マキナプレスト国のエラーマシン

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 マキナプレスト国。


 その国は、ずっと戦いを行っていた。


 きっかけは、何が原因だったのか分からない。


 だが、当時その国には指導者に適した人間が二人いた。


 国の人々は自然と、そのどちらかを選ぶ事になる。


 それが、徐々に争いへと発展し、国を真っ二つに分断するような戦いになってしまった。


 いがみ合い、罵り合うだけの期間はまだましだった。


 互いにこぶしを握り合ってからが、歯止めがきかなくなった。


 武器を、機械を、兵器を。


 振るう力が大きくなって、気が付いたら誰にもとめられなくなってしまっていた。






 その国に住むとある男は、そんな争いをどうにか止めたいと思っていた。


 同じく思いの仲間をあつめて、人々に武器を置くように呼びかけていった。


 しかし、人々はそうはしてくれなかった。


 親しき人を亡くしたから復讐を。


 そう叫ぶ人が多くて、止まる事ができなかった。


 だから男達は、裏切り者と言われて、激しく弾圧された。


 男達は次第に減っていって、最後残ったのはその男だけになった。






 もう疲れてしまった。


 争いは誰にもとめられない。


 争いを求める心が強すぎて、鎮める事ができない。


 男は嘆いた。


 だから、国を出る事にした。


 国の現状には嘆いているが、一人の人間が頑張ってどうにかできる問題では、もはやなかった。


 そのままそこにいたら、男はじきに、殺されてしまうだろう。


 だから、秘密の道を通って国を出る事にした。







 国を出て、遠くから故郷を眺める男。


 しかし、悠長にしていられる時間はなかった。


 遠くから、小型の機械が、飛来してきた。


 丸い球体のそれが、男を狙っている。


 とりつけられた銃が火を噴いた。


 男は一生懸命その場から逃げた。







 逃げて、逃げて、逃げ続けて。


 男はものかげに身を潜めていた。


 ややあって、そこに追手の機械がまわりこんでいない事を知って安堵する。


 そこは放棄された、昔の町だった。


 男は、今にも力尽きそうな体で、人のいない町をさまよい続ける。


 そこは、機械の文明がまだそれほど発展していなかった頃の町だった。


 電波の状態が悪く、連絡機があっても、どこからの通信も入ってこない。







 男は身を休めるために、大きなホールに入った。


 しかし、踏み入れたその場所には声がかかった。


「ヨウコソ、ヨウコソ」


 そこには人はいなかった。


 その代わり言葉を喋る、機械はいた。


「オセワイタシマス。オセワイタシマス」


 けれど、その機械は攻撃してこない。


 かいがいしく男の世話を焼いた。


 それは、そういうプログラムが施されたまま、野良で徘徊している機械だった。


 たまに、使えなくなった機械を、旅の途中で捨てる者達がいる。


 そういった類だろうと推測した。


 男は、やがてその機械に心を許すようになった


 機械に心はないから。


 争いはきっと起こらないだろうと。


 そう思って。


 争いの命令さえなければ、戦わずに済むだろうと。


 そう思って。


 そうして、ボロボロの男はそこに住み着き、機械と共に暮らす事になった。







 男の予想通り、機械は昔のプログラムにしたがったままだった。


「オショクジヲ、オモチシマス」


「オソウジヲ、イタシマス」


「オセンタクヲ、サセテイタダキマス」


 だから、ずっと平和だった。


 それが、ずっと、ずっと続くから。


 そのままずっと平和であると、思うほどだった。


 けれど争いは、起こってしまう。


 人と人がいなくても。


 争いは起こるものだった。







「ニゲテ、クダサイ」


「ニゲ、サイ」


「プログラム、エラー。プログラム、エラー。脱走者を確認しました。本来の任務に戻ります。排除します」


 機械は、ある日突然男を攻撃してきた。


 マキナプレスト国の脱走者だからと、攻撃してきた。


 そこで初めて男は、思い違いをしていたことに気が付いた。


 心がなかったから、争いが起きなかったのではない事に。


 心があったから、プログラムをねじまげていた事に。


 そこにいた機械は、逃げてきた脱走者を始末する任務を帯びていた。


 けれど、心があったから、プログラムをねじまげて見逃してくれていたのだった。


 人と人がいれば争いは起こる。


 けれど、人と人がいなくても争いは起こった。


 ならば何が争いを起こすのか。






「任務完了、任務完了。本部へ、帰還します」


 男、その理由には、最後までたどり着けなかった。




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