貰ったら、家族で分けて食べよ~っと!美味しいものは、みんなで食べなきゃつまんないものね。

リルちゃんに、いいよ!と笑顔で請け負って、今日の授業が終わった学校になっている小さな小屋から飛び出した。

綺麗な布とボルカパイが楽しみで、小躍りしながら家路を急ぐ私は傍から見たら頭のおかしい子に見えただろうな…お猿さんでもできるけど、とりあえず反省。

ここ最近、私の感情や感じ方が体の大きさに引っ張られてるような気がする…精神が肉体に合わせようとしているのか、どうなのか…記憶の混濁や思い出せないなんてことは、ほぼ無いから、まぁなんでもいいんだけど。

私って、転生前の子供時代もこんな感じだったかしら?それは、思い出せないわぁ…


そんなこんなで日々は過ぎ、今日はリルちゃんの兄レンドが種まき期の休みで返ってくる日。村長とリルちゃんと奥様と、なぜか私まで呼ばれてレンドの出迎えに出ている。

村長を継ぐ子として領都で勉強していると言っても、この村は出来たばかりの開拓村。種まきと収穫は、村総出じゃないと終わらない。

そういう村は結構あるらしく、領主様が「お手伝いに帰りなさい」とそこそこ長い休みを作っているらしい。

「リアちゃん、お兄ちゃんはどんな布を持って帰って来るかな?」

ニコニコと少女らしく可愛らしい笑顔が弾けるリルちゃんに、どんなのだろうねぇ?と笑顔を返して村の入り口の門らしきアーチの手前で村の外を見ていた。

前日に届いた知らせ通りなら、もうすぐ領都からの馬車がレンドを乗せて帰って来るはずだけど…待ってるだけなのは、飽きる。リルちゃんも手持ち無沙汰で、地面にお絵描き始めっちゃったわ…

「見えた!あなた!リルフェミア、リアちゃん!レンドよ!帰って来たわ!」

奥様が、滅多に見せない興奮顔でまだまだ小さな陰でしかないだろう馬車を見つけた。母の愛ですな…私には、見えませんでしたとも。

少しすると、やっと私の目にも見えるほどの小さな陰が、どうやら近づいている様だと思えた。

「リアちゃん、お兄ちゃん帰ってきたね!馬車だね!」

レンドと元から仲良しだったリルちゃんは、大好きなお兄ちゃんが返ってくることもお土産以上に楽しみだったのかもしれない。馬車が大きくなるにつれて、大はしゃぎで可愛らしい…これが信也の言っていた、推し尊い現象なのかしら?

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