第2話
6歳の誕生日、両親から何が欲しいかと聞かれた私は、捨てるくらい汚い布と父さんの親指位の太さで母さんの指先から肘くらいまでの長さの棒きれの先を少し削って平たくして縦でも横でもいいから2つ穴を開けてくれと頼んだ。
勿論、盛大に首を傾げられ疑惑の目を向けられ、何度も何度も確認されたが、無言の笑顔という圧力を行使して何とかお目当ての物を手に入れることに成功した。
貰ったのは、兄アベルの小さくなった寝巻になっていたシャツとズボンだったはずのくったくたになった色褪せた綿の布と、父さんが要望通りに拾ってきて削ってくれた木の棒。
目の前でびりびりと破り始めた私に、3人は驚きを隠さずに体を張って止めに入った。
私は、何とか3人を宥めて目的の物を作成する。
「出来たー!じゃんっ!はたきの完成っ」
裂いた布をまとめて木の棒に括り付けただけの、お手軽簡単掃除道具。転生前は、新聞紙でも作っていたけど、ここには紙が無いかお高いみたいだし。
にっこにこの私を、何とも言えない目で見る3人に使い方を伝授。
私が天井の梁と棚の上の埃を気にしていたことも、母さんが忙しすぎて掃除に手が回らないことも、普段からやっていれば年末に父さんが大変にならないことも、しっかり子供らしく伝えた。
きっと、お前何者?疑惑は、みんな感じてるだろうけど…言っていいのか悪いのか、転生者ってどんな扱いなのかしら…?
「母さんのために作ってたのか…フローリア…お前、いい子だな」
「あのね、父さん。私、別にいい子じゃないよ?母さんに楽させてあげたいのは本当だけど、私が作りたかったの。本当はね、裁縫とか刺繍とか編み物とかそういうのもやりたいの。可愛くなるんだよ?余った布や毛糸も無駄にならないし、冬の間の手作業にしたら売れるかもしれないでしょ?だから、自分のためだよ?」
私を抱きしめて、うっかり感動の涙をボロボロと零しそうな父さんを泣かさない様に、無駄に必死になってしまった…まぁ、本音なんだけど。
転生前のように、日がな一日、編み物と刺繍と裁縫で時間を使いたい…あぁ…ポシェット欲しい…ワンピースも作りたい…孫が全部男の子だったから、女の子の物は遥か昔にしか作ってなかった。
可愛い色の布に刺繍したい、花柄や蔦模様も綺麗なビジューも…父さんより、私が泣きそうだよ。
6歳の誕生日以降、私の前世を何だかんだとはぐらかしながらも、はたきに始まった私の快進撃は7歳の誕生日に念願の針と糸と布をゲットするに至った。
針も包丁もハサミも刃物は一切触らせてもらえなかったけど、母さんのお古の綿の服を裂いて自分用のTシャツヤーン風ポシェットを作ったり、父さんとアベルの汗と泥汚れを馬の世話用のブラシと簡単な石鹸を作って綺麗に落としたことが評価されてヤバい汚れの時には呼ばれるようになったり、父さんの大事にしまっていたお酒をうっかり発酵させてできたお酢を柔軟剤代わりにして汗拭きを柔らかくしたのが喜ばれたりと、ポイントを稼いできたのが功を奏したみたいだ。
やっと手に入れた、針は大事に大事にするんだ!
1本の縫い針と白い縫い糸を胸に抱き締めて何を作ろうかとニヤニヤしている私にみんな呆れ顔だけど、気にしないんだ!だって、今は7歳のお子様なんだもの!
よく考えたら、すごく幸せよ?これから死ぬまでの長い時間を針と糸を触っていられるのだもの。転生前の私が本当に自由に好きなものを作れたのって、子育てが終わって娘たちが独立してからだもの。それを考えたら、子供の頃から寿命までの時間を使えるなんて、幸せでしかないわね。
2人の娘たちにも色々とたくさん作ってあげたけど、まだまだ孫やひ孫や自分のために作りたかったものはあれもこれもと沢山ある。
折角なら、お仕事にしてみてもいいかもしれない。自分の洋裁店なんて素敵じゃない!縫物や編み物を教える先生も、ちょっとやってみたいわね。
お店で作ったり、売ったり、教えたり、あぁ…心が躍るわ!!
決めたっ!私、今世は裁縫屋さんをするっ!見てて頂戴!エリ、リカ、信也、誠、隆司、隆司のお嫁ちゃんもひ孫のあっくんも、ばあちゃん楽しんでお裁縫するからね!
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